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春の国政3補選、「東京15区」の序盤戦の情勢と今後の展望

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:イメージマート)

 3月に入りました。いよいよ来月4月は、国政補欠選挙の時期です国政補欠選挙の時期です。今年4月の補欠選挙は、衆議院島根1区、長崎3区、東京15区の計3選挙区で行われる予定です。まだ全ての選挙区で候補者が出揃ったとはいえない状況ですが、投票日(4月28日)まで残り2ヶ月を切った序盤戦における情勢と今後の展望をみていきます(島根1区長崎3区も別稿にて解説をしております)。

衆議院東京15区の構図

 東京15区は、柿沢未途衆議院議員が、昨年の江東区長選で公職選挙法違反の疑いで起訴されたことをうけ、議員辞職したことが補選執行事由です。現時点では、日本維新の会が新人の金澤結衣氏を、日本共産党が新人の小堤東氏を、日本保守党が新人の飯山陽氏の擁立を決定しています。

 自民党は現時点で候補者の擁立に至っていません。東京15区は、先の江東区長選挙で当選し、その後公職選挙法違反で在宅起訴された木村弥生前区長の父、木村勉氏の地盤でした。その後、柿沢未途氏や秋元司氏らが争っている保守分裂選挙区でしたが、秋元司氏がIR汚職やIR汚職に関連する証人買収などで複数回逮捕された一方、柿沢未途氏も前述の通り江東区長選挙の公職選挙法違反で逮捕・起訴されたことなどから、保守分裂の影響は残っているといえます。

 このような背景にくわえ、先の江東区長選挙では自民党は都民ファーストの会と相乗りした候補者を推薦して当選に導くことができたものの、自民党東京都連としては前面に出ることができなかったことなどから、候補者擁立を自らの力で行うことは難しい状況であり、今夏の東京都知事選挙における小池都知事との関係性を前提に候補者調整が行われているという状況です。

 都民ファーストの会も、国政進出の足かがりとしてこの東京15区補選を利用すると言われています。東京15区は江東区のみが選挙区であり、前回の江東区長選挙と選挙区域が完全に一致します。江東区は高層マンションなど集合住宅に居住する住民が多く、一般的な国政選挙の選挙区と比較しても浮動票が多いとされており、小池百合子都知事が前面に出た先の江東区長選挙でも当選した大久保区長候補の応援に入った都知事の演説には人だかりができていました。前述の通り、都民ファーストの会にとっては(普通に考えれば)小池百合子都知事の都知事再選に向けての前哨戦という見方もできることから、候補者擁立を検討しているものとみられます。

 従って、自民党(東京都連)と都民ファーストの会が、東京都知事選挙を見据えてどのような連携ができるのか、両者の思惑が一致できるのかが焦点です。自民党に対する強烈な逆風や、都民ファーストの会が国政に議席を有していない「政治団体」であることを踏まえれば、両者が連携して擁立する候補者は自民・都民ファ(・公明)推薦の「無所属」候補となる可能性が高いとみられます。

 具体的な候補者については様々な憶測が飛んでいますが、小池百合子都知事が出馬するという一部報道について、筆者は可能性が低いと考えています。小池都知事が国政復帰を睨んでいたとしても、補選後すぐに自民党入りできるとは限らず、また(都知事が辞職や自動失職した場合に早まる)東京都知事選挙への展望もまだ開けていません。また、参議院議員選挙の立候補経験者を擁立するのではという観測もありますが、この点は自民党本部や都民ファーストの会の内部でも一部異論があるとされ、また国民民主党など他党との調整が必要な面もあって、現時点では最終的に決まっていないとみられます。

 自民党本部筋では「不戦敗もやむなし」との声もあることから、長崎3区と同様に不戦敗を選ぶシナリオも残っています。その場合は、自民党は「2つの選挙区で不戦敗」ということになり、政権へのダメージも大きくなるとみられます。

 一方、野党第一党である立憲民主党も候補者の擁立が決まっていません。現時点では正式発表されていませんが、2019年の参院選全国比例で立憲民主党から出馬し当選した須藤元気参院議員(現在は無所属)で調整しているとの一部報道があり、実際にその方向で調整がされていました。一方、立憲民主党東京都連執行部内には事実上の離党をした須藤氏を推すべきではないとの意見も強くあり、現職の江東区議を推す声もあります。この点、自民党や都民ファーストの会が候補者を擁立できるのかどうかにもかかっており、相手の出方を待っているとみることもできるでしょう。

 先の江東区長選挙では野党共闘で酒井菜摘氏を擁立しましたが、他の無所属候補の台頭などから、当初想定されていたよりも票を伸ばすことができませんでした。今回は共産党が独自の候補者を擁立していることもあり、江東区長選挙同様、立憲民主党都連の選挙戦略に不安が残るなかでどこまで票を伸ばすことができるのかは未知数な一方、情勢調査などでは現時点で(知名度において先行する)須藤氏が優勢との情報が流れており、自民党・都民ファーストの会が「それなりに強い候補」を擁立しなければ、野党第一党としての面目躍如となる可能性が十分にあります。

 日本維新の会は新人の金澤結衣氏を擁立しました。前回の総選挙は44,882票で3着でしたが、その後も地元で着実に活動をしてきたことや、今回の補欠選挙において自民党や立憲民主党が候補者を擁立できていない中で先陣を切って活動の展開ができていることが強みです。一方、先の江東区長選挙で維新は小暮裕之氏を推薦しましたが、維新の選挙戦略や方針と異なる面が多かった候補者だったことが有権者に違和感を与えた結果、惨敗となっています。この区長選挙のダメージがどの程度残っているのかが、まずは鍵となるでしょう。都心3区では多くの支持層があるとされる日本維新の会ですが、江東区での支持基盤は未知数です。仮に自民党も立憲民主党も知名度のある候補者を擁立できなかった場合には、漁夫の利として金澤氏がリードする展開もゼロではありません。

 このほか、日本共産党は新人の小堤東氏を擁立決定しています。現時点で立憲民主党が候補者擁立を決め切れていないことから野党共闘などについて具体的な調整はありませんが、東京における共産党のプレゼンスを維持したい思惑もあるとみられ、野党共闘が成立する可能性は低いと考えられます。また、日本保守党が新人の飯山陽氏の擁立を決定しました。日本保守党の国政選挙擁立はこれが初陣となり、SNSなどで知名度もある飯山陽氏の擁立は一定の驚きはあるものの、日本保守党自体の党運営能力や、SNSにおける党幹部の過激な発言なども踏まえれば、一定の保守層に食い込むことはできても浮動票を獲得することは難しい選挙戦になるとみられます。このほか、参政党も候補者の擁立で検討しているとみられます。

衆議院東京15区の情勢

 ここまで述べてきたとおり、東京15区は現時点で構図が定まっておらず、情勢がみえません。仮に全国知名度のある参院選立候補経験者が与党系相乗り推薦で立候補するとなった場合は人気の中心となる可能性が高く、自民党と都民ファの共闘体制が組めれば、先の江東区長選挙における大久保区長誕生と同じ流れで選挙戦をリードする可能性が高いでしょう。

 一方、候補者調整ではもう少し先に進んでいるとされる野党側が、須藤元気氏を擁立するかどうかが焦点です。現時点での情勢調査では須藤元気氏がリードとされていますが、これは事実上の知名度調査であり、与党系が全国知名度のある候補者を擁立した場合には、リードは一気に失われると考えられます。江東区長選挙での采配ミスを踏まえれば、選挙戦略を変えなければ厳しいと考えられる一方、自民党は不戦敗の可能性も否定できず、その場合には須藤氏や地元区議の擁立でも勝算があるとみられます。

 与野党の候補者擁立が(内部の調整も相当難しい調整となっているものの、外から見たら)睨み合いとなっていることを踏まえれば、漁夫の利的に維新の会が躍進する可能性も否定できません。日本維新の会はここ数ヶ月支持率が下落基調にありますが、選挙期間直前から期間中における浮動票を獲得する戦術には長けており、3つ巴の選挙戦にもっていけるかどうかが注目です。

 共産党は野党共闘を選ぶのか独自候補擁立にこだわるのかが、日本保守党は初陣における選挙戦の展開と保守層の切り崩しの手法が見どころになります。

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選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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