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春の国政3補選、「長崎3区」の序盤戦の情勢と今後の展望

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
国会議事堂(写真:イメージマート)

 3月に入りました。いよいよ来月4月は、国政補欠選挙の時期です国政補欠選挙の時期です。今年4月の補欠選挙は、衆議院島根1区、長崎3区、東京15区の計3選挙区で行われる予定です。まだ全ての選挙区で候補者が出揃ったとはいえない状況ですが、投票日(4月28日)まで残り2ヶ月を切った序盤戦における情勢と今後の展望をみていきます(島根1区東京15区も別稿にて解説をしております)。

衆議院長崎3区の構図

 衆議院長崎3区は、谷川弥一衆議院議員が政治資金パーティー問題で辞職したことが補選執行事由です。現時点では、立憲民主党が長崎3区で比例復活当選していた現職の山田勝彦氏を、日本維新の会が新人の井上翔一朗氏をそれぞれ擁立しています。

 立憲民主党が擁立した山田勝彦氏は、もともと谷川弥一衆議院議員と、この長崎3区で争った相手です。前回の総選挙では、父である山田正彦元農林水産大臣の後継として出馬し、僅差で谷川氏に敗れたものの比例復活をしていました(当選1期)。今回は、谷川氏の辞職に伴い早い段階から補欠選挙への立候補を決めており、1月31日の衆議院代表質問では本会議で登壇するなど、メディアへの露出戦略なども含めて党全体として取り組む姿勢をみせています。次の総選挙では新2区の候補者として決まっていることから、今回の旧3区補欠選挙で勝利し弾みをつけて、新2区での小選挙区勝利を狙うこととなります。

 日本維新の会が擁立した井上翔一朗氏は、新人で、これまで公職選挙の出馬経験がありません。長崎県平戸市で学習塾を経営する民間人で、教育格差の是正などを訴えると記者会見しています。日本維新の会は長崎県に国会議員はおらず、先の統一地方選挙では長崎市と大村市に地方議員が複数誕生しましたが、いずれも離党しており、現在は地方議員もゼロの状況です。また、井上氏の地元である長崎県平戸市は旧4区・新3区にあたり、今回の補欠選挙では選挙区外にあたることから、一部の関係者は新3区支部長を見据えた活動ではないか、と見る向きもあります。

 自民党は、長崎3区の候補者擁立に未だ至っていません。長崎県は、次回の衆議院議員総選挙から、小選挙区が4から3に減少します。長崎氏を中心とする旧1区がほぼ新1区に、佐世保市を中心とする旧4区の多くが新3区に移行し、旧2区と旧3区が合併する形で新2区となることが決まっていました。この新2区について、旧2区選出の加藤竜祥衆議院議員(安倍派)と、旧3区選出の谷川弥一衆議院議員(安倍派)の2人のうち、加藤氏が選挙区支部長となり、谷川氏が比例区支部長として比例九州ブロック単独選出にまわることとなっていました。このことから、補欠選挙で当選した議員が仮に谷川弥一衆議院議員の後継という扱いになれば、(小選挙区の減少した都道府県連に対して、比例上位で2回優遇するという慣例が適用されたとしても)直後の総選挙とその次の総選挙の2回こそ比例九州ブロックで当選しても、当選3回の後に出馬する選挙区が無くなり、その時点で政治生命が終わってしまうという問題があります。そのため、地元県議や市議などの若手が立候補するだけのインセンティブも薄く、長崎県連では主戦論と不出馬論が交錯していました。地元長崎では上記のような理由から不出馬論が大勢を占めるなかで、補欠選挙全体の勝ち星の数にこだわる党本部と地元長崎とのあいだで数回にわたるキャッチボールが行われましたが、自民党長崎県連内部での保守分裂の影響もあることから具体的な候補者を長崎から党本部に上程できず、現時点では選挙戦を戦う構図に持ち込めていません。

 また、参政党が長崎では擁立の準備を進めているという情報もありますが、現時点では発表に至っておらず、出馬は不確定な状況です。従って、この長崎3区補欠選挙は極めて稀な「立憲民主党 対 日本維新の会」という事実上の野党同士による一騎打ちとなる見込みです。

衆議院長崎3区の情勢

 現状の情勢としては、山田氏がリードしている展開との見立てが大勢です。

 山田氏は比例現職であり、前回総選挙でも谷川弥一氏に極めて競った結果(惜敗率96.5%)だったことから、自民党が山田氏に対抗できるだけの候補者を擁立できない場合には極めて優位に選挙戦を進めるとみられています。立憲民主党は、山田氏の姉にあたる山田朋子長崎県議会議員をはじめとする党長崎県連が機能しているほか、長崎では立憲党のほか国民民主党や社民党、連合長崎などからなる「七者懇」と呼ばれる枠組みでの野党共闘体制が成立していることから、補欠選挙を戦う組織力は十分にあるとみられます。この「七者懇」には共産党は入っていませんが、今回の補欠選挙では島根1区と異なり「自主的に支援」としていることから、事実上野党共闘体制が成立しています。

 井上氏は、山田氏よりも後からの出馬表明になったことに加え、新人初出馬であることで知名度不足との声も多く、今回の初陣でどこまで名前を浸透させることができるかが鍵となります。また、自民党が候補者擁立に至らない場合には、本来であれば自民党候補者に投票するであろう保守層を拾い上げることができるかも重要なポイントとなります。いずれにせよ自民党岩盤支持層や公明支持層に投票させるまでの誘引力ある政策を打ち出すことができるのか、また県連幹事長の地元である五島市などで票を伸ばすことができるかが注目です。

 長崎3区に関しては自民党が候補者を擁立するかどうかで大きく情勢が変わると考えられますが、現時点では具体的な候補者の擁立に至っておらず、告示まで約1ヶ月となる現在では、(浮動票が多く、かつ若い世代が多いとされる東京15区と異なり、離島が選挙区となる長崎3区では)もはやタイムオーバーとの見方もあります。それにもかかわらず、自民党が補選全体の勝ち星の数にこだわって候補者の落下傘をするのか、それとも候補者擁立に至らず自民党不戦敗のなか、「立憲 対 維新」の新しい選挙構図が実現するのかにも注目です。

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選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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