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春の国政3補選、「島根1区」の序盤戦の情勢と今後の展望

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
国会議事堂(写真:つのだよしお/アフロ)

 3月に入りました。いよいよ来月4月は、国政補欠選挙の時期です国政補欠選挙の時期です。今年4月の補欠選挙は、衆議院島根1区、長崎3区、東京15区の計3選挙区で行われる予定です。まだ全ての選挙区で候補者が出揃ったとはいえない状況ですが、投票日(4月28日)まで残り2ヶ月を切った序盤戦における情勢と今後の展望をみていきます(長崎3区東京15区も別稿にて解説をしております)。

衆議院島根1区の構図

 衆議院島根1区は、細田博之前衆議院議長の逝去が補選執行事由です。既に島根1区は構図がほぼ固まっており、自由民主党が新人の錦織功政氏を、立憲民主党が元職の亀井亜紀子氏を、日本共産党が新人の村穂江利子氏を擁立、諸派で新人の佐々木信夫氏も出馬表明を行いました。

 もともと島根1区は小選挙区制導入以降、細田前議長が小選挙区9回連続当選(中選挙区を入れれば連続11回)をしている圧倒的な保守地盤です。自民党が下野した超逆風の2009年総選挙でも細田氏は民主党の新人候補に4万票以上の差をつけて当選しました(民主党候補の小室寿明氏も比例復活当選)。一方、近年は細田氏の高齢化や地域の保守地盤における支援体制の変化から野党候補との票差は、2017年の総選挙では約3万票差、2021年の総選挙では約2万3千票差と詰まってきています。この2017年の総選挙では、2007年から2013年まで参議院議員を務めた亀井亜紀子氏が衆院に鞍替えして比例復活をしたものの、2021年の総選挙では票差こそ詰めたものの、中国ブロックのほかの立憲民主党候補者が惜敗率で上回ったために落選していました。

 また、過去2回の選挙では野党共闘が成立していましたが、今回は共産党も候補者を擁立する動きです。共産党は村穂氏を擁立していますが、朝日新聞の報道では『党島根県委員会の関係者は「野党共闘への話し合いにはいつでも応じる構えでいる」』(2月14日)と書かれており、野党共闘には前向きな姿勢です。一方、これを極端に嫌っているのが連合であり、連合の芳野会長は「連合としては共産党と一緒に戦うことはありえない」「候補者調整は政党が考えることなので、連合が踏み込むというのは難しいが、連合の考え方は明確なので、それを踏まえたうえで候補者調整をやったときに、支援できないこともありますし、推薦取り消しもあります」と、支援や推薦の取消にまで言及する事態となっています。連合の「共産党との共闘」へのアレルギーは芳野会長になってから増しており、現状では共産党も入る形でのオール野党共闘体制は難しいとみられます。

 一方自民党は、新人の錦織氏を擁立しました。財務官僚として令和4年には財務省中国財務局長に就任した実力を持つ人物で、敢えて言うならば「自民党らしい」候補者でもあります。細田前議長の弔い選挙であることや、自民党の保守地盤が強いとされる山陰地方の選挙でもあり、優位に進めることができるのではないかとの見立てが当初はありました。一方、今年1月には早々に擁立が決まっていたのにもかかわらず、知名度が不足するなど準備に出遅れ感が否めず、ここ数日でようやくウェブサイトやSNSのアカウントが一気に開設されたことなどから、情勢を検討した結果、「テコ入れ」が入ったものとみられます。また、地域の票固めにおいても地方議員との連携が課題との声が関係者から上がっており、根強い保守層の票を固めきれるかどうかが注目です。

衆議院島根1区の情勢

 現状の情勢としては、亀井氏が一歩先をいく展開との見立てが大勢です。参議院議員・衆議院議員の元職であり、細田前議長の対抗馬として地元で戦ってきた亀井氏が知名度において錦織氏を大きく上回っているほか、現時点での活動量なども亀井氏が上回っているとの見方が多く、錦織氏は今一歩の底上げが必要とされています。具体的には、「自民劣勢」との自民党情勢調査に関する報道(中国新聞、2月29日)が出ているほか、一部では「既に2桁以上のポイントが開いている」との噂も出ており、知名度対策のためのテコ入れに加えて、自民党島根県連が一致団結して票固めができるかどうかが当面の鍵となるでしょう。

 言い換えれば、錦織氏には伸びしろがあるともいえる一方、亀井氏は共産党の共闘によるオール野党共闘体制を(錦織氏の後半戦の伸びを想定して)水面下で模索することも考えられますが、現時点ではこの共闘成立は難しいと考えられます。共闘しない形で選挙を迎える構図を考えれば、国会における政治とカネの問題や旧統一教会の問題への追及を追い風にして、与党が票を伸ばしやすいとされる終盤戦に入る前に無党派層をどれだけ先に固めることができるかが重要でしょう。共産党・村穂氏も、自民党や岸田政権に向けて投げられる厳しい声を、どのように票に転化していくのか、また野党共闘の可能性を模索するかどうかに注目です。

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選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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