在沖縄アメリカ軍に配備される可能性のある中距離ミサイルの候補
INF条約の破棄によってアメリカ軍は中距離ミサイルを装備することが可能になりました。そしてその中距離ミサイルは対ロシアよりも対中国を想定した通常弾頭のミサイルとなる予定です。核ミサイルではありません。
対中国での前線である同盟国の日本に近い将来に配備される可能性のある、アメリカ軍が新たに計画している中距離ミサイルおよび短距離ミサイルは以下の通りです。(※ATACMSは既に沖縄に配備済み)
アメリカ海兵隊の攻撃用ミサイル
- ATACMS・・・射程300kmの短距離弾道弾(対地)
- PrSM・・・射程500kmの短距離弾道弾(対地)
- NMESIS・・・射程200~500kmの巡航ミサイル(対艦)
- トマホーク・・・射程1000~1800kmの巡航ミサイル(対地・対艦)
アメリカ陸軍の攻撃用ミサイル
- ATACMS・・・射程300kmの短距離弾道弾(対地)
- PrSM・・・射程500kmの短距離弾道弾(対地)
- MRC・・・トマホークおよびSM-6弾道弾型(対地・対艦)
- LRHW・・・射程2775kmの極超音速滑空ミサイル(対地)
※巡航ミサイルは飛行条件で射程が大きく変化し、最大射程は実戦での有効射程としては使えないことが多い。空気の薄い高高度を飛べば燃費が良く長距離を飛べるが発見されやすくなり、低空を飛べば見つかり難いが燃費が悪く射程が短くなる。また奇襲するために迂回飛行をすれば遠回りになる。このため有効射程の見積もりが難しい。つまり弱い相手には高高度を飛んでも撃墜されないので最大射程近くを使えるが、強い相手には迎撃を掻い潜るために低空を飛び迂回飛行しなければならず射程が削られてしまう。
※亜音速で飛ぶ巡航ミサイルは着弾まで時間が掛かるので、目標が移動する艦船の場合は位置がずれてしまい、自ら蛇行飛行して探しに行く必要があるので、有効射程は対地攻撃時よりも短くなってしまう。ただしデータリンクで目標の最新位置情報をミサイルに送りアップデートすることが可能ならば、過度な蛇行飛行をする必要は無くなる。
※弾道ミサイルは単純な弾道飛行を行うので最大射程を有効射程として使える。極超音速滑空ミサイルは左右の変針も可能だが、滑空弾頭は無動力なので、持続噴射している巡航ミサイルのように自由に何度も変針はできない。
※PrSMは将来的に対地・対艦兼用になる予定。また射程をさらに伸ばす改修も可能とされているが、現時点で具体的な計画は不明。
※MRCはトマホーク巡航ミサイルとSM-6(弾道弾型)の両方を運用できる垂直発射式システム。ただしSM-6(弾道弾型)の想定されている射程はまだ非公表(PrSMよりも射程は長いことは確実)。
※上記以外に陸軍ではSLRC(射程1600kmの超長距離砲)、OpFires(準中距離級の極超音速滑空ミサイル)なども計画されているが、採用されるか不透明。
※在沖縄アメリカ空軍のF-15C戦闘機は制空任務専用で対地攻撃や対艦攻撃は行えない。ただし将来的に機種改編され戦闘爆撃機と入れ替えることは確実で、その際に空中発射式中距離滑空ミサイル「AGM-183A ARRW」が嘉手納基地に配備される可能性がある。なお所属機が改編前であっても外来機が中距離ミサイルで武装していることは有り得る。
※MRCはタイフォン(Typhon)、LRHWはダークイーグル(Dark Eagle)という愛称。
※NMESISの使用ミサイルはノルウェー製NSM対艦ミサイル。
それぞれのミサイルの射程から推定できる役割は次の通りです。
- ATACMSは石垣・宮古から尖閣諸島(上陸した敵部隊)を対地攻撃
- NMESISは石垣・宮古から尖閣周辺(敵艦隊)を対艦攻撃
- PrSMは沖縄本島から尖閣諸島(上陸した敵部隊)を対地攻撃
- PrSMは石垣・宮古から台湾(上陸した敵部隊)を対地攻撃
- トマホークは九州から尖閣周辺(敵艦隊)を対艦攻撃
- トマホークは九州から中国(航空基地)を対地攻撃
- トマホークは沖縄本島から台湾海峡(敵艦隊)を対艦攻撃
- トマホークは沖縄本島から中国(航空基地)を対地攻撃
- LRHWは九州から中国(航空基地)を対地攻撃
- SM-6(弾道弾型)の射程は現時点では不明
- 赤円(射程300km)・・・石垣島、宮古島、沖縄本島からATACMS(対地)、NMESIS(対艦攻撃時の有効射程)を想定。
- 黄円(射程500km)・・・石垣島、宮古島、沖縄本島からPrSM(対地)を想定。
- 緑円(射程1000km)・・・沖縄本島、九州(鹿児島)からトマホーク(対艦攻撃時の有効射程)を想定。ただし最新型の海上打撃型トマホークBlockⅤa(MST)の対艦攻撃時の有効射程は不明なので大まかな推定の数字。なお冷戦時代の古い対艦攻撃型トマホーク(TASM)の公称射程は460km。
- 青円(射程1800km)・・・沖縄本島、九州(鹿児島)からトマホーク(対地攻撃時の有効射程)を想定。ただし最大射程はもっと長い可能性もある。
- 白円(射程2775km)・・・九州(熊本)からLRHW(対地)を想定。ただし現時点で判明している公式の数字は2775km”以上”であり、射程はもっと長い可能性もある。
ATACMSは既に沖縄配備済み、PrSMはその後継なので沖縄配備は確実。NMESISは新設される海兵沿岸連隊の主力装備となる予定なのでこれも沖縄配備は確実。地上発射型トマホークも沖縄配備が有力ですが、LRHWは九州配備となるでしょう。
【関連】
「アメリカ軍の新しい中距離ミサイル」が沖縄に配備されるとすれば、海兵隊の地上配備型トマホークが該当します。そして沖縄本島に配備されたトマホーク巡航ミサイルは尖閣諸島を巡る戦いでも投入可能ですが、台湾有事で沖縄から直接攻撃する能力があるということも意味します。
なお陸軍もトマホークを運用するMRCタイフォンを開発中ですが、こちらは日本への配備の話はまだ出ていません。
海兵隊の空中機動とミサイル主兵装化
オスプレイの登場と揚陸艦に頼らない空中機動部隊SP-MAGTF-CR
従来、海兵隊は上陸作戦を主な任務とする殴り込み部隊として知られていましたが、ヘリコプターよりも長距離を飛行可能な垂直離着陸輸送機オスプレイの登場(2007年実戦配備開始)により揚陸艦に頼らない空中機動能力を手にしています。
実際に海兵隊は2013年からMV-22オスプレイ垂直離着陸輸送機とKC-130空中給油・輸送機で構成されたSP-MAGTF-CR(危機対応特別目的海兵空地任務部隊)をスペインのモロン基地に配備、イタリアのシニョネッラ基地を第二拠点とし、空中機動部隊による北アフリカへの緊急展開作戦を実戦任務として実行するようになりました。
そしてこれはインド太平洋方面でも同じことができます。沖縄を拠点として台湾やフィリピンへ海兵隊が迅速な空中機動展開を行えるようになったのです。オスプレイの登場により沖縄の海兵隊航空基地は戦略的な価値が急激に高まりました。普天間基地はモロン基地やシニョネッラ基地と同じような役割が期待されるようになっています。
ミサイルを主兵装に切り替える海兵隊の新方針「戦力デザイン2030」
そして2020年3月に公表されたアメリカ海兵隊「戦力デザイン2030」構想は衝撃的な内容でした。従来の殴り込み部隊としての海兵隊は、本格的な島嶼戦では海上・航空での決着が着いた後の後始末のような制圧任務くらいしか役割がありませんでしたが、海上戦に直接参加するべくミサイルを主兵装とする大転換を決定したのです。
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しかも海兵隊は新しく主兵装となる対艦ミサイルNMESIS(海軍海兵隊遠征船舶阻止システム「ネメシス」)を非常に斬新な小型4輪無人車両としました。なんとしてでも搭載車両を小型化して、前線の飛行場に降り立てるC-130戦術輸送機を用いて効率的に空輸したかったからです。前線に揚陸艦のみで運ぶ気ならばここまで小型化に拘る必要がありません。
EABO(Expeditionary Advanced Base Operations、遠征前進基地作戦)
ミサイルを主兵装化する海兵隊の新しい戦術がEABO(遠征前進基地作戦)です。名称に基地とありますが、意味合いとしては「一時的な拠点」と理解したほうが正しく認識できると思います。
EABOでは部隊が分散展開しながら前進し一時的な拠点を確保、ミサイル攻撃を行ったら撤収し移動する「射撃即離脱(shoot and scoot)」戦法が提唱されています。島を占領し維持することを目的とせず一時的な攻撃拠点として利用し、次々に移動を繰り返して敵の偵察の目を欺きます。これにより生存性を高めて敵の攻撃圏内で持続した活動をしながら「敵の上陸した島に対して、味方が隣の島に上陸してミサイル攻撃する」といった戦い方が可能になります。前進した部隊は味方の海空戦力と連携しながら、対艦ミサイル、対地ミサイル、対空ミサイルで戦うことになります。
- C-130輸送機で空輸展開
- 軽揚陸艦(LAW)で揚陸展開
- ドック揚陸艦・強襲揚陸艦で揚陸展開
部隊の展開は従来の大型揚陸艦(ドック揚陸艦・強襲揚陸艦)での展開に加えて、分散展開するために数が必要になるので大量調達する予定の新しい軽揚陸艦(LAW: Light Amphibious Warship)、そして主軸となるC-130輸送機での空輸展開の3本立てとなります。
EABOの戦術構想ではC-130輸送機が離発着できる滑走路を持つ航空基地が非常に重要になります。そして分散展開するということは別に後退を意味しておらず、むしろ敵の攻撃圏内に積極的に前進して移動しながら持久することが目的の構想です。
海兵隊はEABOの基幹となるミサイルで武装した海兵沿岸連隊(MLR: Marine Littoral Regiment)をハワイ、グアム、沖縄に新しく設置する方針を既に示しました。前方がそのままでも後方を増やせば分散したことになるのと、そして実戦になれば各部隊は出撃し移動展開を繰り返していくことになります。
なおC-130輸送機に搭載可能な攻撃用ミサイル・システムはNMESIS(対艦ミサイル)、ROGUE Fires(短距離弾道弾など)、HIMARS(短距離弾道弾など)までで、トマホーク巡航ミサイルの発射システムは大き過ぎて戦術輸送機であるC-130では運べません。トマホークについては防備の厚い沖縄本島や九州からでも想定目標に届く長い射程があるので、前進する必要がありません。空輸する場合は空軍のC-17大型輸送機で後方の航空基地に行います。
前進し分散展開しながら移動を繰り返すのがEABOのコンセプトですが、射程の長いトマホーク地上発射型についてはあまり島嶼間の移動をせず、後方の大きな島に陣取って島内での細かい移動を繰り返し行方を晦ましながら、持続した射撃を続けることになるでしょう。このトマホーク発射拠点として沖縄本島が有力な候補となります。グアムからでは想定目標を有効射程内に収めることが困難だからです。