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米海兵隊の次期対艦兵器NMESISの無人発射車両が初公開

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ海軍撮影、レイセオン発表のNMESIS無人地対艦ミサイルシステム

 4月28日(アメリカ東部標準時)、アメリカ海兵隊の次期主力装備となる対艦兵器「NMESIS(ネメシス)」が初めて公開されました。これは対艦ミサイルを無人車両に搭載するという、世界初の画期的な地対艦ミサイルシステムです。

 通常、地対艦ミサイルは6輪以上のトラック車両に搭載して運搬する大きさの兵器ですが、NMESISは4輪車両を無人化して運転席を省略し、空いた容積をミサイル搭載用に充てることで地対艦ミサイル搭載車両の大幅な小型化に成功しました。なおNMESISは1両のJLTV無人車両型に2発のNSM対艦ミサイルを搭載します。

 小型のNMESISは空輸性が高くなるので、C-130戦術輸送機での輸送効率が大幅に上がります。

  1. C-130輸送機の貨物室には4輪車2両、または6輪車1両を搭載可能。
  2. 4輪車は対艦ミサイル2発を搭載可能。
  3. 6輪車は対艦ミサイル4発を搭載可能(2×2の2段積み)。
  4. C-130輸送機の貨物室高さ制限で対艦ミサイル2段積みは不可。
  5. C-130輸送機1機あたり4輪車ならば2両で4発、6輪車は1両で2発。

 C-130輸送機に搭載できる大きさで比較した場合、貨物室の高さ制限によって6輪車の対艦ミサイル搭載数が半分に減少するので、4輪車2両の方が2倍も有利になります。(※6輪車はHIMARS高機動ロケット砲システムと同じ大きさで比較。)

 またこれだけでなく4輪車ならばCH-53重輸送ヘリコプターでの吊り下げ輸送も可能になり、様々な空輸手段での機動展開が可能になりました。

 このNMESISこそがアメリカ海兵隊の新方針である対中国を想定した島嶼戦に対応した新装備です。島嶼に展開し攻撃し撤収を迅速に繰り返していきます。対地ロケットや短距離弾道ミサイルと組み合わせて、島嶼に上陸した敵を攻撃しながら周囲の敵艦を対艦ミサイルで排除します。

レイセオンよりNMESIS。2020年11月にポイント・マグー試射場で行われた試験発射
レイセオンよりNMESIS。2020年11月にポイント・マグー試射場で行われた試験発射

NMESIS関連用語(新しく判明した用語も後から追記)

  • JLTV(Joint Light Tactical Vehicle)・・・統合軽戦術車両。オシュコシュ社製の4輪軽装甲車。
  • ROGUE Fires(Remotely Operated Ground Unit Expeditionary Fires)・・・遠征火力用遠隔操作型地上ユニット「ローグファイア」。JLTV無人車両型。※HIMARS用の発射ポッドを搭載する基本タイプからの派生型がNMESIS。
  • NSM(Naval Strike Missile)・・・ノルウェー・コングスヴェルグ社製亜音速対艦ミサイル。アメリカでの製造はレイセオン社。推定射程200~500km(飛行条件で変化)。
  • NMESIS(Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System)・・・海軍海兵隊遠征船舶阻止システム「ネメシス」。JLTV無人車両型にNSM対艦ミサイル2発を搭載したROGUE Firesの派生型。JLTVと同サイズなのでCH-53重輸送ヘリコプターでの吊り下げ輸送が可能。
  • LRF(Long-Range Fires)・・・長距離火力。JLTV無人車両型にトマホーク巡航ミサイルミサイルを1発を搭載したROGUE Firesの派生型。
  • トマホーク Block Ⅴa・・・推定射程2000~3000km。亜音速で飛行する射程2000~3000kmの巡航ミサイルで別名MST(Maritime Strike Tomahawk、海洋打撃トマホーク)。トマホーク・ブロック5a。
  • HIMARS(High Mobility Artillery Rocket System)・・・高機動ロケット砲システム。MLRSの半分の搭載能力(発射ポッド1個)に6輪トラックを発射車両としてC-130戦術輸送機での空輸を可能としたもの。CH-53重輸送ヘリコプターでの吊り下げ輸送は不可。
  • MLRS(Multiple Launch Rocket System・・・多連装ロケットシステム。ロケット弾や短距離弾道ミサイルを搭載するアメリカ陸軍の装軌車両で、227mm多連装ロケット6発分の発射ポッドを2個搭載。海兵隊はMLRSをHIMARSに置き換え済み。
  • GBASM(Ground Based Anti Ship Missile)・・・地対艦ミサイル。海兵隊のNMESISを指す。
  • MMSL(Medium-range missile)・・・中距離ミサイル。海兵隊ではNSMを指す。
  • LMSL(Long-range missile)・・・長距離ミサイル。海兵隊ではトマホークを指す。

海兵隊戦力デザイン2030の要約

戦車を全廃
榴弾砲を激減
ロケット・ミサイルを大増強
航空戦力は微減
揚陸能力は微減
空中給油機を微増
無人偵察機を倍増
出典:アメリカ海兵隊「戦力デザイン2030」報告書の読み方

※予定されている新装備の地対艦ミサイルは2種類。どちらも主に対艦攻撃用だが、対地攻撃も可能な兼用型。

  • NSM・・・推定射程200~500km。亜音速で飛行する短距離の巡航型の対艦ミサイル。派生型の空対艦仕様「JSM」の資料では飛行プロファイルがHigh-High-Low(高空-高空-低空)で300海里以上(555km)、Low-Low-Low(低空-低空-低空)で100海里以上(185km)。無人地上発射車両NMESISシステムで運用。追記:新しい改良型の「NSM Block 1A」が射程250km以上という公称数値。
  • トマホーク Block Ⅴa・・・推定射程2000~3000km。亜音速で飛行する巡航ミサイルで別名MST(Maritime Strike Tomahawk、海洋打撃トマホーク)。トマホーク・ブロック5a。射程が長いので到達までの時間が長く、その間に敵艦が移動してしまうので、他の偵察手段で得た目標の最新位置を衛星通信で送り情報を更新する必要がある。有人地上発射車両で運用。追記訂正:驚いたことに無人4輪車両への搭載が判明(2023年7月26日記事
軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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