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米「ワクチン接種でマスク不要」 NY中心地のマスク率は? 街の人の声は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NYの中心地、タイムズスクエア(14日)。(c) Kasumi Abe

アメリカでは先月19日以降、16歳以上なら誰でも新型コロナウイルスのワクチン接種を受けられるようになり、接種数は順調に伸びてきた。

最新(14日時点)の接種状況

人口の47.3%(1億5525万人)が最低1回の接種。

36.6%(1億2025万人)が1回もしくは2回の接種を「完了」。

ただし1日ごとの接種数の伸びは4月半ばでピークを迎え、その後の接種の速度は落ちている

集団免疫獲得のため、政府は独立記念日(7月4日)までに70%以上の人々が最低1回の接種をする目標を立て、特に若い層を対象にあの手この手で「ワクチン推進キャンペーン」を進めている。特典として無料のハンバーガー、ドーナツ、ビール、スポーツの試合や博物館などの入場券、有給時間休などがある。オハイオ州では、抽選で100万ドル(約1億円)を贈呈する事例も。

ニューヨーク市内でも実験的な試みとして12日から16日まで、指定駅に接種仮設会場が設置されている。面倒な予約が不要で、しかも1回の接種(J&J)で完了という手軽さがうけ、開始から2日で1100人以上が接種した。

Updated: 22日まで延長)

駅に期間限定で設置された新型コロナワクチン接種のポップアップ。長蛇の列ができ、1時間待った人もいた。(c) Kasumi Abe
駅に期間限定で設置された新型コロナワクチン接種のポップアップ。長蛇の列ができ、1時間待った人もいた。(c) Kasumi Abe

ワクチン接種をするためにペルーからやって来た夫婦。「ペルーは今、70歳以上しか接種できないから、このために観光も兼ねて来たの。チクリとしたけど気分は最高!」。(c) Kasumi Abe
ワクチン接種をするためにペルーからやって来た夫婦。「ペルーは今、70歳以上しか接種できないから、このために観光も兼ねて来たの。チクリとしたけど気分は最高!」。(c) Kasumi Abe

地下鉄駅で接種した特典として、メトロカード(地下鉄7日間の乗り放題)などが配布されている。

  • Updated: 会場の様子がわかる2分半のクリップをアップしました。→ 動画

これらに加え、「これも特典のうちか?」と囁かれているのが「マスク着用不要」の新指針だ。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は13日、接種を「完了」した人は、屋内外を問わず、マスクを着用しなくても良いと発表した。(例外:公共交通機関、飛行機、病院、刑務所。店内では店の方針に従う)

CDCは先月27日、接種完了者に「屋外」でのマスクは不要と発表していた。今回の新たな発表により、マスク不要な場所に「屋内」も追加された。

バイデン大統領も「ルールはシンプル。ワクチンを接種するか、接種するまでマスクをするかのどちらかだ」とツイート。

ニューヨーク州での接種状況は、少なくとも1回の接種をしたのは成人人口の61.4%、1回もしくは2回の接種を「完了」したのは51.5%(15日現在)。

これらの数字からも、CDCの新ガイドラインの発表以来、街の人々の半数はマスクを取り去るのではないかと筆者は思っていたが...。

銃撃事件から1週間、タイムズスクエアのいま

13日の「マスク不要」発表の翌日、市内の中心地タイムズスクエアに、様子を見に行った。

6日前に発砲事件が起き、3人が負傷した場所だが、この日(14日)は金曜日ということもあり、そんな大事件を払拭するほど、ものすごい人通りで活気に満ちていた。筆者は昨年3月、ロックダウンで誰もいない同所を歩いて寂しい気持ちになったものだが、あの記憶がすっかり消え去るほど、以前のような「混雑した賑やかな観光地」に戻っていた。

2021年5月14日のタイムズスクエア(以下同)。(c) Kasumi Abe
2021年5月14日のタイムズスクエア(以下同)。(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

マスクは現時点で、まだ8割くらいの人が着用していた。マスクをしていない人の数も少しずつ増えてはいるものの、劇的に増えているようには見えない。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

マスクを着用していない人の中には、すっかり「無防備状態」のような光景も。

ストリートパフォーマーはマスクをしておらず、一般客にもパフォーマンスに加わるよう誘っていたが、ソーシャルディスタンスはなく、すっかり「コロナ以前のよう」。(c) Kasumi Abe
ストリートパフォーマーはマスクをしておらず、一般客にもパフォーマンスに加わるよう誘っていたが、ソーシャルディスタンスはなく、すっかり「コロナ以前のよう」。(c) Kasumi Abe

ここで、人々に話を聞いてみた。

南部から旅行でやって来た60代の夫婦は、共に2回のワクチン接種を完了したが、この日もマスクを着用していた。「ダブルマスクとまではいかないけど、念のためこれまで通りマスクを着けています」。

別の女性も接種を完了したそうだが、マスクを着用していた。理由は同じく“念のため”。「接種していない人もまだ多いし、(電車や店の)隣合わせになった人が(接種済みか否か)わからないから」と答えた。

ゴリラ姿のジェイコブ・マーコさんは3月に最初の接種を受けて、すでに2回の接種を完了した。だが、まだマスクは着けている。理由は「新規感染数は依然と高いし、まだ(マスクを)取る(心の)準備ができていない。人々がマスクを取るまでに、もう少し時間がかかるだろう」。

ワクチンを打っていないが、マスクも着用していない人も少数ながらいた。

「インフルエンザワクチンの接種もしたことがない自分には、コロナワクチンも不要。日光に当たって免疫力を上げればワクチン同様の効果をもたらしてくれて病気になんてならないものさ」という意見や、マスク不要の新指針について「ワクチン接種者への特典のようにも受け取れるこの発表はいかがなものか。今後『ワクチンを接種していない=悪者』のような誤った見方や差別が生まれないことを祈る」という意見もあった。

タイムズスクエア名物のキャラクターたち。バットマンの格好をした男性に景気は戻ったか聞くと、「まだまだ。週末に期待したい」とのこと。(c) Kasumi Abe
タイムズスクエア名物のキャラクターたち。バットマンの格好をした男性に景気は戻ったか聞くと、「まだまだ。週末に期待したい」とのこと。(c) Kasumi Abe

NFT(ノン・ファンジブル・トークン)のプロモーションパフォーマンス中のジェイコブさん(ゴリラ姿)。「感染者数が減って安心感が出るまで、マスクは着け続けます」。(c) Kasumi Abe
NFT(ノン・ファンジブル・トークン)のプロモーションパフォーマンス中のジェイコブさん(ゴリラ姿)。「感染者数が減って安心感が出るまで、マスクは着け続けます」。(c) Kasumi Abe

観光客向けの出店や絵描き業者も復活し、以前のような活気が戻っていた。(c) Kasumi Abe
観光客向けの出店や絵描き業者も復活し、以前のような活気が戻っていた。(c) Kasumi Abe

観光バスも稼働中だが、この日の乗客はまばら。(c) Kasumi Abe
観光バスも稼働中だが、この日の乗客はまばら。(c) Kasumi Abe

またこの日の街の声としては上がってこなかったが、ほかにも「マスクを取らない理由」として、さまざまな意見が上がっている。

人々はこの辛い激変の1年間を乗り越え、マスクと共にあるニューノーマルに慣れ切ってしまったため、そう簡単に元に戻れないとする分析もある。市内に住む27歳の女性は、パンデミック以来初めてモールを訪れ、人の多さにショックを受け体が硬直したという。「人々は死、悲しみ、孤立、ストレス、不安、失業...を体験し、トラウマになっている」とヴァイス誌

この女性でなくとも、マスクをする生活が1年以上に及ぶ今、久しぶりの外出先でコロナ前の日常風景を目にし「なんか変」という不思議な感覚に陥ることはよくある。マスクを取ってもいいよと急に言われても、今度は逆にその無防備さに戸惑うのだろう。

ワクチンの浸透と共に、少しずつ日常生活が戻り、人々の疲れた心の中も浄化されつつあるが、大多数の人が清々しい気持ちで「マスクはもういらない」という気持ちになるまで、もう少し時間がかかりそうだ。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

Updated: CDCの新指針に基づいたマスク解除は州ごとに行われており、ニューヨーク州のクオモ知事は19日より同州のマスク着用義務解除を認めました。その後もマスクを着用し続けている人は老若男女、依然多い状態です。(2021.05.25)

(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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