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外出の際、顔はカバーすべきですか?「はい」とNY市長 アメリカでマスク改革、はじまる

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
社会的距離の確保のため、歩行者天国になったNYパークアベニューで(3月27日)(写真:ロイター/アフロ)

日本政府は4月1日、全所帯に2枚ずつの布マスクの配布を表明し、マスク不足の解消への試みがはじまった。

アメリカでも今、マスク改革が起きている。

ニューヨークのビル・デブラシオ市長は4月3日、前日の記者会見で発した内容を補うかのように、ツイッターを通して非常にシンプルでわかり易いメッセージを人々に送った。

外出の際、顔をカバーするべきですか?

はい。

なぜか知りたかったら見てください。#AskMyMayor

この動画によると、市民からデブラシオ市長へ寄せられる質問で一番多いものが「マスクを着けるべきか否か」。市長は「医療用マスクN95は医療従事者や救急隊員の安全と生命を守るためのもの。一般の人々は手を出さないで」と強調した上で、「外出の際、バンダナやスカーフで顔をカバーすることが感染拡大の防止になるだろう」という見解を示した。

必要?不要? マスク論争勃発

4月に入って、さまざまな政府関係者がマスクについて議論し始めた。

その理由の1つとして、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界に拡大して以降、マスク着用率の高い国(日本、韓国、シンガポール、香港)が、マスク着用が習慣としてない国(アメリカ、イタリア、スペインなど)より感染拡大を封じ込めている事実がデータにより明らかになったからだろう。

また、感染者の中には無症状の人もいるため、無症状の人が知らず知らずのうちに感染を広めていることもある。

CDC「健康な人のマスクは不要」→「検討」へ

CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の方針ではこれまでずっと、マスクは医療従事者や病人が着用すべきものとし、一般の人々は不要であるため購入しないでと発表されてきた。新型コロナウイルス封じ込めのための米専門家チーム、タスクフォースの責任者、マイク・ペンス副大統領も「医療関係者や感染の疑いがある人以外は、マスク着用の必要性はまったくない」とこれまで発表してきた。よって筆者も、先週まではマスクを一度も着けたことはなかった。

市内のマスク着用率の推移

市内のマスク率について筆者の記録をたどると、新型コロナウイルス騒動後にニューヨーク市内で初めてマスク姿を1、2人見かけたのは1月末のことだった。これまでマスク姿を工事現場と中華街以外で見たことがなかったので、目に留まったのを覚えている。

州内で初の感染者が確認された3月1日の時点で、マスク着用者は全体の0.5~1%、3月半ば以降5%〜15%に推移、3月末に2週間ぶりに取材で地下鉄に乗車した際は、90%ほどになっていた。(今でもまだ頑なにマスクをしていない人は、地下鉄だろうとスーパーだろうと一定数存在する。ニュースをチェックしていないのか、自分は不死身だと思っているのか、マスクが手に入らないからかは不明)

3月30日、病院船コンフォートの記者会見に行く地下鉄の中で、マスク着用率アップを実感。乗客は約2mの距離を保ち合っていた。(c) Kasumi Abe
3月30日、病院船コンフォートの記者会見に行く地下鉄の中で、マスク着用率アップを実感。乗客は約2mの距離を保ち合っていた。(c) Kasumi Abe

3月31日、ニューヨークタイムズ紙でも、手作りマスクの作り方が紹介された。詳細

「スカーフで代用できる」

マスク需要がますます高まる現在、問題は日本同様に、マスクが市場にほぼない状態ということだ。医療従事者や救急隊員にとって命を守るために欠かせないものなので、もしどこかで見つけたとしても一般の人は買い控える必要があるだろう。

そこで出てきたのが、冒頭のデブラシオ市長による、バンダナやスカーフ代用案である。この発想は、筆者の知るところでは4月1日のホワイトハウスでのトランプ大統領およびタスクフォースチームの合同記者会見で初めて聞いたものだった。

この会見で、記者にマスクの必要性について問われたタスクフォースチームのデボラ・バークス医師はこのように答えた。「それについては、CDCでも今後の方針を議論しているところです」。

またトランプ大統領は会見中少なくとも2度も、「スカーフで代用できる」と発言したことが印象的だった。

タスクフォースチームのメンバーで公衆衛生局のジェローム・アダムズ長官が、ニュース番組『グッドモーニングアメリカ』に生出演した際、ニュースキャスターに「あなたは1ヵ月前、健康な人はマスクは必要ないので購入しないでと言っていたと思うが、最近CDCがマスク着用を勧めないとするガイドラインを見直す検討をしている。これについてどう思うか」と問いかけたところ、アダムズ長官はこのように答えた。

「CDCやWHO、私が所属する公衆衛生局では、当時知る限りの科学的知識において、防止のためのマスク着用は(意味がないものとして)推奨していませんでした。しかしこの病気について(無症状患者が)感染を広げるなど日に日に解明されてきていることもあり、人々へマスク着用を促すのかどうかについて、CDCに最新の見解を求めているところです」

その上で、アダムズ長官はこのように釘を刺した。

「ただし、マスクを着けているからと言ってソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)が不要だということではありません。どうぞ自宅待機をお守りください。そしてマスクを着用するにしても、N95は医療従事者のためのものなので手を出さないでほしい」

LA市長が黒マスクで会見し話題に

トランプ大統領およびタスクフォースチームの合同会見の映像でもわかるが、今でも政治家は誰もマスクをしていない。

しかし2日になり、ロサンゼルス市のエリック・ガルセッティ市長が、記者会見で黒いマスクを着用し「すべてのLA市民は(食料の買い出しなど)必要不可欠な理由で外出の際、マスクを着用『しなければならない』と強調したのだ。

筆者は、公の場で政治家がマスクを着用しているのをこの時に初めて見た。この場に及んでも、トランプ大統領およびタスクフォースチームのメンバー、さらには感染者数の一番多いニューヨーク州のクオモ知事やデブラシオ市長も含む政治家の誰1人として、マスク着用をしていないため、ガルセッティ市長のマスク姿はなかなかの衝撃だった。

頑なだった「マスク不要」からここにきて「症状のない人もマスクもしくは代用品で顔をカバー」に方向変換しつつあるアメリカのマスク観。

ニューヨーク市では3月末、国連から25万枚のマスクが寄付されるなど、マスク不足を解消しようとさまざまな団体や企業による協力体制があちこちで見られる。またクオモ知事も、マスクや医療用具の生産を中国に頼るのではなく国内で生産可能な企業を募集中だ。しかしながら、一般の人々の需要に応じて、しばらくこのマスク不足はさらに深刻化していきそうだ。

ニューヨークのこの日の感染者数はこちら

Updated:

1. この記事を書いた後、CDCがマスクについての新ガイドラインを発表し、トランプ大統領が国民に医療用でない布マスク着用(手作りを含む)について「する必要はないが、したいと思うなら推奨する」と表明した。大統領はこれからもマスクを着用する気はないようだが、着用したければどうぞという姿勢だ。

日本での報道

アメリカでの報道

2. 4月17日よりニューヨーク州では、公共の場で社会的距離が保てない場合のマスク着用が義務付けられた。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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