米海軍の病院船コンフォート到着 死者千人超えでも希望を捨てない人々(ニューヨーク、今日の風景)
ニューヨーカーの希望の光
「我々が必要としていたものが今、ここに到着した。我々の仲間、海軍兵士によるこの病院船は、ただベッドや医療物資を届けるためだけにやって来たのではない。これは私たちの希望(Hope)なのだ」
現地時間3月30日午前、アメリカ海軍の病院船「USNSコンフォート」(以下コンフォート)がニューヨーク市マンハッタン区のピア90に到着し、ビル・デブラシオ市長はメディア向けのプレスカンファレンスで、力強くこのように語った。
ニューヨーク州内ではこの日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者が6万6497人、死者が1218人(前日965人)となった。コンフォートはこれらの事態を受け、州内にある医療施設のキャパシティを増やすために派遣された。
船内には1000床のベッド、12の手術室、80の集中治療室、医療ラボなどを備えており、ここでは新型コロナウイルス感染症以外の救急患者の治療が行われる。医療関係者1200人が任務にあたる。
- Updated April 6: ニュージャージー州も含む新型コロナ患者の受け入れに転換しました(最大500床)。
コンフォートの船内の写真 バズフィードニュース
コンフォートは通常、国外でのハリケーンや大地震の救済に使われているもので、ニューヨークにやって来たのは2001年の同時多発テロ以来だ。
実はこの日、ほかにジャビッツセンター(Javits Center)が仮設病棟としてオープンした。ジャビッツセンターは平常時、コミコンやNY NOWなどが行われる大型展示会場だ。ここには2500のベッドが設置され、新型コロナ感染症以外の患者が搬送される。
- Updated April 3: 新型コロナ患者の受け入れに転換しました。
州内ではほかにも、大学のキャンパスやセントラルパークの屋外テントを仮設病棟とする計画が急ピッチで進められている。
コンフォートを一目見ようと多くの人々が集まったが、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の確保がされておらず、警官が出てくる一幕も。
Updated: 病院船コンフォートはほとんどのスペースが余る中、全182人を治療し、2020年4月30日無事に任務を果たしニューヨークを出航しました。「被害最多都市からのこの出航は、歓迎すべき兆候である」と関係者談。
取材帰りの非現実的な光景 in タイムズスクエア
ニューヨークでは今、エッセンシャルワーカー(医療現場や交通、スーパーや薬局などで働く人々)以外、自宅待機が求められている。筆者は前夜遅く、コンフォートのプレス用カンファレンスの知らせを急遽受け取り、この日約2週間ぶりに取材に出かけた。
カンファレンス終了後、地下鉄へ向かう途中、ニューヨークの中心地、タイムズスクエアがある。
いつもは全米そして世界中からやって来た観光客でごった返し、なかなか前に進めないくらい人が多いタイムズスクエアが、新型コロナの影響でガランとしている。
どの店もシャッターが降り、店内が暗い。人もまばら。いつもならうるさいほどのクラクション音もない。
感謝祭やクリスマスなど一連のホリデーがすべて終わり、年末最後の大騒ぎをする大晦日の翌朝、つまり静まり返った元旦のようだ。
この街とは1990年代からの付き合いだが、こんなに寂しいニューヨークを初めて見た。
駅に向かって歩いていると、タイムズスクエアの顔なじみの人と遭遇した。
年中パンツ一丁でギターを弾くネイキッド・カウボーイこと、パフォーマーのロバート・バーク氏だ。筆者は15年ほど前、彼に同じ場所でインタビューをしたことがある。まさかこんな誰もいない日にも彼がここに出没しているとは思わなかった(しかも気温は10℃ちょっと。まだコートが必要)
今日だけいつもと違うのは、オリジナルマスクを着けていることだ。
久しぶりに日本語の歌を目の前で歌ってくれたので、チップを出そうとしたところ、ロバートが「いらない、いらない」と言う。「なぜ?」と聞くと「今はソーシャル・ディスタンシングが叫ばれているからいらない。それより経済が早く回復してもらうことを願っている」とクールに言い放ち、次の通行人のもとへと去って行った。
さらに駅に向かって歩を進めると、今度はさっきまでシーンとしていたのに、突然大音量の音楽が聞こえてきた。派手な三輪のスポーツカー、スリングショットが信号待ちをしている。音楽はそのスピーカーからだ。
曲は、フランク・シナトラの『ニューヨーク・ニューヨーク』。
田舎からやって来た男性がこの街で一旗揚げるぞと、人生の再起をかけた希望の曲だ。この曲はニューヨークでは、イベントやエンターテインメントが終わった後に成功を記念してかかる曲で、毎年大晦日のタイムズスクエアのカウントダウン後の定番曲でもある。
筆者が最後にこれを聴いたのは、ちょうど同じ場所で2019年の大晦日のカウントダウンだ。
このスリングショットを走らせるのは、ニューヨーク州ロングアイランドから運転してきたマットさん。誰もいないタイムズスクエアで自身の愛車の撮影にやって来たということだった。
『ニューヨーク・ニューヨーク』(筆者による和訳)
人のいない空っぽのタイムズスクエアで、偶然出くわした『ニューヨーク・ニューヨーク』。
たった2、3人の通行人と共に聴く。
映画みたいなことが、いいことも悪いことも、
今ここニューヨークで起こっている。
注:ニューヨーク州では、記者証を携帯するメディア関係者はエッセンシャルワーカーと位置付けられています。外出制限下で、一般の方に外出や街中での撮影を推奨するものではありません。
(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止