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「非正規だから結婚できない」と言われる一方で、「正社員でも年収500万以上でも生涯未婚の男」問題

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

非正規雇用男性の未婚率は高い

未婚化や婚姻減については「金がないから結婚できない」問題がいつも取り上げられる。特に、いつも持ち出されるのが正規雇用に比べて非正規雇用は不安定で低収入がゆえに結婚に踏み切れないという声も聞かれる。

実際に、正規雇用と非正規雇用とで年収別に男性の生涯未婚率の推移を表したのが以下のグラフである。

正規と非正規とでは全体的にどの年収帯でも非正規の方が生涯未婚率は高い。2020年国勢調査に基づく全国平均は28.3%《不詳補完値》であるが、それとの比較でみると、正規雇用男性は年収300万円以上の場合、全国平均と同等になる。当連載でも以前とりあげた「300万円の壁」のように(参照→20代後半で年収300万円にも満たない若者が半分もいる経済環境では結婚できない)、年収ベースで300万円を超えないと、若者はなかなか結婚には踏み切れないのではないかと書いたが、その通り「300万円の壁」を超えることで既婚率はあがっている。

一方、非正規雇用男性はたとえ500万円以上の年収があっても、全国平均以上の未婚率である。つまり、年収が300万円を超えても、500万円以上あったとしても、非正規雇用であるという不安定さが結婚から縁遠くなる理由と考えられなくもない。

年収500万以上正社員の生涯未婚者が最大

しかし、これだけを見て、「だから非正規雇用が問題なのである。非正規から正規雇用への転換を図るべき」のような理屈は浅はかである。

未婚率ではそうなのだが、未婚者の実数という視点でみると様相が変わる。

ご覧のとおり、45-54歳の生涯未婚者数で正規と非正規を比べてみれば、圧倒的に正規雇用の未婚者が多い。それも最大のボリューム層は年収500万円以上の層である。

非正規の未婚率が高いのは間違いないのだが、生涯未婚者として存在する数は、非正規31万人に対して、正規は109万人と3倍規模になる。

結婚に踏み切れるラインである「300万円の壁」以上で見ても、正規だけで83万人も存在する。婚活市場で最低ラインといわれている400万円以上でも60万人以上だ。

もし結婚が男の年収をあげるだけで成就されるなら、この60万人は既婚者になっていてもおかしくはない。しかし、現実はそうなっていない。いわば、正規雇用であっても、年収500万円以上であっても未婚が増えているということなのだ。生涯未婚率対象年齢の50歳で考えると、むしろ「金がないから結婚できない」問題ではなく、「金があっても正規雇用でも結婚できない(できなかった)おじさん」問題ではないかとさえ思う。

写真:イメージマート

要するに、未婚は正規化非正規化の雇用の問題であり、雇用形態を整えれば婚姻は増えるはずという仮説は成立しないのである。

婚姻減の要因は複雑な迷路

確かに、結婚は経済生活であり、お金は大事だ。若く、かつ、結婚希望があっても「金がないから結婚できない。なぜならば、不安定な非正規雇用の職だからだ」と考えてしまう男性もいることだろう。それは否定しない。

しかし、一方で、18-34歳の未婚男性のうち「結婚に前向き」なのは、40年前からずっと4割程度しかいないという事実も忘れてはならない(参照→デマではないが正しくない。「結婚したいが9割」という説のカラクリ)。今も昔も結婚意欲は大差ないのに、40年前は皆婚できて、現代は3割が生涯未婚であるという乖離は、決して雇用形態や年収だけの問題ではないだろう。

かといって、それは決して最近の若者が草食化したからでもないし、恋愛離れしたものでもなく、40年前の皆婚時代の若者とたいして変わっていないという視点も見逃してはいけない(参照→「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない)。

そもそも、男の7割以上は自分から告白すらできない受け身であることも重要である(参照→日本の男はモジモジして満足に告白もできないというが、フランスやイギリスの男もたいして違わない)。そんな受け身の男たちの背中を押してくれたお見合いや職場結婚という社会的結婚お膳立てシステムももはや消滅しかかっている(参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム)。

非正規を減らせばいいという問題ではない

皆婚時代と現在の未婚者たちの環境で、変わったものもあれば、変わらないものもある。そして、今回は文字数の都合で割愛したが、男性側からだけの考察だけではなく、女性側の状況もあわせて複合的に検討する必要がある。

ありえない仮説だが、少なくとも、仮に未婚男性全員が正社員で年収400万円になったからといって、皆婚が復活することはないだろう。もはやそういう事態に突入している。

提供:イメージマート

「少子化は婚姻減が問題なのだから、婚姻を増やせばいい」という課題の抽出は間違っていない。しかし、その婚姻を増やすことそのものが、異常に難易度の高い、複雑怪奇な迷路のようなハードモードゲームになっており、単純に正規雇用を増やせば解決するなどいう簡単な話ではない。

しかし、婚姻増云々を語る以前の問題として、もっと憂うべきことは、50歳の正規雇用ですら年収300万円に到達しない未婚者が26万人もいるということ、その割合は正規未婚者全体の25%を占めているという賃金状況であり、そうなってしまっている日本の経済状況そのものかもしれない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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