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20代若者の経済的不安の解消こそが少子化対策であるのは明白なのに「とぼける人たち」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
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成果の無いことをいつまで続ける?

少子化の原因は婚姻減である。

これは、当連載でも以前から繰り返し申し上げていることだが、婚姻数の減少と出生数の減少とが完全に一致することからも明らかな事実である。

思えば、政府が少子化担当大臣を設置したのが2007年。そこからさまざまな少子化対策名目の予算は増え続けている。いわゆる少子化対策予算とされる家族関係政府支出GDP比というものがある。政府の会議体に呼ばれるような有識者などは、「日本は欧州に比べてこの予算(GDP比)が足りないから少子化になるのだ。ここの比率をあげれば解決する」などと言う者がいるのだが、全くの間違いである。

2007年当時このGDP比は0.7%程度だったものが、2020年には2.0%へと約3倍増となっている。が、お金を3倍もかけた割に、出生数の増加に寄与しないどころか、むしろ減少に拍車をかけている

2007年の出生数は108万9818人だったが、2023年には72万7288人へと減少した。一方で、婚姻数も 71万9822組から 47万4741組へと減少。減少率は、出生数▲33%、婚姻数▲34%とほぼ一緒である。

要するに、婚姻数が減った分だけ出生数が減ったのであり、子育て支援偏重型の少子化対策では何の効果も得られないことを証明するものである。

事実、韓国にしろ、シンガポールにしろ、ましてや「見習え」とされたフランスや北欧でさえ、この予算と出生率とは何の相関もない。

子育て支援は大事だし、否定しないが、何よりその子どもを新たに出生する助走としての婚姻数の減少を抑えない限り、絶対に出生数は増えない。

参照→「子育て予算を増やしたからといって出生率はあがらない」日本だけではなく世界各国みな同じ

20代の婚姻減の経緯

少子化は婚姻数の減少であるが、婚姻数の減少とはすなわち20代の若者の初婚数の減少に尽きる。

これも何度も書いてきていることだが、婚姻減は男女ともほぼすべてが20代の減少だけであり、メディアがよくいう「晩婚化」などは起きていない。晩婚化ではなく、20代が20代のうちに結婚しなければそのまま非婚化するだけなのである。

参照→晩婚化などは存在しない/少子化担当大臣ができてから20代の初婚だけが激減している現実

では、なぜ20代の婚姻数が減っているのかという話になるが、これは何も今に始まったことではなく、1990年代後半から始まっている。

この時、日本には第三次ベビーブームが来るはずだった。90年代後半に25歳を迎える世代は第二次ベビーブームで生まれた世代だからである。しかし、それは来なかった。結婚した夫婦が子どもを産まなかったからというより、婚姻数が減ったからである。この時より未婚率が上昇し始める。

問題は、この時期に若者がなぜ結婚をしなくなり始めたのかという点である。これはまさにバブル崩壊後の本格的な不景気の到来とそれに連動した就職氷河期の到来による若者の経済環境の悪化である。1995年に25歳だった若者が、50歳となった2020年の生涯未婚率(50歳時未婚率)が男女とも統計上過去最高となったことがそれを物語っている。

就職氷河期が終わっても、続くリーマンショック、東日本大震災、消費増税、コロナ禍と経済的打撃を伴う出来事が続いて今に至る。

「失われた30年」などと言われるが、同時にこの期間は「若者の経済的不安が増加し続けた30年」でもある。

手取りが増えないどころか減った

何より、大きな事件以上に若者を追い詰めてきたのは、個人の手取りの減少である。2000年代に入ってから、特に社会保険料はステルスでチマチマとあげられ、毎年額面給料はあがっているのに手取りが増えないという珍現象も起きた。

国民生活基礎調査から、20代世帯主の額面所得と可処分所得の中央値を計算してその推移を見れば一目瞭然だが、2023年の可処分所得中央値は1996年のそれにすら届いていない。「たいしてあがっていない」のではなく、30年近くも前と比べて「下がっている」という異常性。当然、ここ最近の急激な物価高も勘案すれば、1996年の20代より令和の若者はもっと苦しいだろう。

その苦しさは、内閣府世論調査の「経済的不安」の割合に如実に表れている。

1996年当時、30%台だった不安率が2023年には倍増の7割を超えた。そして、この経済的不安が増せば増すほど、完全な強い負の相関として若者の初婚率が下がるのである。

「まずはお金の問題」

経済的不安に限らないが、不安があれば人間は行動を抑制するようになる。経済的不安が高ければ、経済的コストのかかる行動はしないようにする。

20代の若者にとって、もっとも節約しやすいのは遊びや娯楽費だろう。しかし、そんな遊びの中にこそ恋愛が生まれる機会がある。遊びができるというのは、ある意味心の遊び(余裕)があってこそでもある。つまりは、経済的不安は恋愛行動を生まなくなるのである。

事実、お金がなければ結婚どころか、恋愛行動もしない。

参照→「お金がなければ男は結婚できない」のその先へ「お金がなければ恋愛もできなくなった

「金がないから結婚できないは言い訳だ」と言い続ける上級国民も相変わらずいる。「金がないからこそ結婚をするのだ」といういつの時代の人間かと思うような時代遅れの説教おじさんもいる。

しかし、間違いなく、結婚も出産ももはや消費活動のひとつであり、しかも「贅沢品」化している。夫の年収が300万円あれば、一馬力でもなんとか結婚・子育てができた時代ではなくなっている。

実際、婚姻数が減っているのは、この中間層の若者の層だけであり、年収上位層は以前と同様全く婚姻数は減っていない。

参照→かつて日本を支えていた所得中間層の落日「結婚も出産もできなくなった」この20年間の現実

男性に関していえば、高年収層の未婚率は増えていない。増えているのは中間層以下だけ。給料の高い大企業や安定した公務員の未婚率も増えていない、減っているのは、それ以下の層だけ。全体的に人口ボリュームの大きい中間層だけが結婚できなくなっている。

共通するのは「まずはお金の問題」なのである。年収中央値で半分以上も結婚できなくなっているのだからそうなるのは当然だろう。

とぼける大人たち

1月6日の「BSフジLIVEプライムニュース」という番組で、視聴者から「103万円の壁のような小さな問題で、国会が紛糾している場合ではない。一番の問題は少子化ではないですか」といった質問に対し、石破首相が「その通りです」と即答したことがニュースで話題になった(→石破茂首相 103万の壁引き上げより少子化対策求める声に「その通り」「日本にとって一番大事な問題」

写真:つのだよしお/アフロ

103万円の壁引き上げは、手取りを増やすひとつの方策であり、決して小さな問題ではないし、少子化と密接にかかわっている問題でもあることは本記事に書いた通りだ。

課題は明確で、20代の結婚を希望する若者がお金の心配や不安を覚えることなく結婚できる経済環境を大人たちが整え、若者が「大丈夫」と思えるようになることこそが最大の少子化対策なのである。

なのに、岸田前首相もそうだったが、一向にそこを頑なに実践しようとしない。

冒頭に「家族関係政府支出GDP比を増やせば少子化解決」などという暴論を紹介したが、同じ有識者が「そのためには財源が必要。日本は北欧などに比べて国民負担率がまだまだ低い。これをあげることで予算を増やす」などと言っている。つまりは、何の効果もない子育て支援にさらにムダ金を投じることで大増税をしろというのだ。

一体、どこの回し者なのだろう。

国民負担率を増やしてきたからこその今の婚姻減・出生減なのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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