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「数百人集め女性2人を処刑」北朝鮮、強制送還の11人を見せしめに

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

国連で北朝鮮の人権問題を担当するエリザベス・サルモン特別報告官ら7人の人権専門家は、中国から強制送還された脱北女性2人が処刑されたとの情報を入手したとして、北朝鮮に説明を求めた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

サルモン氏らが北朝鮮当局に書簡を送ったのは昨年11月6日のこと。その内容は、北朝鮮当局が中国から強制送還された脱北女性2人を死刑、9人を終身刑にしたとして、関連情報の提供と説明を求める、というものだ。

サルモン氏らは、国際法は死刑宣告について、「最も深刻な犯罪」に限定されなければならないと規定しているとし、北朝鮮は死刑を受けた女性2人の容疑がこのような基準を満たしていないにもかかわらず、控訴する権利もないまま即座に処刑されたと指摘した。

また、終身刑を宣告された9人の脱北女性の行方がわからなくなっていることについても懸念を表明し、北朝鮮の管理所(政治犯収容所)において、女性たちが拷問を受け、残酷で非人道的で屈辱的な環境に置かれていることはよく知られている事実だとも指摘している。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

この件については、昨年9月の段階で一部メディアが報じている。

RFAは韓国のNGO「キョレオル統一連帯」のチャン・セユル代表の話として、処刑されたのは39歳のイさんと43歳のカンさんで、昨年8月31日に咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市内で見せしめのための公開裁判にかけられ、死刑判決を言い渡されたと伝えた。罪状は、ほかの脱北女性たちを韓国に送ったことに対する「人身売買」だったという。

北朝鮮当局は以前から、同じ脱北者であっても、韓国行きを試みたりほう助したりした人々に対してはとくに厳しい態度で臨んできた経緯がある。

さらに、清津を訪れて公開裁判を目撃したというRFAの情報源は、裁判には数百人の市民が集められ、1時間にわたり行われたと証言している。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスの流入を防ぐとして国境を封鎖。中国で摘発された脱北者たちは、中国国内の収容施設に留め置かれていた。

しかし2023年夏までに国境封鎖が解除されると、脱北者の強制送還も段階的に進められた。国際社会の厳しい批判にもかかわらず、送還は着々と進められている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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