一般道で時速157キロ、6人死傷事故になぜ執行猶予? 息子亡くした遺族の悲憤
■判決は「懲役3年 執行猶予5年」
7月15日、福島地裁いわき支部で、「過失運転致死傷」の罪に問われていた19歳の被告に対する判決が出されました(三井大有裁判官)。
「主文、被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する」 (*求刑、懲役4年以上6年以下)
判決を傍聴したいわき市在住のAさんはこう語ります。
「近所で起こった事故だったので気になり、傍聴しました。一般道で時速157キロ出して起こった今回の死亡事故が、『危険運転』ではなく『過失』で起訴されたこと自体、意外でしたが、まさか執行猶予がつくとは……。また同じような事故が起こってしまうのではないかと不安です」
本件事故については、5月に以下の記事で報じました。
【6人死傷】一般道で時速157キロは「過失」ですか? 同乗中に即死、息子失った両親の訴え(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
2021年7月24日午後10時10分頃、当時18歳だった専門学校生の被告が自分の車に友人5人を乗せて買い物に行く途中、一般道で時速157キロを出し、制御不能となって橋の欄干に激突。欄干のポールが車に2本突き刺さり、後部座席に乗っていた内山裕斗さん(18)が死亡、被告を含む5人が重軽傷を負うというものでした。
●事故直後の現場映像https://youtu.be/_DYLTQgBWPQ
初心者の少年による同様の暴走事故で実刑判決が相次ぐ中(下記の記事参照)、本件はなぜ執行猶予判決となったのか……。
7月20日、判決文が遺族の手元に届きましたので、早速、その内容を見ていきたいと思います。
<類似の事故についての判決記事>
●時速104キロでカーブ曲がれず大事故 「危険運転」で起訴された元大学生の言い訳と判決の中身(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
●【4人死傷】無謀運転の少年に奪われた命 日本も初心者ドライバーに法規制を(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
■法定速度60キロの道を、時速157キロで暴走
まず、「罪となるべき事実」として、三井裁判官は、「被告が法定速度60キロの一般道を157キロで暴走」し、甚大な被害をもたらしたことについて認めています。
<同所(*事故現場)は、左に湾曲している道路であったから、法定速度(60キロメートル毎時)を遵守するはもとより、前方を注視し、ハンドル・ブレーキを的確に操作し、進路を適正に保持して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、時速約157キロメートルの高速度で進行したうえ、左方を脇見して前方を注視せず、かつ、ハンドル・ブレーキを的確に操作しないで進行した過失により、自車を右前方に暴走させて道路中央分離帯の縁石及び橋の欄干に衝突させ、よって、自車運転席側後部座席に同乗していた内山裕斗(当時18歳)に重症頭部外傷の傷害を負わせ、死亡させたほか、自車に同乗していた4名にそれぞれ傷害を負わせた>(判決文より抜粋)
そのうえで、判決文には『被告人の刑事責任を軽く見ることはできない』と明記されていました。
では、なぜ実刑ではなく、執行猶予が付いたのでしょうか。「量刑の理由」を抜粋します。
<被告人は、尋常ならざる高速度で自車を運転していたものであるが、同乗者らも被告人が高速度で運転することを楽しみ、はやすようにしていたというのであるから、被告人がそうした車内の雰囲気に後押しされてさらなる高速度を出した面があることもうたがわれる>(判決文より抜粋)
<脇見の原因は、被告人が供述するとおり、同乗者のいずれかが持つマネキンの髪の毛が被告人の左方に当たったためと認められる。これらの点にかんがみると、同乗者らの言動が被告人の過失に影響を及ぼしたことを必ずしも否定し難い>(判決文より抜粋)
判決文からは、同乗者がはやしたてたから時速157キロまで出した可能性がある。被告が脇見をしたのは、同乗者がマネキン(*被告が専門学校で使用し、車内に積んでいたもの)でいたずらをしたから、と読み取れます。
そして、判決文の結びには、執行猶予の理由についてこう記載されていました。
<被告人が事実を認め、今後二度と自動車の運転はしないし、本件の責任をとるためどのような刑罰でも受け入れる旨を述べ、被害者らやその遺族に対して謝罪をし、今後もお詫びを続けたい旨を述べるなど、被告人なりの反省と謝罪の態度を示していること、(中略)被告人が少年であり、前科前歴がないことなど、被告人のために有利に考慮すべき事情もある。そうすると、被告人を直ちに実刑に処することが相当であるとまでは認めがたいというべきであるから、今回に限り、その刑の執行を猶予することとする>(判決文より抜粋)
しかし、遺族はこの判決に納得できないといいます。
被告は、事故から半年以上たってから行われた検察庁での取り調べで、亡くなった裕斗さんの名前を挙げ、以下のように供述していました。
<被告が検察で述べた「供述」の一部>
裕斗さんの母親・由美さんは言います。
「裕斗がいたずらをしたという証拠はどこにあるのでしょう。時速130~140キロも出して、2~3秒わき見をすることができますか? 私は、被告がこの事故の原因を亡くなった裕斗のせいにしているように感じます」
■同乗者は訴える「マネキンでいたずらなどしていない」
実は、私のもとには被告が起訴された直後、事故車のラゲッジスペースに乗っていたというB君から連絡が入っていました。この事故の原因が「脇見=過失」で処理されようとしていることに大きな疑問があるというのです。
B君はこう話しました。
「僕らははやし立てたりしていませんし、裕斗君は後ろからマネキンでイタズラなんてしていません。僕が一瞬、スピードメーターを見たときは時速170キロまで出ていました。事故の原因は明らかに速度の出しすぎだと思います。脇見じゃないです」
この事故で、右橈骨(前腕)遠位端挫傷、右第2・3中手骨骨挫傷で全治3か月の重傷を負ったB君は、衝突角度がほんの少しずれていたら、自身も欄干ポールの直撃を受けていたといいます。
彼は刑事裁判が始まってから、「自分の証言もきちんと聞いてほしい」と担当検事に連絡しましたが、調書を取られることも、法廷に呼ばれることもありませんでした。
内山さん夫妻は、このときの検察の対応に戸惑ったと言います。
「検事は私たちに、『同乗者のB君から連絡がきたが、もう決まっていることなので……』という内容の説明をしました。意味がよくわかりませんでしたが、結果的にB君の証言は出ないまま裁判は進みました。そのため、裁判官は被告の証言を採用することになったのだと思います」
■なぜ被告の言い分だけがとおるのか?
真っ向から食い違う、被告の供述と同乗していた被害者・B君の証言。本来であれば、検察はB君の証言も聴取し、裁判の証拠資料として提出すべきだったのではないでしょうか。
由美さんは語ります。
「そもそも、法定速度とは何のためにあるのでしょうか。ハンドルを握り、アクセルを踏んでいたのは被告本人です」
控訴期限まであと1週間……。検察は控訴するのか、そして、B君の証言が高裁で検証されることはあるのか。
両親は祈るような思いでその判断を待っています。