【4人死傷】無謀運転の少年に奪われた命 日本も初心者ドライバーに法規制を
「かっこよく車を運転して、いいところを見せたい、スピードを出すのが楽しくなって調子に乗った……、そんな馬鹿げた理由で暴走した運転未熟者に、大切な息子の命を奪われてしまいました。実刑は下されましたが、これが『過失』とされたことには今も納得していません」
時折、涙で声を詰まらせながらそう語るのは、埼玉県深谷市在住の高田昌美さん(44)です。
1年半前、埼玉県鴻巣市で発生した4人死傷の暴走事故で、当時高校3年生だった長男の麗史さん(当時18)を失いました。
5月6日、さいたま地裁で加害者の少年A(19)に下された判決は、懲役2年以上3年以下の実刑でした。
裁判官はその理由について、「(少年Aは)高速度で運転できることを同乗者に誇示したいと考え、意図的に車を加速させた。単なる不注意ではなく無謀運転の結果であり、過失は悪質かつ重大。実刑はやむを得ない」と述べました。(以下の記事参照)。
■わずか10分の間に起こった暴走事故
過失は悪質かつ重大――。
裁判官にそこまで言わしめたこの事故は、いったいどのようなものだったのでしょうか。
助手席に乗って重傷を負いながらも、同乗者の中で唯一助かったBさんの証言や裁判記録などをもとに、まずは、何が起こったのかを振り返ってみたいと思います。
<事故発生まで、10分間の経緯>
2019年12月13日、麗史さんは運転免許を取得するため鴻巣の免許センターへ。午前中、最終の学科試験に合格し、午後には免許証の交付を受ける予定でした。偶然、同じ高校のBさん、Cさんがいたので、3人で昼食を取り、数百メートル先のコンビニに徒歩で向かいました(高校ではこの時期、運転免許取得を許可していた)。
Bさんがインスタに学科試験に合格したことを投稿していたのを見た同じ高校のAが、Bさんに電話をかけてきました。Aは4か月前に免許を取得しており、親の名義で購入したばかりの車(日産ステージア)に乗って、即、コンビニにやってきました。
少し話をした後、麗史さんら3人は徒歩で免許センターに戻ろうとしました。Aが「乗せて行くよ」と言いましたが、Bさんは「すぐそこだから」といったん断りました。それでも「乗って行けよ」と言われたので断りきれず、3人とも乗車。麗史さんは、後部座席に乗り込みました。
3人を乗せて走り出したAは、「駐車場がわからない」などと言い、周り道をして逆方向の道に進入すると、速度を落として前車との車間を空け、急に加速し始めました。危険を感じた同乗者の3人は「事故るだろ、やめろ!」などと叫びましたが、それでもAはアクセルを踏み続けました(裁判では制限速度40キロの道で、時速118キロ出ていたと認定されている)。
現場は緩やかなカーブでしたが、速度超過によって車は大きく膨らみました。さらに対向車を避けるために大きくハンドルを切ったことで車は制御不能になってガードレールを乗り越え縦回転をし、前方に停車していたユンボに突き刺さるかたちで大破し、停車。
助手席に乗っていたBさんは顔面骨折の重傷、後部座席に乗車していた麗史さんは重症頭部外傷で意識不明の重体、麗史さんの隣に乗車していたCさんは頭部及び顔面を半分欠損し、即死の状態でした。
事故直後、車から降りてきたAは、「どーする、どーする? 猫をよけたって言えばいいかな」などと言いながらパニック状態で、負傷した友達を救助しようともしませんでした。
■「脳死状態」と宣告され、38日目に…
昌美さんは語ります。
「私は麗史が4歳のとき夫と離婚し、以来、女手ひとつで二人の子を育ててきました。この日は、麗史が運転免許証を取得するということで、いつのまにかこんなに成長したんだなあと感慨深いものがありました。それで、ささやかなお祝いに、麗史の好きなハンバーグを作ってあげようと思い、私は残業にならないよう頑張って仕事をしていたんです」
警察から、電話がかかってきたのは、ちょうどそのときでした。
「事故の知らせを聞き、ただ無事を祈りながら病院へ駆けつけると、やっと会えた麗史の頭は岩のように腫れ上がっていました。耳元で『ママだよ!』と呼びかけても答えはなく、力強く手を握り締めても、その手が握り返してくれることはありませんでした」
麗史さんは緊急の開頭手術を受けました。しかし、すでに手の施しようはなく、医師から告げられたのは、「脳死状態で、今日か明日には亡くなるかもしれない。奇跡的に命を取りとめたとしても、3週間でしょう」という絶望的な言葉でした。
「それでも麗史は頑張って、クリスマス、大晦日を迎え、年を越してくれました。1月には2歳年上の姉の成人式があったのですが、きっと、大好きなお姉ちゃんの晴れ姿を見たかったのかもしれません」
下の写真はそのときに撮った記念写真です。
「病院のスタッフの方のご厚意で、なんと、麗史に学制服を着せてくださったんです。何気なく、『制服を持っていらっしゃい』と言われたので、肩にかけるだけだと思っていたのですが、病室に入ってみたら、ちゃんとネクタイまでしてもらって……。本当に感謝してもしきれませんでした」
麗史さんはこの写真を撮ってから1週間後、息を引き取りました。
事故から38日後のことでした。
コンビニの駐車場でAの車に同乗してからおよそ10分、このわずかな間にAがおこなった身勝手な無謀運転が、高校3年生の同乗者3名を一瞬のうちに死傷させ、2人の未来を奪い去ったのです。
■免許取り立ての若者にありがちな、危険な虚栄心
なぜ、あのとき、Aの車に乗ってしまったのか……。
昌美さんは、今も悔しくてたまらないと言います。
「私は息子によく言ってたんです。『免許取り立ての若者が友達を乗せて危険な運転をして、大事故を起こすニュースをよく見るけれど、18歳のころは免許取り立ての未熟な子が周りに多くなる時期だから特に気をつけてね、一生懸命育ててきた我が子が、こんな事故に巻き込まれたらたまらないから、そういう車には絶対に乗らないでね』と。息子はいつも、『わかってるよと』答えていたのに、なぜ、あの日、限って乗ってしまったのか……。ほんのすぐそこまでだから大丈夫だと思ったのでしょうか。とにかく、悔しくてたまらないんです」
昌美さんが危惧していたように、若い初心者ドライバーの無謀運転による重大事故は多数発生しています。
以下の記事でも取り上げた通り、広島でも初心者ドライバーの無謀運転による事故が起こっており、加害者の少年は「危険運転致傷罪」で起訴されています。
『危険運転の被害で女子大生が全身麻痺に 再生医療に希望を託す両親の苦悩【親なき後を生きる】』(2021.3.8)
「自分のクルマを自慢したい」「友達にカッコいいところを見せたい」といった、若者にありがちな自己中心的な虚栄心が、いかに危険で、無意味なものであるか……。
ハンドルを握る責任が、いかに重いものであるかを、中学や高校時代からしっかり教える必要があるでしょう。
■アメリカでは初心者に同乗者を規制する州も
ちなみに、アメリカ・カリフォルニア州の道交法では、『初心者ドライバーは20歳以下の同乗者を乗せてはいけない』といった、以下のような規制を設けています。
(*注/同州での免許取得最低年齢は16歳。成人年齢は18歳)
<未成年者および免許取得1年未満の者への法規制>
●深夜(23時~5時)の運転禁止
●20歳以下の同乗者の禁止
(ただし、保護者、25歳以上の免許取得者、有資格運転指導員が同乗している場合を除く)
●未成年者(18歳未満)の運転中の携帯電話の使用は禁止
(成人は、ハンズフリー装置を使えば携帯の使用は認可されている)
〈翻訳協力 Jun Jim Tsuzuki氏〉
日本でもバイクの二人乗りについては、二輪免許を取得してから1年を経過していなければ禁止されています(道路交通法71条の4第5項・第6項)。しかし、四輪車にはまだこのような規制がありません。
もし、初心者ドライバーに対する同乗者への規制が法制化されていれば、麗史さんのような被害者をなくすことができるのではないでしょうか。
一審の判決を終えた今、昌美さんは改めて、麗史さんの死を無駄にしたくないと語ります。
「アメリカのように、人の命を守るための法改正は日本にも必要です。また、初心者の未成年に車を与える際の制御装置の必要性や親の責任の問題も、もっと真剣に考えていくべきです。麗史はいつもニコニコと笑顔を絶やさず、周りの人を幸せな気持ちにさせてくれる子でした。あの子がそこにいるだけで、ささやかだけれど幸せな毎日をずっと続けていけるはずでした。でも、それが叶わなくなった今、私は同じような事故の再発を防ぐために活動をしていきたいと思っています」