トランプはFRBに手を付けてアメリカの根幹を揺るがすのか?
フーテン老人世直し録(217)
卯月某日
フーテンはアメリカ大統領選挙の「トランプ現象」に関心がある。暴言を吐く候補者になぜ多くの国民が惹かれるのか、そこに興味がある。共和党内の「ネオコン」が強く反発しているのを見ると、トランプは「ネオコン」の目指す「一極支配」とは立場を異にしている。
またトランプは共和党穏健派からも批判されている。共和党指導部は党を挙げてトランプの足を引っ張り過半数の代議員を獲得させないように画策している。そのため穏健派が宗教右派のテッド・クルーズを支持する素振りまで見せた。
ところが19日に行われたニューヨーク州の予備選挙でトランプは圧勝し、クルーズに大きく差をつけた。そして経済誌「フォーチュン」とのインタビューで、自分が大統領に就任すればイエレンFRB議長を交代させ、FRBの権限を縮小して議会の監督下に置く考えを表明した。
この考えはトランプが「リバタリアン」であることを示している。リバタリアンは個人的自由と経済的自由を何よりも尊重し、個人が政府や国家から強制されることを徹底して嫌う。経済的自由がない社会主義とも個人的自由がない保守主義とも異なる思想である。
ワシントンDCには「ケイトー研究所」というリバタリアンのシンクタンクがあり、フーテンがアメリカ政治を取材し始めた90年代、そのメンバーがシンポジウムで共和党や民主党の政治家と冷戦後のアメリカを巡り論争するのをしばしば見た。そして日本人にはなじみのないリバタリアンの考えにフーテンは興味を持った。
彼らは湾岸戦争やイラク戦争などアメリカが外国に介入することを全面的に否定し、日米同盟についても在日米軍基地の撤廃や日米安保体制の解消を主張、日本には核武装を含む自主防衛を認めるべきだと主張する。またテロを防ぐため捜査機関の権限を強化する愛国者法や同性愛を認めない法律にも自由主義の立場から反対していた。
リバタリアンの思想に共鳴するアメリカ人は少なくない。二大政党制のアメリカだから民主、共和の両党しか日本人は知らないが、オバマが再選された前回の2012年大統領選挙ではリバタリアン党が共和党に次ぐ第3位の票を獲得した。
そして共和党の中にもリバタリアンは存在する。すでに引退したロン・ポール元下院議員は共和党の大統領予備選に何度も立候補したが、彼の主張の中にFRB(連邦準備制度理事会)の廃止があった。トランプはその遺志を継ごうとしているのかもしれない。
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