「焼肉」の祖は中国大陸か朝鮮半島か
肉食は、日本を含む世界中で連綿と継がれてきた食文化だ。だが宗教による禁忌や領土争い、植民地化が複雑に絡み合い、様々な制約のもと、各国の肉食・食肉文化はそれぞれの形に発展していった。7世紀に肉食が禁じられて以降、表向きは19世紀まで庶民は肉食にありつくことはなかった。
日本における肉食は複雑な歴史に翻弄されてきた。という歴史的アプローチから、安全に肉食を満喫する考え方の基本、店舗や家での焼肉の焼き方について……。膨大な範囲の肉食の基礎知識を網羅した(……というか、各方面に気を散らした)「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社)という本を7月1日に出版することになった。今回は本書の内容(一部〉に照らしながら、追加で調べた本書に含まれていない内容も盛り込みつつ、日本の焼肉のルーツに思いを巡らせたい。
日式焼肉の祖は中国大陸か朝鮮半島か
小さい肉、切った肉の炙り焼きの歴史はアジア圏に多い。海外ではナイフ・フォークがおっパン的だが、箸を使うアジア圏では調理する段階で肉を小さく切り分ける手法が多く用いられてきた。中国最古の農業書「斉民要術」(540年頃)にも、現代の焼肉に近い料理が記録されている。
炙り・焼きもの料理に「炙法」という項目がある。素材となる肉は豚、羊、牛、ノロジカ、シカ、ガチョウ、アヒルなど。肉は丸焼きや切肉にして、多くは串に刺して直火焼きされる。タレに浸けて焼くもの、味付けせずに焼くものなど、様々な焼き方が紹介されているが、そのなかに以下のような記述がある。
一寸四方に切った肉を、すり砕いた白葱に鹹豉汁を混ぜたタレにひたひたになる程度に漬けた後、しばらくしてから炙る。
鹹豉とは、「豆豉」などに代表される煮た豆の発酵食品で、塩気のあるものの総称を指す(※)。肉を、豆由来の液状発酵調味料に、みじん切りの長ねぎを加えたタレに漬けて焼く。これはもう完全に焼肉である。私たちにとっての焼肉の原型は1500年前の中国にあった。が、直接の祖かというとこれがなんとも微妙なのだ。
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