Yahoo!ニュース

ラッピング電車にマンホール ポケモンの地方活性化 狙いは

河村鳴紘サブカル専門ライター
ポケモンと福井県の協定を締結した会見の様子

 アニメやゲームなどを展開する「ポケットモンスター(ポケモン)」をプロデュースする株式会社ポケモン(東京都港区)が、地域活性化に相互協力する協定を福井県と締結しました。「ポケモン」のカイリューが「ふくい応援ポケモン」に就任し、同県でラッピング電車が運行するほか、スタンプラリーの開催、カイリューをデザインしたマンホールが設置されます。狙いや意味について考えてみます。

◇自治体も安心 圧倒的なコンテンツのパワー

 今回の発表は、地域とポケモンの魅力を互いにアピールする企画「ポケモンローカルActs」の一環です。同企画は5年前の2018年に開始。福井は九つ目の都道府県で、これまでに北海道、岩手、宮城、福島、三重、鳥取、香川、宮崎で展開しています。既に多くの実績があるわけで、少し意地悪に言えば、新鮮味を重んじるニュースの価値は薄れますが、逆に言えば自治体との協力関係を着実に構築しているとも言えます。

 そして株式会社ポケモンは、2011年の東日本大震災を受けて災害支援に長年取り組んでいて、後に一般財団法人のポケモン・ウィズ・ユー財団を設立し、全国の子ども食堂を支援しています。他の社会貢献とは異なり、子供たちが楽しくなるよう「思い出」作りを重視しているのがポイントです。

【関連】10年以上続くポケモンの社会貢献活動 財団設立・こども食堂支援の狙いは

 コンテンツを活用した地域振興と言うと、人気作品の舞台やモデルとなった地域をファンが訪れる現象「聖地巡礼」が知られています。しかし、この手の作品は、テレビ放送などでコンテンツが盛り上がるときは良いものの、人気が落ち着いた後では苦労する一面があります。また、こうした「聖地巡礼」はファンには喜ばれる一方で、ファン以外からの理解が得られず、ハレーションを起こすケースがあります。特にエッジを利かせたタイプのコンテンツは、扱いの難しい一面があるのも事実です。

 その点ポケモンは、テレビアニメがずっと放送され、新作ゲームも継続的に発売されています。何せ売れたゲームソフトの世界累計出荷数は、4億8000万本以上。世界各国の異なる価値観に耐えた実績の証といえます。地域振興はしたいものの、さりとてトラブルを避けたい自治体にとって、ポケモンの持つコンテンツの実績は頼もしい限りでしょう。

【関連】ポケモン25周年 日本発の“怪物”コンテンツが世界を席巻するまでの軌跡

◇狙いは「思い出」作り

 マンガやアニメ、ゲームなどのエンタメコンテンツで、マルチメディア展開は昔からの王道です。ですが近年は、さらなる新規ユーザーの獲得を目指して、露出や強力な展開をしようと躍起になっていますから、コンテンツ間の競争は激烈です。特にSNSが普及して、消費者のバズりにメディアが飛びつく構造が完成しつつあり、ごく一部の“勝ち組”コンテンツが、話題も収益もさらってしまう傾向は強まっています。

 その中で、ポケモンの取り組みは、先を行っています。「ポケモンローカルActs」は、ロイヤリティーを取ってないことを明かしています。また、新型コロナウイルスの感染拡大で経営に苦しんだ観光・航空産業を支援する目的で、ピカチュウを描いた飛行機を運行する「そらとぶピカチュウプロジェクト」も、制作時の版権使用料を無償にし、塗装費用も負担しています。

【関連】ご当地“推しポケモン”が続々誕生、なぜ今地域PR?(東京ウォーカー)

【関連】ポケモンが版権料なしで観光支援 第1弾はピカチュウジェット(日経クロストレンド)

 コンテンツのビジネスにおけるロイヤリティー収益は、ビジネスの「うまみ」の一つです。しかし、ゲームの最新作が出るたびに世界でヒットを飛ばして、定期的に莫大な収益を得られる「ポケモン」は経営基盤が安定していて、場合によってはロイヤリティーを求めない選択肢が取れてしまうわけです。

 そして社会貢献や地域の活性化に力を入れてることで、アニメやゲームの世界を飛び出し、現実世界で消費者に接触して「思い出」を着実に築いています。そして良き「思い出」は時間の経過とともに、輝きを増し、価値が増幅する傾向にあります。「昔、~は楽しかった」「~に行ったけれど面白かった」という「思い出」話は、コンテンツ側にとって、狙いの一つだからです。

 今後気になるのは、「ポケモンローカルActs」に参加する都道府県が引き続き増えていくかです。多くのエンタメコンテンツの「聖地巡礼」現象は流行に左右されやすい一方、「ポケモン」の場合は、アニメとゲームの展開をはじめとしてコンテンツが継続的に露出できるため、旬に左右されづらい点があります。

 さらに地域のかぶりもなく、どの自治体にもアプローチでき、ファン以外にも受け入れられやすく、老若男女をターゲットにできるなど、弱点らしきものが見当たりません。既に親子の二世代コンテンツになっている「ポケモン」ですが、もはや親子孫の三世代を意識する段階に入っているのではないでしょうか。

 「ポケモン」のアニメを見ずとも、ゲームをせずとも、コンテンツに接触する機会を継続的に作ることができる「ポケモンローカルActs」。今後も注目したいところです。

福井県の観光名所として知られる東尋坊や県立恐竜博物館をつなぐ「えちぜん鉄道」で2024年初夏頃に運行を予定しているラッピング列車のイメージ
福井県の観光名所として知られる東尋坊や県立恐竜博物館をつなぐ「えちぜん鉄道」で2024年初夏頃に運行を予定しているラッピング列車のイメージ

(C)2023 Pokémon. (C)1995-2021 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。Nintendo Switchのロゴ・Nintendo Switchは任天堂の商標です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事