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10年以上続くポケモンの社会貢献活動 財団設立・こども食堂支援の狙いは

河村鳴紘サブカル専門ライター
ポケモン・ウィズ・ユー財団のホームページ

 アニメやゲームで人気の「ポケットモンスター」シリーズをプロデュースする株式会社ポケモン(東京都港区)が、10年以上も社会貢献に力を入れているのはご存じでしょうか。昨年、一般財団法人のポケモン・ウィズ・ユー財団を設立。先月から札幌市をピカチュウが訪問し、2年間かけて47都道府県のこども食堂を回る予定です。財団の設立、こども食堂を支援する狙いについて聞きました。

◇子供が笑顔になると大人も笑顔に

 同財団の名前でもある「ポケモン・ウィズ・ユー」は、文字通り「ポケモンが子供たちに寄り添うことで笑顔にする」という思いが込められています。きっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災で、災害を目の当たりにした株式会社ポケモンの社員有志が自発的に「子供たちの力になりたい」と考えて動き出したことです。

 最初は現地の情報収集をして、つながりのあった幼稚園などへ物資を支援。関東地域の避難所訪問などをした後で、4月16日に宮城県の気仙沼を訪れました。被災地の電力事情を考慮して、電力を必要としないポケモンの折り紙やカードゲームなどを避難所に持ち込んだのです。そして支援プロジェクトを「ポケモン・ウィズ・ユー」と命名。被災地でショックを受けていた子供たちが、ピカチュウの来訪に驚きながらも抱きつき、笑顔を見せたそうです。

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 同年の12月には「ポケモンセンタートウホク」を驚異的な速さでオープンし、同センターの収益などを原資としました。ポケモンセンターは原則、トウキョウやオーサカなどの都市名が付きますが、トウホクのみ地域名なのは理由があります。所在地は仙台市ですが、東北地方を支援する“拠点”という意味を込めたためです。

 同財団・事業グループ、リーダーの新井賢一さんは「当時の思いは、今も引き継いでいます。災害が起きると食料や水が最優先になります。それは当然ですが、一方で子供たちの笑顔は後回しになってしまう。子供が笑顔になると、大人も一緒に笑顔になるのです」と明かしています。「心」の支援をするのがポケモンなのですね。

◇「ポケモンの社会的責任」とは

 毎年支援をしていたプロジェクトが、どうして一般財団法人になったのでしょうか。理由について、当初から「子供たちの災害支援を10年間続ける」という考えがあり、さらに子供たちへの持続的な支援が必要と判断したためです。活動を再定義するに当たり、支援地域を東北だけでなく全国に広げ、災害に限らないことにしたのです。

 同財団の高橋達郎さんはまず「ポケモンの社会的責任は、もっと身近なところにあるのでは?」と考えたそうです。そして小児病棟や育英会などの案が出る中で、こども食堂を支援する企画が浮上。実際にこども食堂を視察して、運営するNPO法人から教えを受けたそうです。NPO法人に接触すると、「あのポケモンですか?」と言われ、NPO法人のスタッフがファンだったこともあったそうです。

 ポケモンシールを使ったラリーなどの仕掛けは、株式会社ポケモンが得意としているノウハウが生き、子供たちに喜んでもらうための企画も自然に出てきたそうです。

 こども食堂への支援について、新井さんは「一人で食べる孤食の防止です。みんなでご飯を食べることで救われることもあります」と説明。さらに、子供たちの楽しい地域交流の場になるような支援にしたい考えも明かしていました。

 こども食堂は当初、貧困対策の視点で報道されていたものの、地域の交流の場であるということを知ったのです。そこでは、楽しいプログラムやツールを提供し、ネガティブなイメージを取り払いたい思いがあります。こども食堂に足を運んだときに、ポケモンで楽しい思い出があれば、子供たちは何度も足を運ぶであろう……という狙いもあります。

 自治体からの補助は食材費が中心であることが多く、食堂の滞在時間を豊かにするような物資やコンテンツにまで手が回らない現実があるといいます。新井さんは「ポケモンの活動を見て、子供の支援に課題を感じた企業の方が出てくれば。“巻き込み”は大事ですね」と話しています。

◇仮想と現実を問わない間口の広さ

 税制優遇などが受けられる公益財団法人化について、現時点では考えていないといいます。そして株式会社ポケモンから切り離し、独自に財団を立ち上げたということは、中長期的はもちろん、今後も今まで以上に支援に力を入れていく意思表示といえます。

 同財団のホームページには、年次・活動報告書を公開しています。2020年度の募金の年次報告では、2020年6月に1000万円が公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンへ、東北の子供たちの教育支援として寄付していることが明かされています。また新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、集客イベントを避けて物資提供を中心に活動したことも活動費用と共に報告されています。

 なお2020年度の寄付は、財団設立前の株式会社ポケモンの活動であり、しかも活動の一部に過ぎません。それだけに社会貢献に対する力の入れようが伝わってきます。

こども食堂でポケモンのイベントを楽しむ子供たち=ポケモン・ウィズ・ユー財団提供
こども食堂でポケモンのイベントを楽しむ子供たち=ポケモン・ウィズ・ユー財団提供

 始まったばかりのこども食堂の支援について財団の柴田涼さんは「ピカチュウが登場することで、子どもたちだけではなく、保護者の方や、運営されている方も喜んでいる姿を見ると大変うれしい」と振り返りながら「(財団の)こども食堂の活動の認知が広がっていない課題もあることも認識しています。ポケモンが訪問することで、取材に来るメディアもあります。さらに認知や理解の拡大を目指していければ」と話しています。

 アニメやゲームという仮想世界(デジタル)で活躍するだけでなく、実際に訪問して現実世界(リアル)でも「思い出」と「元気」をくれるポケモン。理想的な形の一つといえそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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