香港デモ支持の台湾人がスパイで逮捕?〜中国が台湾スパイをテレビに出すワケ(ビジネスマン編)
中国の国営テレビは今月11日から3日連続で、中国に対する台湾の“スパイ”による諜報活動の詳細を報じた。報じたのは、時事問題などを深掘りするゴールデンタイムの報道番組「焦点訪談」。中国はこのところ国内でしきりに台湾に関するネガティブキャンペーンを展開している。中国との対立を先鋭化させるアメリカが、政府高官を派遣したり、ミサイル売却を決めたりするなど台湾カードを使う中で、中台関係にきな臭さも漂う。中国は何を意図しているのか?
台湾ビジネスマンの裏の顔がスパイ?
「焦点訪談」はスパイ事件を次のように報じた。
2019年8月20日、中国南部広東省の深センから出国しようとしていた男が中国の国家安全機関の当局者に連行された。この男は、バックパックの中に、複数の携帯電話やビデオカメラ、深センに集結していた武装警察を撮影した写真や映像を大量に所持していた。さらに、香港で起きていた逃亡犯条例に反対するデモを支持するチラシやポスターを所有していた。
男の名前は、李孟居。台湾人のビジネスマンで、深センには仕事で来たと自供した。
「彼は単なるビジネスマンではなく、もう1つの身分があった。それは、台湾独立派の組織、“台湾国連協進会”の理事である」
「焦点訪談」の中で、こう明かしているのは、深セン市の国家安全局の幹部という人物。画面にぼかし加工をし、人物を特定できないようにしてある。制服姿であることはわかる。
台湾国連協進会とは、台湾の国連加入を目指す民間団体。同会を「焦点訪談」は、ナレーションで「いわゆる“台湾国連協進会”とは、典型的な台湾独立派の組織」と説明した。
報道によれば、李は、2001年にアメリカに留学した際に、ニューヨークにある台湾会館という組織に出入りしていた。台湾会館は、台湾独立派の組織で、李はここで様々な活動や集会に参加し、多くの民進党や台湾独立派の人物たちと知り合ったという。
スパイ本人がテレビのインタビューで自白?
ここで非常に中国らしい手法が使われた。「焦点訪談」の中で、李本人がインタビューに応じているのである。
「台湾は一つの比較的独立した個体である。かつては中国に属していたけれど」
(台湾会館で)どんな思想を注ぎ込まれたのか?という記者の質問に対し、李はそう答えていた。
日本では考えられないが、中国では“犯罪者”が国営テレビのインタビューに引っ張りだされることはよくある。特に、政治犯などに、テレビカメラの前で罪を告白、反省の弁を述べさせるというのは最近特によく使われる手法だ。
報道によれば、李は1972年生まれ。画面に映った李は、髪は短く刈った丸顔で、眼鏡をかけていた。勾留中であることを示す番号の入ったベストをつけていた。
李は、アメリカから台湾に戻った後、先の台湾国連協進会に参加。活動が評価され、理事を任される立場になったという。
香港のデモで台湾独立派にチャンス?
2019年、中国本土へ犯罪容疑者の引き渡しを可能にする条例の改正をめぐり、香港でこれに反対する激しいデモが続いたことは記憶に新しい。
李は、香港に渡りデモ隊と接触していたという。「焦点訪談」は、次のように断じた後、李の香港での行動の詳細を明かした。
「香港のデモが起きたあと、一部の台湾独立派分子は、香港を混乱させ独立を図ろうとする良い機会だと考え、出世を狙う台湾独立派分子にとっては、又とないチャンスだった」
2019年8月18日、李は準備したチラシを持って香港に入った。
香港のビクトリア公園で集会に参加し、「がんばれ」とわざわざ覚えた広東語のフレーズを使い用意したチラシを参加者たちに配った。そこにあった自由の女神像にポスターをはり、デモ参加者にもチラシを持ってもらって写真を撮ったという。
李は「焦点訪談」のインタビューの中で、こう話している。
「ポスターを持って写真を撮った。台湾政府が支持すると思ったから」
李は、撮った写真をすぐに台湾のSNSに上げた。それを見た人は、李に台湾に戻るように、フェイスブックの内容を削除してから香港を離れた方が良いなどとアドバイスしたが、李は、「それまで安全だし、予備の携帯も持っている」と返事をしていた。
「焦点訪談」は、李がさらに、チラシの上にデモ参加者たちにサインをしてもらい、それを持ち帰ったら、台湾の高官らと面会した時に政治的なお土産になると思ったと報じている。
台湾と香港が同じ色のチラシ
「焦点訪談」の中で、広東省国家安全局の幹部という女性が、李が持っていたというチラシを見せ、「これは非常に手が込んで、入念に設計された宣伝用チラシ」と指摘しその意図を丁寧に説明した。
チラシには、中国大陸や香港と台湾が含まれる地図が描かれ、真ん中に「香港がんばれ」という中国語の文字と香港の象徴で、旗のデザインにもなっている花が描かれている。台湾と香港が同じ黄色、大陸は深い緑色、真ん中の花は灰色に彩色されている。
「黄色はみんなが知っているようにひまわりの色で、いわゆる民主と自由を象徴している。灰色の花は、香港が今、暗い時期にあることを示している」
李自身の説明によるとしているものの、チラシを画面に大きく示しながらのその女性幹部の解説は、実に納得できるものだ。本人は大真面目だろうが、「いったいどちらの味方なの」と思わず突っ込みたくなってしまう場面でもあった。
チラシの右上には、香港を象徴する花が載った台湾の旗が描かれており、「台湾は香港の強い後ろ盾であり、香港と共にある」というメッセージなのだという。
香港の自由や民主は割に合う商売?
その広東省国家安全局の女性幹部はこう断じる。
「李が、香港のデモに参加したのは、香港の民衆の安全や香港の自由や民主に本当に関心があったからではない。こうしたことを通じ、台湾で注目を集め、知名度を上げて、自分にとって政治的な成果になると思ったからだ」
さらに「焦点訪談」はナレーションでこうダメ押しした。
「このように、香港のデモ隊の言ういわゆる民主や自由を支持することは、李のような台湾独立分子には、割に合う商売に過ぎない」