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臨時国会を巡り与党と官邸に秋風が吹き始めたのではないか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(321)

葉月某日

 「秋風が吹けば政局が始まる」とかつて永田町では言われた。自民党総裁選挙が秋に行われたからである。「万年与党」と「万年野党」の時代には自民党総裁選挙が日本の最高権力者を決める唯一の選挙で、その結果は全国民の関心事だった。

 しかし選挙に国民は参加できない。参加できるのは自民党員だけである。そういうことが38年間続いてきた。冷戦時代は「親米反共」の自民党が「万年与党」で問題はなかったが、冷戦末期には米国が「親米反共」でも民主主義的でない政権を認めなくなる。

 フィリピンのマルコス独裁政権や韓国の全斗煥軍事政権が転覆された背後には米国の工作があった。そして米国は政権交代が起きない日本を「異質な国」と問題視するようになる。一方、38年間も権力の座にあった自民党に「驕り」と「腐敗」がはびこり、それが数々の事件を引き起こして国民にも見えるようになった。

 最高権力者を国民に選ばせるには政権交代可能な構図を作らなければならない。そのため衆議院に小選挙区制が導入され、19年前から小選挙区比例代表並立制の選挙が行われ、最高権力者は「秋風の吹く頃」ではなく衆議院選挙の時に決まるようになった。

 ところが今年の秋は昔に戻って「秋風と共に政局が始まる」気配である。自民党総裁選挙は来年秋の予定で、衆議院選挙もあると決まった訳ではないが、しかし支持率急落の安倍政権はこの秋に数々の壁を乗り越えなければならない。乗り越えられなければ退陣するしかない。

 25日に夏休みから公務に復帰した安倍総理は二階幹事長と会談し、茨城県知事選と衆議院トリプル補選について必勝を期すよう指示した。二階幹事長は記者団に「茨城県知事選で勝てば世の中の空気は変わる。最後の馬力を出して頑張りたい」と述べ、補選についても「三勝以外に選択肢はない。勝ち切る」と語った。

 このように壁の第一は8月27日と10月22日の選挙である。8月27日の茨城県知事選は現職と自民党候補が激しく競り合い予断を許さない情勢だという。そのため小泉進次郎氏など自民党国会議員が大挙して応援に駆けつけたが、それが逆に地元の反発を買う恐れもあり、もし自民党が負ければ「世の中の空気」は反安倍が加速する。

 一方、10月22日に行われる青森4区、愛媛3区、新潟5区のトリプル補選は、いずれも自民党議員の死去に伴うもので自民党としては取りこぼすわけにいかない。「三勝以外に選択肢はない」はその通りで、一つでも取りこぼせば安倍政権のダメージになる。野党にすれば安倍総理を退陣に追い込める絶好のチャンスである。

 ここで全野党が協力できなければ逆に野党は国民の信頼を失う。民進党のリーダーが誰になろうが、共産党との選挙協力を行わないことなど許されない。従って与野党ともに背水の陣となり、安倍総理は自らの首をかけた戦いになる。

 そして注目はそれが臨時国会の最中に行われることである。15年の通常国会で安保法制を強行採決した安倍政権はそれによって支持率が急落すると、野党が憲法53条の規定によって臨時国会の召集を要求しても、外交日程を理由に閉会中審査を2日間行っただけでついに臨時国会を開かなかった。

 しかし今回は23日に自民党の二階幹事長と公明党の井上幹事長が会談し、9月25日の週に開くことで合意した。従って臨時国会は開かれる方向だ。開かれれば安倍総理が再三「丁寧に説明する」と答弁した「森友・加計問題」が取り上げられることになる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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