国連機関からロシアを追放した採決結果は、世界が真っ二つに分断されていることを示した
フーテン老人世直し録(641)
卯月某日
国連は日本時間の4月8日未明に総会を開き、人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議案の採決を行った。その結果、93カ国の賛成で決議案は採択された。反対は24票、棄権が58票、無投票は18票だった。
これまで人権理事会の資格が停止されたのは反体制派の弾圧を続けたリビアだけで、国連安全保障理事会の常任理事国として国連の中心的存在だったロシアが国連機関から追放されたのは異例の事態である。
米国のバイデン大統領は「プーチンの戦争がいかにロシアを国際的なはぐれ者にしたかを示す意義のある一歩だ」と歓迎の声明を発表した。しかし国連に加盟している193カ国の投票で賛成が93票だったということは、賛成しなかった国が100カ国もいたことになる。
しかもこの採決は4日前にキーウ近郊でのロシア軍の虐殺行為が報道され、2日前に国連の安全保障理事会でウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン演説を行ってロシアの悪逆非道を訴えた直後の採決だった。
虐殺報道から人権理事会の資格停止までわずか4日間という一連の流れに、フーテンは仕組まれた段取りではないかと疑念を抱いたが、3月に行われたロシア非難決議での141カ国、ウクライナ人道支援決議での140カ国の賛成を考えれば、賛成は100を超すだろうと思っていた。
ところが前回2つの決議より今回は賛成が50近くも減り、もしあと4票減って80台になっていたら、決議案が採択されたとしても、バイデンが「ロシアは国際的なはぐれ者になった」とは言えなかったと思う。賛成した国より賛成しない国の方が多かった事実は何を物語るのか。
日本のメディアはバイデンと同様にしきりにロシアの孤立を強調するが、ロシアを孤立させ、追い詰めることを巡って世界は真っ二つに分断されたと言っても良い。ロシアを孤立させようとする決議に賛成しない国が多かった事実にこそメディアは注目すべきである。
賛成した国と賛成しなかった国を比べてみると極めて興味深いことが分かる。賛成した国93カ国のほぼ半数の44カ国は欧州の国々である。ロシアの脅威を肌で感じている国々だ。次が米国、カナダ、アルゼンチンなど米大陸の21カ国、そしてオーストラリアやニュージーランドなど太平洋諸国が13カ国ある。それに比べてアジアで賛成したのはわずか5カ国、アフリカも7カ国、中東は3カ国と少ない。
一方で賛成しない100カ国のうち44カ国はアフリカ諸国である。賛成した国の筆頭が欧州ならば、賛成しない国の筆頭はアフリカということだ。かつて植民地支配した国々と支配され隷属状態に置かれた国々とがこの採決を巡って両極に対峙している。
賛成しなかった国の次は中国、インドなどアジアの23カ国である。これも西側世界から植民地支配された国々だが、近年では経済成長が著しく、特に中国やインドはいずれ米国を経済力で抜くと見られている。
続いてメキシコ、ブラジルなどの米大陸が15カ国だが、目を引くのは米国やカナダと北米自由貿易協定を結んでいるメキシコと、南米の大国であるブラジルが賛成に回らなかったことだ。ブラジルのボルソナロ大統領はロシアのプーチン大統領を高く評価し、一方でウクライナのゼレンスキー大統領を非難している。
その次にイラン、イラク、サウジアラビアなど中東諸国が12カ国もある。ロシアに対する経済制裁で石油や天然ガスの供給がひっ迫する中、世界では中東産油国の動向が注目されるが、中東諸国で決議に賛成したのは、トルコ、イスラエル、リビアの3カ国だけで、主要な産油国はこぞって賛成に回らなかった。
そして欧州で賛成しなかったのは当のロシアとベラルーシ、アルメニアとアゼルバイジャンの4か国しかない。他の44カ国は賛成に回り、欧州では確かにロシアは孤立状態にある。プーチン大統領と関係が良好とされたハンガリーも今回は賛成に回った。
最後に太平洋諸国ではバヌアツとソロモン諸島の2カ国だけが賛成に回らなかった。この2カ国は近年中国の影響下にあると言われ、中国が関係の悪化しているオーストラリアを睨み、南太平洋での軍事拠点化を図ろうとしているとも言われている。
こうして見てくると、賛成した国はロシアの脅威を感じているか、あるいは米国の民主主義に抵抗を感じない国である。そして賛成しなかった国はロシアに対するというより、米国に対する感情で投票をしたように思う。つまり米国の価値観とそのやり方に反発を感じる国々が賛成していない。
対立の構図は、一方にかつて世界を植民地支配した欧州、ソ連崩壊後に世界を一極支配しようとした米国、その両方にアジアで1カ国だけぶら下がっている日本のグループがある。そしてその対極にかつて植民地支配を受けたアジア、中東、アフリカの国々が存在する。ロシアとウクライナの戦争の背後にはそうした構造があることを、今回の国連決議採決結果は教えてくれる。
G7の一員である日本が賛成票を投じたのは当然だが、アジアで日本と同じように賛成票を投じたのは韓国、ミャンマー、フィリピン、東チモールの5カ国だけ。それに対し反対票を投じたのが中国、北朝鮮、ベトナム、ラオスなど8か国、棄権がインド、インドネシア、シンガポールなど13カ国、無投票はアフガニスタンとトルクメニスタンで、賛成しなかった国は賛成した国のおよそ5倍近くになる。
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