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声優のトラブルで役を巡る「続投」と「降板」の議論 なぜ

河村鳴紘サブカル専門ライター
「MyEdit」を使って、「アニメを議論する人」のお題で作成したAI画像

 先月に不倫を報じられた声優・古谷徹さんが、人気アニメ「名探偵コナン」の安室透役、「ワンピース」のサボ役を降板することが発表されました。声優の人気が高まった近年、有名な声優が写真週刊誌でトラブルを報じられることが増加。そのたびにトラブルになった声優が、担当するキャラクターの声を続投するか、降板するかで議論になります。なぜでしょうか。

 それは「続投」と「降板」は、どちらの意見も「アニメが好き」という同じベクトルの話だからです。「続投」は、声優の交代を防いでアニメの質を維持したいため。「降板」は、アニメのイメージダウンを防ぎたいから。どちらの意見も「アニメのため」というのは同じであり、議論は平行線をたどるから決着しないのです。

 そこにトラブルのレベル、世間の騒がせ方などで落としどころはケース・バイ・ケースになるのです。さらに個人の見解が加われば、もはや収拾がつかなくなるわけです。

 しかし、関係者・企業側の視点で見ると、異なります。コンテンツ制作サイドは想定外の変化を嫌うので、現状維持が基本路線です。ところが関係者の窓口にクレームが殺到するなどの動き(実害)があると話が変わります。理由は対応に人手を取られるからです。社内にかん口令が敷かれ、窓口を責任者に一本化したり、決まっていた広告や企画が相手企業からキャンセルされたり……。そこに延々と電話で「お前の会社はこんな…」などとキツイ言葉で攻められると精神的にこたえます。これは他のアニメ関係者らに聞いても、当然ながらかなり嫌がっていました。

 「ネットの炎上が大変」という話がありますが、実はネットを見ない人にはノーダメージだったりします。ですが実際に電話があったり、窓口に人が押しかけて文句を言うようなリアルの行動があれば、当事者も気づくわけです。身の危険も感じますし、「気を付けるように」と通達がくれば、それ自体がストレスです。今回の件は、古谷さんからの申し出を受けて……となっていますが、各関係者のプレスリリースを見ると、相当に直接の問い合わせ、クレームがあったことが行間から推察できます。

 古谷さんの降板を受け、ネットでは、他の人気声優の過去も蒸し返されているようですが、今回は「名探偵コナン」「ONE PIECE」という、老若男女のファンを抱えるコンテンツの規模が大きく影響しているのではないでしょうか。クレームをする人はごく一部ですが、分母が巨大になれば、分子(クレームの件数)は増大するからです。

 そして声優が写真週刊誌に狙われてダメージを受けるのは、声優の人気が出て、そのスキャンダルが読まれるから。世間に認知されたことの証(あかし)ではあります。いちアニメファンの対処として最善なのは、スキャンダルが報じられた際に冷静に対応することです。具体的には、感情的にならずに情報を精査し、SNSでの拡散を控えることなどが効果的です。ネットの記事でPVが稼げないのであれば、ネットメディアはそっぽを向くのは確実ですが、近年の声優人気を考えると難しい話なのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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