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東京五輪は「スマホ」とテレビが本格的に融合するオリンピックとなるか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
八村塁選手は入場行進前にインスタライブもしてくれたそうです。(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ東京五輪が開幕し、早速選手たちの活躍が大きな注目を集めています。

今回の五輪は、新国立競技場やエンブレムをめぐる騒動にはじまり、コロナ禍での延期と開催、そして開幕直前での様々な問題などもあり、今でも批判的な報道が数多く続くオリンピックとなってしまいました。

特に、JOCが日本選手団に対して、開会式の入場行進時のスマホやカメラの使用を禁じていたのに、多くの選手がスマホを手に入場していたということに批判的な報道もされていたのが、今回の五輪を象徴しているとも言えるでしょう。

参考:開会式スマホNG日本選手守らず

この記事に対しては、ルール違反を誰がしていたのか犯人探しを始める人もいる一方で、この程度のことを取り上げること自体が馬鹿馬鹿しいという声や、JOCが選手を子供扱いしたスマホNGのルールを設定していることの方が残念だという声も多くあるようです。

ただ、実は、今回の東京五輪ならではの変化の象徴として明確に挙げられるのが、この「スマホ」とテレビの融合です。

特に今大会は、大きく3つの点で進化が観られていますので、順番にご説明しましょう。

スマホで自由に競技が見られる時代に

まず分かりやすい大きな変化が、スマホでのオリンピック視聴が容易になった点です。

これまでのオリンピックにおいて、我々一般の視聴者と競技をつないでいたのは、基本的に「テレビ」でした。

そのオリンピックの競技配信に、徐々にネット配信が取り入れられ始めたのがロンドン五輪。

日本のテレビ局も、リオ五輪、平昌五輪と、ネットのアーカイブ配信や同時配信実験を様々な形で実施をすることで進化を遂げ、今回の東京五輪では、手軽にスマホやPCからほぼ全ての競技のライブ配信やアーカイブ視聴を楽しめるようになりました。

NHKが運営する「NHK+」と「NHK東京2020オリンピックサイト」。

そして民放が運営する「TVer」と「gorin.jp」。

それぞれで視聴ができる競技や可能なことが微妙に異なり、少し複雑さはありますが、テレビの放映地域や配信チャンネルを気にせずに、好きな競技を好きなタイミングで観れるようになったのは大きな進歩と言えるでしょう。

競技初日には、テレビでの生中継がなかった自転車のロードレースを、ネット中継で最初から最後まで楽しんだ人も多かったようです。

筆者は、2018年の平昌五輪の際に、ネット同時配信の利便性に感動した人間ですが、その使い勝手や利便性は、この3年でさらに進化した印象があります。

参考:時差なしオリンピック問題を超えるネット同時配信の可能性

まだまだ多くの方が、自分のスマホでオリンピックを視聴できることを知らない状態にある印象もありますが、この東京五輪の間にネット同時配信の利便性が浸透するのではないかと感じています。

SNSでも速報が迅速に共有されるように

さらに、スマホで使われるアプリの中心であるSNSに、ハイライト動画やオフィシャル写真が頻繁にアップされるようになったのも、東京五輪の特徴でしょう。

gorin.jpなどのテレビ局の公式アカウントはもちろん、オリンピックやTOKYO2020の公式アカウントなど、様々な公式アカウントが乱立と言えるほど多数存在し、様々な競技のライブ配信予告や速報を流してくれています。

特に印象的なのは、競技のハイライトを速報動画としてすぐにアップしているNHKスポーツのツイッターアカウントでしょう。

平昌五輪の際にも、羽生選手のメダル獲得のハイライトなどを動画で配信していたのが印象的でしたが、東京五輪では速報動画の投稿タイミングが明らかにスピードアップ。

例えば大橋選手の金メダル獲得のハイライト動画は、競技終了から10分程度でツイッターにアップされています。

こうした競技直後のハイライト動画の共有は、ラグビーW杯の時の日本代表のツイッターアカウントの大活躍が記憶に新しいですが、オリンピックでもこうしたリアルタイムの動画共有が普通になったというのは大きな進化でしょう。

参考:ラグビー日本代表のツイッター活用に学ぶ、テレビとSNS連携の理想型

当然こうしたSNSで競技を知った人は、そのスマホからそのまま競技をネット配信で視聴するケースも増えるはず。

テレビ中継を見ていなかった人にもいち早く速報を届ける手段として、テレビとSNSの組み合わせは、今大会の間にさらに進化することになりそうです。

選手や関係者のスマホ投稿が重要な1次情報に

さらに、東京五輪における進化において最も重要な要素と言えるのが、選手や関係者のスマホ投稿です。

特に今回の五輪においては、コロナ対策のためバブル方式が取り入れられている関係で、メディアが選手村で選手に自由に取材することが許されていません。

その結果、選手からの伝聞による情報をメディアが大袈裟に記事化したものを、選手や関係者側がSNSで否定するというケースも多数発生しています。

象徴的なのは、ロシアの関係者が選手村の対応を酷評していたという記事を、太田雄貴さんが本人に確認して事実と異なることを確認した一幕でしょう。

参考:太田雄貴氏「選手村で本人に確認」 ロシアチームの選手村部屋批判は「脚色だと」

他にも、ベッドが壊れやすいという噂を、様々な海外の選手がベッドに大勢で載ったり、ベッド上で跳ねて否定する動画も話題になりました。

特に体操のアイルランド代表、リース・マクレナガン選手のこちらの動画は、現時点でなんと370万再生を超えています。

実は選手や関係者一人一人のスマホが、いまや私たち視聴者にとっての大事な情報源になっているわけです。

東京五輪の開会式においても、JOCは日本選手団に対して入場行進時のスマホ利用を禁止していたようですが、海外の選手は思い思いに入場行進の様子を写真や動画で撮影。

例えば米国バレーボール代表、ケルシー・ロビンソン選手がTikTokにアップした開会式の動画は10万以上のいいねが集まっています。

また、日本代表選手の中でも、入場行進前に八村塁選手がインスタライブを実施したり、事前挨拶の様子がツイッターにアップされたりしていました。

スケートボードで金メダルを獲得した堀米選手のツイッターでも、入場行進前に八村塁選手と記念写真を撮った様子がアップされているのも象徴的。

こうした写真は、今回の東京五輪においては選手達しか撮れない貴重な写真と言えるわけです。

無観客という苦渋の選択をせざるを得なかった東京五輪において、開会式や競技の裏側の様子を選手や関係者がスマホ経由で見せてくれることが、数少ないポジティブな要素とも言えるかもしれません。

観客のスマホからの写真が無くなった東京五輪

本来であれば、これらの3つの進化に加えて、試合会場に足を運んで観戦している観客のスマホからの写真が、東京五輪のもう一つの要素として加わるはずでした。

今や誰もがスマホ1つあれば決定的写真や動画を撮影できる時代。

有観客で五輪が開催されていれば、さぞかしSNS上が観客の五輪会場からの投稿で埋め尽くされたでしょう。

ただ、残念ながら今回の東京五輪は無観客開催となりました。

開会式こそ、ドローンや花火など、競技場の外からでも見られる要素がツイッター上でも様々な形で話題になりましたが、当然ながらほとんどの競技は無観客で開催されるため、観客のスマホの写真はほぼ存在しないことになります。

だからこそ、関係者が様々なリスクを負いながらも開催に辿り着いた今回の東京五輪を盛り上げるためには、選手や関係者のスマホによる様々な投稿が、いつも以上に重要になってくると言えるのです。

今回、JOCが日本選手団に対して、開会式の入場行進時のスマホやカメラの使用を禁じていたのは、おそらくは入場行進の際にテレビの前にいる視聴者に対して失礼なことがないようにということを重視したからでしょう。

ただ、これだけスマホとテレビの融合が進む時代において、テレビ映りだけを気にして、せっかくの一生に一度の瞬間を撮る機会を選手達から奪ってしまうのは、もったいないという見方もできると思います。

聖火ランナーの最終走者となった大坂なおみ選手は、開会式直後の午前1時に早速率直な思いを投稿してくれていました。

選手はSNSに投稿している時間があるなら競技に集中すべきという議論もあると思いますが、こうした投稿によって選手個人の思いや素顔が見えることにより、私たちの応援の熱に力が入るという面は間違いなくあるはず。

是非JOCの方々には、今回の入場行進時にスマホ撮影をしていた選手を罰するという方向に進むのではなく、世界中の人たちに東京五輪を開催して良かったと感じてもらえるように、さまざまな選手や関係者による日本選手団らしい情報発信の形を大会期間中に進化させていただきたいと思います。

東京五輪の閉会式においては、日本の選手全員が、自らのスマホで選手達しか撮れない景色を撮影し、私たちにシェアしてくれるのを楽しみにしています。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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