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時差なしオリンピック問題を超えるネット同時配信の可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
羽生結弦選手のショートプログラムの演技を、仕事中で生で見られなかった人は多いはず(写真:エンリコ/アフロスポーツ)

 2週間にわたり盛り上がった平昌オリンピックが閉幕しました。

 3月9日からはパラリンピックが開幕しますので、引き続き熱い戦いを楽しみにしたいと思いますが、まずは今回のオリンピック放送で感じたことを振り返ってみたいと思います。

 個人的には、今回のオリンピックでNHKのネット同時配信の試験提供はもちろん、民放各局も合同でgorin.jpでのライブ配信に注力するなど、日本のテレビ局によるネット同時配信が本格化してきたという印象を強く受けました。

(出典:gorin.jp)
(出典:gorin.jp)

 ネット同時配信の試験提供はリオ五輪の頃から明確に実施されているようで、個人的にもスマートフォンアプリの見逃し配信を多数視聴させて頂いた記憶がありますが。

 やはりリオ五輪の時は大きな時差が壁になり、あまり同時配信にお世話になることは無かったと記憶しています。

■ネット同時配信のお陰でチャンネル争いは過去のものに

 それが今回は、平昌と日本でオリンピックの開催時間に時差が無いと言うことで、特にライブ映像のネット同時配信を最大限に有効活用してもらうことができました。

 例えば、自宅でオリンピック中継を視聴する場合。

 我が家は、私と妻、長男と次男の四人家族ですが、当然ながらチャンネルの選択争いは熾烈です。

 私自身がオリンピック中継を生で見たいと思っても、他の家族はEテレのいつもの番組を見たかったり、イッテQの南極特集を見たがったりするわけです。

 リオのように時差の大きいオリンピックであれば、中継が深夜になることが多いため、あまりこうしたチャンネル争いは発生しませんでしたが、今回の時差の無い平昌オリンピックでは何度もそういうチャンネル選択争いに追い込まれました。

 従来、そういうときは仕方なく私が別の部屋のテレビに追いやられたりしていたわけですが。

 今回はネット同時配信があるため、家のiPadが2つ目のテレビ画面に早変わりして、子ども達がテレビで別の番組を見ている最中に、私はiPadでオリンピック観戦を楽しむことができたわけです。

 さらに、二つの局でオリンピック中継が同時に進行している場合にも、テレビとiPadで複数の中継を同時に閲覧することができました。

 そのおかげで、2月24日夜にカーリング女子3位決定戦を見ながら、スケートのマススタートの金メダルの瞬間も無事に見逃さずに済んだ、ということもありました。

■職場にテレビがなくてもオリンピックが観戦できる時代に

 さらに、今回ネット同時配信ならではの恩恵を強く感じたのは、平日昼間の職場における視聴です。

 象徴的だったのは、羽生結弦選手が圧巻の演技を見せた男子フィギュアのショートプログラム。

 放送時間が平日金曜日の昼間と言うことで、仕事中のために生で演技を見るのを断念された方も多いのでは無いかと思います。

 ただ、実はこの放送もNHKのウェブサイトにおいてネット同時配信が実施されていました。

(出典:NHKピョンチャンオリンピックウェブサイト)
(出典:NHKピョンチャンオリンピックウェブサイト)

 筆者は、幸運にも丁度放送時間が会社のランチタイムだったこともあり、急遽会議室のプロジェクターにノートパソコンをつなぎ、ランチを食べながら羽生選手と宇野選手の素晴らしい演技を堪能させて頂くことができました。

 実は弊社のような小規模の会社では、職場にテレビが無いという会社は意外に多いのではないかと思います。

 仮に設置されていても、あくまでPCのディスプレイ代わりでアンテナにつながっていないというケースも多いはずです。

 そういう職場では、従来は生でオリンピック中継を見るチャンス自体が失われてしまっているわけですが、今回のようにネット同時配信があれば実は1人1人のスマホやパソコンが、オリンピックが視聴できるテレビ端末に早変わりするわけです。

 お陰で、金曜日の夜に実施されたカーリング女子準決勝の試合も、試合開始のギリギリまで職場で仕事をして、そのまま職場の会議室で試合開始から最後まで観戦する、なんてこともできたわけです。

■NHKはツイッターやYouTubeにも動画を公開

 さらにNHKでは、驚くことにフィギュアの各選手の演技のノーカット版など、試合のハイライトもツイッターにそのまま動画で公開してきました。

 

 特に羽生選手の動画の、実際の演技終了から2時間程度のスピード公開には、多くのツイッターユーザーが反応し、演技を生で見られなかった人たちからNHKへの称賛の声も多数みられる結果となっています。

 公開された動画は記事執筆時点で、35万近いいいねと12万を超えるリツイートをあつめ、動画の再生回数は400万回を突破しているようです。

 NHKでは、同じようにYouTubeにも多数のハイライト動画を公開していますが、そちらの再生回数が320万回であることを考えると、ツイッター動画の反響の大きさが分かると思います。

 当然、NHKがこうしたSNSも含めたオリンピック映像の分散配信に取り組むことができるのは、テレビCMの広告収入が事業の中心である民放各局と異なり、受信料に支えられていることが背景にあります。

 現段階で同時配信の試験提供においては、試験参加者を「PC、スマートフォンなどインターネットの環境がある方はどなたでもご参加いただけます。」としていますが、当然ながらテレビの受信料を支払っていない人が、PCやスマホで無料でNHKを見られるようになってしまうと受信料支払の不公平議論が注目されることになります。

 昨年の夏頃にNHKがテレビを持っていない人からも受信料を徴収すると宣言して批判を集めることになった背景には、こういう取り組みの先にある未来があるということでしょう。

参考:スマホ視聴でも徴収 批判殺到のNHKネット受信料

 NHKのみがネット同時配信を推進することには、民放各社から民業圧迫という批判もあるようですので、将来的にどのようにこの試験提供を本格運用にしていくかは、まだ明確に決まっていない点も多いようです。

 仮に、パソコンやスマホでの同時配信において、NHK受信料の支払が必須になった場合、はたして筆者が実施したような、職場の会議室にパソコンをつないで視聴する行為は、そのパソコンの持ち主が受信料を払っていれば可能なのか、職場で受信料を支払う必要があるのかなど、細かいことを考えると、かなり複雑なハードルや混乱がありそうなことは素人でも容易に想像ができます。

■2020年の東京開催でもネット同時配信は必須になる

 ただ、今回ネット同時配信の可能性を感じてしまった視聴者の立場からすると、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、このネット同時配信をより便利にすることは必須ではないかと感じます。

 今回の平昌オリンピック同様、2020年の東京五輪では我々は時差の無いオリンピックを再度迎えることになります。

(出典:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)
(出典:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)

 そんな中で、日本全体がオリンピックを楽しんで盛り上がるためには、やはり通常のテレビだけでなくPCやスマホで、どこでも誰でもオリンピック中継を楽しめるようにすることが非常に大事になるはずです。

 さらにネット配信であれば、テレビでは放送時間の関係で中継が難しい競技の予選や、テレビ中継とは異なるカメラアングルのライブ中継などの可能性も見えてきます。

 NHKが実施したようなSNSへの分散型の動画配信が組み合わされば、平日の昼前にテレビの前にかじりついてオリンピック観戦をできる人だけでなく、仕事中の人や電車で移動中の人など、さらに多くの人がオリンピックの盛り上がりを一緒に楽しむことができるはずです。

 民放においては、ネット同時配信はテレビの視聴率が下がるリスクある行為ではありますが、実はネット同時配信経由をすることによりライブで見る視聴者が増えて、録画再生における広告スキップのリスクが減るのであれば、実は民放各局にとっても広告主にとってもメリットが見えてくる可能性もあるわけです。

 日本においては、テレビとネットというのは、過去の買収騒動などの余韻からか、とかく対立構造で議論されることが多かった印象がありますが、実はテレビの番組やコンテンツそのものにとっては、テレビの電波もネットの通信回線も、視聴者に番組を届けるためのチャネルの一つでしかありません。

 実はテレビ局がネットを上手く活用することで、視聴者にとってはオリンピック中継など、テレビの番組の魅力がさらに増す可能性が見えてきているわけです。

 そういう意味で、個人的には2020年の東京オリンピックに向けて日本が取り組むべきは、モバイルブロードバンドが普及している日本ならではの新しいモバイルの使い方ではないかと妄想していたりするのですが。

 長くなりましたので、今日のところはこの辺で。

 今回の平昌オリンピックにおけるネット同時配信の取り組みから学んだテレビ局の方々が、東京オリンピック・パラリンピックに向けてどんな新しい挑戦に取り組んでくれるのかを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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