米国は平和憲法を護らせることで日本を奴隷にした
フーテン老人世直し録(448)
水無月某日
前々回のブログでフーテンは、安倍総理のイラン訪問は米国が仕掛けた「罠」で、それにまんまと嵌められたのではないかと想像した。それはあくまでも想像だったが、それを裏付けるような言動を最近のトランプ大統領はし始めた。
前々回の想像は次のようなものである。イランと日本の友好関係をトランプ大統領に売り込んだ安倍総理は、トランプ大統領から仲介役を頼まれイランに赴いたが、その当日に米国はイラン革命防衛隊を支援したイラクの企業を制裁の対象にした。
そのためイラン政府は安倍総理を歓迎しても米国との対話は拒否する。そして安倍総理が最高指導者ハメネイ師と会談した時刻にホルムズ海峡で日本を含む2隻のタンカーが何者かに攻撃され炎上した。するといち早く米国のポンペイオ国務長官がイランの犯行と断定し「イランは日本を侮辱した」と発言した。
イランと日本を離反させ、日本の自衛隊を中東で米軍の支配下に置き、イラン包囲網に引き込もうとする勢力が米国内にいるとすれば、このタンカー攻撃は有効である。日本に集団的自衛権の行使を実践させる機会になる。安倍外交を侮辱したのは米国かもしれない。これがフーテンの想像だった。
それから10日後の24日に米国のブルームバーグ通信は「トランプ大統領が日米安保条約は不平等なので破棄したいと親しい人間に話した」と報じ、トランプ自身も「ホルムズ海峡の石油輸送路をなぜ米国が代償もなしに守っているのか。日本や中国は自分で守れ」とツイッターに書き込んだ。
それを受けて日本政府は火消しに追われている。菅官房長官は25日の記者会見で「報道にあるような話は全くない」と否定、岩屋防衛大臣は「現段階で自衛隊をホルムズ海峡に送る考えはない」と述べた。米国務省も「米国は日米安保条約を守る」とコメントした。
識者は一様に貿易交渉などで日本の譲歩を勝ち取るためのトランプ流の交渉術との見方を示し、米国が日米同盟から得られる利益を政治の素人であるトランプは理解していないと指摘する。総体として日本には日米安保条約が守られることを歓迎する風潮がある。
しかしこの一連の報道から浮かび上がってくるのは安全保障問題が日本の最大の弱点であるという事実である。日本は平和憲法を持つ平和国家であり、軍隊を持たないので自分の力だけで自国を守ることが出来ず、日米安保条約によって米国に守って貰うしかないと考える日本人が多い。そう考える日本人には米国の機嫌を損ねないよう多少の犠牲には目をつむる傾向がある。
米国はそこに目を付けている。冷戦時代には憲法9条を改正して軍隊を持たせ、アジアの戦争には日本軍を出動させようとしたが、日本は平和憲法を盾に朝鮮戦争にもベトナム戦争にも出兵せず、代わりに後方支援で巨大な経済的利益を得た。それが日本に高度経済成長をもたらし、ついには米国経済を追い抜く一歩手前にまで行った。
日本の製造業は集中豪雨的な輸出で米国の製造業を駆逐し、ラストベルトと呼ばれる地域の白人労働者から職と希望を奪った。その怨念が今頃になってトランプという政治の素人を大統領に押し上げた。しかしトランプを待つまでもなく、冷戦後の米国は日本の最大の弱点である安全保障で日本から利益を吸い上げる方法を実行している。
つまり日本に憲法9条を守らせて日本防衛を米国に依存させ、それを梃子に日本から軍事的にも経済的にも利益を吸い上げる戦略を採用している。沖縄総領事を務めた国務省のケビン・メアは日本の平和憲法が米国の利益になると公言している。
冷戦後の米国の戦略を下敷きに安倍総理のイラン訪問とその後の一連の動きをみると、まず米国のトランプは5月中旬に「永世中立国」スイスの大統領を初めてホワイトハウスに招待し、イランとの仲介役を依頼したにもかかわらず、安倍総理にもイラン訪問を促した。
イランとの戦争を望むボルトン補佐官も強く安倍訪問を促したとする情報もあるから、安倍訪問は戦争を避けるためではなく、戦争に何らかの役回りを演じさせるためと見ることが出来る。訪問初日に米国はイラン制裁を強化し、安倍総理の仲介役としての役回りは消えた。
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