バラバラで非力な野党を見れば安倍総理は解散の誘惑にかられる
フーテン老人世直し録(447)
水無月某日
安倍総理は21日午後、総理官邸で公明党の山口代表と会談し、衆参ダブル選挙を行うための衆議院解散を見送る考えを伝えた。これで7月4日公示、21日投開票の参議院選挙日程が事実上確定したとみられる。
翌22日のテレビ番組で安倍総理は「党内の若い議員の中から解散を期待する声もあったが、G20が開かれている時に政治空白を作るのは望ましくない」と述べた。解散を望んでいたのは自分ではないような言い方だが、「喉から手が出るほど」解散を望んでいたのは安倍総理自身だとフーテンは思う。
新年最初の記者会見で、60年前に日米安保条約改定交渉を行った祖父岸信介を讃えることで、自身も日ロ平和条約締結という歴史的偉業を成し遂げ、それを解散の大義にしたい考えを滲ませていた。
しかし日ロ交渉がうまくいかなくなって拉致問題が急浮上する。安倍総理は北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談に意欲を見せ、それまでの強硬姿勢から一転して、無条件での会談実現を呼びかけた。フーテンにはそれが拉致問題の解決より解散の大義を探し求める姿に見えた。
そして北朝鮮から相手にされていないことが分かると、側近議員に「消費増税延期で解散」というアドバルーンを打ち上げさせた。これに若手議員が浮足立つ。解散風が吹き、その勢いが止まらなくなると、成算なき選挙に追い込まれる可能性もあり、それは危険極まりない。側近らが火消しに回るというマッチポンプさながらの一幕もあった。
それでも安倍総理本人の口から「解散なし」の言葉は出てこない。総理はイラン訪問の後に決断するという観測が流れた。安倍総理が米国とイランの仲介役としてイラン大統領をG20に招待できれば、安倍外交の成果として解散の大義にするかもしれないと思われた。
しかしイランは安倍総理を最大限もてなす一方、米国とは交渉を行わない考えをきっぱりと表明し、安倍総理は何も成果を挙げることが出来ない。それどころか最高指導者ハメネイ師との会談中にホルムズ海峡で2隻のタンカーが何者かに攻撃され、米イラン関係は一触即発の危機に陥った。
イランからの帰国を受けて総理周辺から「解散はなくなった」の声が流れ、一方で菅官房長官が「野党が内閣不信任案を提出すれば解散もありうる」と述べていたことから、19日の党首討論に注目が集まる。野党党首の攻撃に対して安倍総理が解散を口にするかもしれないと思われたのである。
そのせいか野党は攻撃よりも提案型の論戦を行い、安倍総理は「解散は頭の片隅にもない」と紋切り型の答弁を行った。このやり取りを見ると野党がどれほどダブル選挙を恐れているかが分かる。独自色を主張して一つにまとまり切れない野党は、衆議院選挙になればますますまとまることが出来ないからである。
こうして21日に連立を組む公明党代表に安倍総理が「解散なし」を伝えるまで、安倍総理は解散の大義を作るためにじたばたし、そしてついに大義を作ることが出来ず、参議院選挙に政権の命運をかけることになった。一方で解散に対する野党の恐れを見れば、G20が終わればすぐにでも解散したい誘惑にかられる。
じたばたするほど安倍総理が衆議院解散にこだわったのは、参議院選挙単独では憲法改正に必要な3分の2の議席を失う恐れがあるからだ。現在の参議院で自公と維新・希望の党を合わせれば163議席となり、無所属議員や野党の中から誰か1人が加われば3分の2を超える。
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