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東京・国分寺の若い女性10人が突然失踪 誘拐?拉致監禁?45年経た今も続いていた共同生活

武井保之ライター, 編集者
『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』佐井大紀監督(C)TBS

カルト教団として、かつてメディアから苛烈なバッシングを受けた謎の集団「イエスの方舟」。それから45年が経つ現在でも女性だけの共同生活を続ける団体の正体に迫ったドキュメンタリー『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』が公開された。

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現在の女性だけの共同生活にカメラが密着

1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消した。彼女たちを連れ去ったとされたのは、聖書を学ぶ集団「イエスの方舟」。その主催者・千石剛賢は、美しく若い女性ばかりを次々と入信させハーレムを形成していると週刊誌に報道され、洗脳、監禁、人さらい、神隠しなど扇動的なワードが飛び交った。

当時の世の中を騒然とさせたなか、2年2ヵ月の逃避行の末、千石剛賢は警察に拘束され、信者たちは家族のもとへ戻る。しかし、彼が不起訴となり、事件にー応の終止符が打たれると、いつしか信者たちは千石剛賢のもとに舞い戻る。

そんな彼女たちの共同生活は45年を経たいまも続いていた。共同生活に密着したカメラは、彼女たちの口から当時といまの思いを引き出す。

逃亡中は水商売で生活資金を稼いでいた

本作はまず、千石剛賢による集団がどのように生まれ、なぜ多くの女性が彼のもとに集まり、その後行方をくらませなければならなかったのかに焦点を当てる。

さらに、警察の捜索を逃れるために、全国30箇所以上を転々とした逃亡中の生活から、不起訴後に福岡県古賀に構えた協会での共同生活、2001年12月に千石剛賢が亡くなり、その妻と娘たちを中心にした女性だけの共同生活となった現在までの様子を追う。

そのなかで本作は、彼女たちの生々しいまでの生活の細部に切り込む。逃亡中、騒動の渦中で職につけなかった彼女たちは、水商売で生活資金を稼いでいた。そして福岡の拠点に落ち着いてからは、中洲でショーパブのような40坪の店を切り盛りし、昭和から平成、令和へと乱世を生き抜いた。

その店の常連客が印象的な言葉を残している。「彼女たちは女を売っているんじゃない。人生そのものを売っている」。

自身にとっての生きやすい生き方を貫いてきた

彼女たちは、さまざまな事情で千石剛賢のもとに集まり、聖書を学びながら共同生活を送る道を選んだ。そこに安寧を見出したから、ほかへは行かない。

命からがら夫のDVから逃れて共同生活を選んだ40年来のメンバーは、扇動的な報道の渦中にいた1980年当時の記者会見で「団体の責任者を美化して書いてほしいとは言いません。ありのままを、真実は何かを報道してほしい。それを心から訴えたい」と話していた。

水商売を冷やかすような記者の質問には、生き方としての信念を答えている。過去のニュース映像からも、現在のインタビューからも、彼女たちの真摯かつ聡明な語り口からは、確固たる信念を有していることが感じられる。

社会の荒波をものともせず、世間の目に動じず、ただ信じた道や自身にとって生きやすい生き方を貫いてきた強さがにじみ出ている。

パブリックイメージとは異なる生き様が映し出される

当時の記者会見などの記録映像と、現在の彼女たちの証言を重ね合わせると、かつてメディアによって作られたパブリックイメージとはまったく異なる生き様が浮かび上がってくる。

もし時代が違っていたら、世間の受け止め方は違っていたかもしれない。

しかし、団体に娘を奪われたと訴える親がいたのも事実だ。現会員数は28人、共同生活者は女性12人。200人以上の協力者に支えられている。宗教法人ではなく、人格なき社団をうたう彼女たちは、いまも聖書の勉強会を続けている。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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