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トランプ真っ青!? 本人否定もグレッチェン・ウィットマーが副大統領ならカマラ・ハリスは圧勝する!

山田順作家、ジャーナリスト
州予算案に署名後、会見するウィットマー知事(写真:ロイター/アフロ)

■トランプとハリスの支持率がイーブンに

 カマラ・ハリス副大統領(59)が民主党の大統領候補になるのが確実になったため、メディアの注目は「ランニングメイト」(副大統領候補)が誰になるのかに移った。すでに、トランプ候補(78)のランニングメイトはJ・D・ヴァンス(39)オハイオ州上院議員に決まっているので、民主党としてはなるべく早く候補者を決め、トランプ陣営との対決姿勢を鮮明にしなければならない。

 先日の銃撃事件で「ほぼトラ」(トランプで確実)になったと日本のメディアは報道した。しかし、バイデン大統領(81)の撤退で、いまや、状況は一変した。

 「ロイター」と調査会社「イプソス」の最新の世論調査(7月22、23日)「もし大統領選挙がきょう実施された場合誰に投票するか」では、トランプ39%、ハリス39%で並んだ。公共ラジオ「NPR」と公共放送「PBS」の世論調査もほぼ同じ結果が出た。

 こうなると、ランニングメイトの役割はかなり重要になる。

■副大統領候補選考のポイントは2点

 民主党の副大統領候補は、8月19〜22日にシカゴで開催される民主党大会で、大統領候補とともに正式指名される。それに先立ち、8月上旬にオンラインによる投票で選ばれる可能性があるとも言われている。

 いずれにせよ、ハリスと民主党幹部で決めることになるが、候補者はまだ絞り切れていないという。

 そのため、メディアは「有力視される」候補者の名前を挙げ、アナリストが人選のポイントを解説している。それによると、次の2点が決め手になるのではないかという。

(1)ハリスは黒人とインド人(アジア系)の混血。そのため、支持層を広げるためには白人の男性候補が望ましい。

(2)大統領選の雌雄を決するのは7つの激戦州(swing state)なので、できればそこで支持率の高い候補にすべき。

 ただ、この2点だけでは決められるわけがなく、メディアでは何人もの候補者の名前が挙がっている。以下、それを列記してみたい。

■ジョシュ・シャピロとマーク・ケリーが最有力

ジョシュ・シャピロ(51)ペンシルベニア州知事

J・B・プリツカー(59)イリノイ州知事

アンディ・ビシア(46)ケンタッキー州知事

ウェス・ムーア(45)メリーランド州知事

ピート・ブティジェッジ(42)インディアナ州サウスベンド市長

マーク・ケリー(60)アリゾナ州上院議員

ロイ・クーパー(67)ノースカロライナ州知事

ラファエル・ウォーノック(55)ジョージア州上院議員

コーリー・ブッカー(55)ニュージャージー州上院議員

エイミー・クロブシャー(60)ミネソタ州上院議員

グレッチェン・ウィットマー(52)ミシガン州知事

ギャビン・ニューサム(56)カリフォルニア州知事

 これらの候補者のうち、先の2ポイントで絞り込むと、ジョシュ・シャピロ、マーク・ケリーが最有力となる。シャピロはペンシルベニア州の司法長官から転身して2022年の知事選を圧勝している。マーク・ケリーは元宇宙飛行士で、メキシコと国境を接する激戦州アリゾナ州の知事として移民問題に取り組んできた。

■黒人であること、女性であることが難点

 実際、AP通信、ABCテレビなどは、ジョシュ・シャピロ、マーク・ケリーの2人の激戦州知事を真っ先に挙げている。

 メリーランド州知事のウェス・ムーア、ジョージア州上院議員のラファエル・ウォーノックも有力とされるが、大統領候補が有色系だけに、黒人であることが難点とされる。

 また、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムは、これまで大統領候補としても有力視されてきたが、ハリスと同じ州になってしまうことが疑問視されている。

 さらに、民主党の女性のホープとされるエイミー・クロブシャー、グレッチェン・ウィットマーは、女性であること自体がハリスとかぶるので、有力候補とはされていない。

 しかし、このような「消去法」による候補者選びで、民主党は共和党トランプ陣営に勝てるだろうか?

■「私はミシガンを離れるつもりはありません」

 グレッチェン・エスター・ウィットマーは、民主党の女性議員のなかでは、カマラ・ハリスとともに、早くから女性大統領候補として名前が挙がってきた1人だ。本人も、2028年の大統領選への出馬には意欲を示唆する発言をしたことがある。

 今回のバイデン離脱で、ハリスが後継指名されると、いち早く支持を表明した。そうして、ハリス陣営の共同代表を務めることも発表した。

 しかし、ハリス陣営が彼女を副大統領候補として求める可能性があるという一部の報道に対しては反論した。彼女は記者たちに、「私はどこにも行くつもりもない。私はミシガンを離れるつもりはありません」と言ったのだ。

 このことを取り上げた「USAトゥデイ」の記事の論調は、かなりの“がっかり感”が漂っていた。なぜなら、もしハリスとウィットマーが組めば、正副大統領とも女性となって、アメリカ史上初めての劇的な瞬間がやってくるからだ。

■「ラストベルト」には忘れられた女性たちもいる

 私は、いまだにトランプ優勢の報道を続ける日本のメディアに疑問を持っている。トランプはたしかに、強力な岩盤支持層を持っている。しかし、女性には人気がない。

 「USAトゥデイ」の記事は、「ハリスとウィットマーのチケットは史上初の女性全員が参加できるチケット(the first all-women ticket)となる」と書いている。

 もし、ウィットマーが指名されて受諾した場合、トランプ&ヴァンスは目算が狂って、真っ青になる可能性がある。彼らの支持層「ラストベルト」(rust belt)の「忘れられた人々」(forgotten people)、いわゆる貧しい白人労働者には妻も娘もいるからだ。

 J・D・ヴァンスは、「ラストベルト」のオハイオ州ミドルタウンの貧しい家庭に生まれ、母親が麻薬常習者だったため、祖父母によって育てられた。そうした生い立ちを書いた回顧録『ヒルビリー・エレジー(Hillbilly Elegy)』がベストセラーになり、オハイオ州の上院議員まで登りつめた。

 しかし彼は、かつてはトランプを「idiot」(足りない馬鹿者)と呼んで軽蔑していた。それが、いまやガチガチの“ミニトランプ”となり、女性たちの非難を浴びている。

■J・D・ヴァンスのハリス侮蔑発言が波紋を

 ヴァンスがカマラ・ハリスを「子どもがいない惨めな変わり者女」と呼んだ映像がSNSで拡散し、各メディアで大きく報道された。

 その映像は、2021年の「FOXニュース」で、タッカー・カールソンのインタビューに答えたときのもの。たしかに彼は、ハリスを “a bunch of childless cat ladies who are miserable at their own lives.”と言っている。

 ヴァンスはその生い立ちから、人いちばい温かい家庭を欲し、子煩悩と言われている。イエールのロースクールで知り合って結婚したインド系移民でヒンドゥの妻との間に、3人の子供がいる。なのに、なぜ妻と同じヒンドゥのインド系移民の子ハリスをそんなふうに言ったのだろうか?

 ハリスもウィットマーも、過去に検事として女性の権利のために戦ってきた「プロチョイス」である。ゴリゴリの「プロライフ」のトランプ&ヴァンスとは真っ向から対立する。

■再婚した夫と5人の子供と公邸暮らし

 ウィットマーはミシガン州ランシング(ミシガン州の州都)に生まれたが、両親の離婚により、母親の引越し先グランドラピッズで育った。地元の高校を卒業すると、ミシガン州立大学に進学。在学中に州下院議員カーティス・ハーテルのもとでインターンをしたことにより、JD(法学博士)を習得して法曹界に進んだ。

 その後、弁護士、地方検事などをへて、2000年州下院議員、州上院議員を務めた後、2018年に州知事に初当選した。2022年に再選され、現在、州知事2期目を務めている。

 この間、ウィットマーは2回結婚し、最初の夫との間に2人の子供が、2番目の夫との間には夫の連れ子の3人の子供がいる。夫婦は現在、5人の子供とともにランシングのミシガン州知事公邸に住んでいる。

■「ガラスの天井」が崩壊しアメリカに新時代

 ウィットマーの名前を全国区にしたのは、2020年の一般教書演説(State of the Union Address)。このとき、彼女は党を代表し反対演説を行い、トランプ大統領(当時)を徹底的に批判した。その激しいやり取りは、3大ネットワークのほか、ほぼ全メディアでライブ中継された。

 この年は、新型コロナのパンデミックの年で、ウィットマーは、いち早く厳しいロックダウンを実施した。トランプはこれに激怒し、ウィットマーに批判の嵐を浴びせた。

 それに影響された右派武装組織「ミリシア」の集団は、銃を持って州議会議事堂に集まり、抗議デモを行った。その後、彼らのうちの13人が「知事の誘拐」を画策したとして逮捕されるという事件が起こった。

 ミシガン州は、ラストベルトの一角で激戦州である。2016年はトランプが僅差でヒラリーに勝ち、2020年はバイデンが僅差でトランプに勝った。よって、激戦州の対策としても、ウィットマーの指名は欠かせない。

 はたして、彼女の固辞はホンモノなのか? もしも受諾なら、ハリスは圧勝し、「ガラスの天井」がダブルで崩壊し、アメリカに新時代がやって来る。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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