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「令和の米騒動」値上げ、品薄で確保困難、なのになぜ精米して1ヶ月の米をスーパーは棚から撤去するのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
コメ(写真:イメージマート)

「30年でこんな価格上昇はない」

2024年7月13日付の日本経済新聞で『「令和の米騒動」か コメ値上がり招く3つの理由』と題した記事が掲載されている(1)。日経新聞は、コメが値上がりする3つの理由として

  • 生産調整
  • 2023年夏の猛暑
  • インバウンド需要増大

を挙げている。

日経が取材した大手コメ流通の幹部は

「30年みてきてこんな上昇は記憶にない」

と答えている。

また、2024年7月15日付のライブドアニュースも『SNSで「米騒動」心配する声も…農水省が冷静な対応を呼びかけるワケ』という記事を配信している(2)。農林水産省の担当者は

「1年間は国産米を国民の皆さまに食べていただけるようになっている」

と回答し、

「慌てずに、安心して」

と呼びかけている。

記録的猛暑でコメの品質「過去最低」

ただ「安心して」と言われても、2023年夏に続いて2024年の夏も暑くなることが予想されており、コメの品質への影響はまぬがれない。

世界気象機関(WMO)は、2023年はこれまでの記録に大差をつけて観測史上、最も気温の高い年だったと発表した(3)。2024年は2023年よりさらに気温が高くなる可能性を指摘している。

新潟県産のコシヒカリは、2023年に発生した3度のフェーン現象(乾燥した高温の風が吹く現象)により、2023年産のコメは生産や品質に大きく影響を受け、「1等米」の比率が4.7%と過去最低を更新した(4)。

宮城県でも、2023年夏の記録的な猛暑で、宮城県産米の品質が低下し、宮城県やJAは、暑さに強い栽培法を推進する方針を確認している(5)。

農業・食品産業技術総合研究機構は、地球温暖化が最悪のペースで進むと、今世紀末にはコシヒカリの米粒の最大約7割に深刻な高温障害が生じるとする実験結果を発表した(6)。この成果は米科学アカデミー紀要に掲載されている。

精米して1ヶ月強で商品棚から撤去するスーパーの慣習

では、このような生産調整や記録的猛暑により、コメの値上げや不足が問われる中、スーパーではなぜ精米して1ヶ月のコメを商品棚から撤去してしまうのだろうか。

筆者が調査できたスーパーは5社程度に過ぎないが、おおむね、精米して1ヶ月から40日、50日程度で、どのスーパーも商品棚から撤去している。

撤去したあとどうするか、については企業や店舗によって異なり、

  • 捨てる
  • 従業員に安く売る
  • フードバンクに寄付する
  • コメの納入業者に返品する

ということだった(7)(8)。

取材ができなかったスーパーについても、商品棚に並んでいるコメの精米時期について調べた。そうしたところ、やはり、精米から1ヶ月以上経ったものはほとんど見られないことがわかった。

スーパーに並んでいるコメは精米1ヶ月以内のものがほとんど

筆者が配信しているニュースレターの有料会員にも、お住まいの地域で調べてもらった。

Pさん

3社のコメが20種類ほど陳列されていて、精米の表示はメーカーによって異なっていた。5月下旬に調べたところ、次の通りだった。

精米時期「5月下旬」  4商品

精米時期「5月上旬」  5商品

精米時期「4月下旬」  1商品

精米時期「4月中旬」  2商品

いずれも、約1ヶ月以内に精米したもののみだった。

Qさん

5月上旬に3社のスーパーで調べたところ、ほとんどすべてのお米が4月か5月の精米だった。1つだけ、3月精米のコシヒカリが残っていたが、ほかの精米時期は1ヶ月以内だった。

あるお米メーカーのコメのパッケージを見てみると「おいしく召し上がりいただける期間」として、夏季は精米1ヶ月、冬季は精米1ヶ月半、とされていた。ただ、食べられなくなるわけではない、との断りも併記されていた。

「50年以上前からそうしているからわからない」

コメを納入業者に返品するスーパー側は「精米して50日経ったら業者に返品している。50年以上前からそうしているから、その先はどこへ行っているかわからない」とのことだった。

そこで、あらためて、返品先の納入業者に、返品後、コメをどうするのか聞いてもらったところ「外食産業にまわす」とのこと。

同じ話は、コメのメーカーに伺ったことがあった。「家庭用で売れなくなったら業務用にまわす」と話していた。

捨てないのであればいいが、精米して1ヶ月で棚から撤去してしまうのは、あまりに早過ぎないだろうか。それでいて「スーパーにコメがない」「売り場がスカスカ」と騒いでいるのはおかしな気がする。

コンビニのコメの方がスーパーより販売期限が長い

コンビニにも聞いてみた。コンビニで販売されているコメは、総じてスーパーで販売される5kg、10kgなどに比べてサイズが小さく、2kg以下のものが多いようだ(店によって異なる)。この小サイズのコメには賞味期限表示があることが多い。

たとえば、大手コンビニで販売されている2kgのコメ。精米年月日は2024年6月26日で、精米から半年が賞味期間となっている。このコンビニでは「スキャナーターミナル(ST)」と呼ばれる機械を販売期限の管理に使っている。商品のバーコードにこの機械を当てると、「賞味期限がいついつ以前の商品は廃棄」という指示が出る。加盟店で働くオーナーやパート、アルバイトは、この「廃棄」の指示に従って、まだ賞味期限や消費期限が残っている食品を廃棄している。6ヶ月間の賞味期限のコメの販売期限は5ヶ月、賞味期限が切れる1ヶ月前に廃棄となる。

大手コンビニエンスストア加盟店で販売されている2kgのコメ(関係者提供)
大手コンビニエンスストア加盟店で販売されている2kgのコメ(関係者提供)

また、300gのコメに関しては、精米年月日が2024年4月20日で、賞味期限は一年間。オーナーによれば、このコメは賞味期限の切れる2ヶ月前に廃棄、ということなので、販売期間は10ヶ月間ある。

大手コンビニで販売している300gのコメ(関係者提供)
大手コンビニで販売している300gのコメ(関係者提供)

賞味期限表示が入っているコメなら販売期間が5ヶ月から10ヶ月あるのに、賞味期限を表示していないコメは、精米してから30日から50日で棚から撤去してしまうのは、なんだかおかしな気がする。スーパーの社員ですら、なぜこのような慣習になっているのかわからないのであれば、コメが値上がりし、商品棚に在庫が薄くなってきている懸念がある中、もっと長い期間売ったらどうなのだろうか。

以前、取材したコメのメーカーの方は

「コメは無駄がない」
「精米して、日が経てば、また精米すればいい」

とも話していた。

この機会に、精米して1ヶ月と少しで商品棚からコメを撤去してしまうスーパーの慣習について、再考してはどうだろうか。

参考情報

1)「令和の米騒動」か コメ値上がり招く3つの理由(日本経済新聞、2024/7/13)

2)SNSで「米騒動」心配する声も…農水省が冷静な対応を呼びかけるワケ(ライブドアニュース、2024/7/15)

3)世界各機関 2023年気温は過去最高と発表 最大要因は温暖化との見解(ウェザーニュース、2024/1/17)

4)新潟米生産対策会議 猛暑へ肥料の適切管理を(毎日新聞新潟版 2024/7/12)

5)水をためないコメ作りへ 県やJA推進 猛暑、水不足対策=宮城(読売新聞東京朝刊、2024/7/11)

6)サイエンスReport 猛暑 今夏も 「ダブル高気圧」列島覆う(読売新聞東京朝刊、2024/7/13)

7)なぜスーパーでは精米して1ヶ月のコメを捨てるのか 米菓業界ではコメ不足で仕入れ値2倍になっているのに(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/4/26)

8)「古くなったコメ?外食産業にまわす」スーパーからの返品米を受け取る業者(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/5/18)

注)「コメ」と「米」の表記ゆれがありますが、引用した記事によって「コメ」と「米」が混在しているため、統一せず、そのままにしてあります。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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