頭が悪い上司が受けたがる研修、その名前は?
「どうすれば、部下がもっとやる気をもって仕事をしてくれるのか?」
そのような悩みを抱える上司が、部下とのコミュニケーションに活かすために「コーチング」の研修を受けたがるケースが多い。
しかし、上司が部下の行動変容を促すのに「コーチング」を学ぶことはやめたほうがいいだろう。それはなぜか? 今回は「コーチング」に関する誤解、勘違いについて解説する。
もちろん「コーチング」は素晴らしいコミュニケーション技術である。長い年月鍛錬し、コーチング対象(クライアント)さえ間違えなければ、ビジネスにおいても、人生においてもとても素晴らしい味方になってくれるスキルだ。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
<参考記事>
■頭がいい人の「問いを立てる力」とは? 初心者が驚くほどコーチング技術を身につけられる秘策
■ビジネスにおいてコーチングが機能しづらい理由
個人の潜在的な能力を開発する手法として「コーチング」は広く知れ渡っているようになっている。
「コーチング」という言葉は市民権を得、個人レベルではなく、この手法を採用して従業員の達成意欲を向上させようと試みる企業も増えてきた。とはいえ、この技術は、誰でも体得できるような代物ではない。にわか仕込みの「コーチング技術」では、相手の達成意欲を向上させるどころか、悩みを深め、かえって傷つけてしまうことがある。
ビジネスの現場で「コーチング」がうまく機能しない原因は2つある。
(1)コーチ(を名乗る人)のスキル不足
(2)コーチング対象の誤解
■1つ目の問題「スキル不足」
まずは「スキル不足」について解説しよう。
私は「コーチング」の技術については精通している。しかし私はコーチではなくコンサルタントだ。クライアント(企業)に「コンサルティング」はするが「コーチング」はしない。
もちろん私の部下に対してもコーチングはしない。それはなぜか?
当たり前のことだが、私が「コーチング」のプロではないからだ。知識はあっても、膨大な数のトレーニングを積んだ経験がない。コンサルタントも同じだが、プロのコーチも日々の鍛錬が不可欠であり、見よう見まねで実施できるものではない。
「コーチング」するときに使うコミュニケーション技術はもっぱら「質問」である。クライアントの中にあるリソースに焦点を合わせた、効果的な「質問」を通して、クライアントの頭の中を整理させ、別の視点から事物を照らして、気付きを誘発させ、主体的な行動変容を起こさせ、そして、クライアント自らが設定する目標を達成させる。
この支援をするのがコーチの役割だ。コーチが「アドバイス」や「提案」などはしない。
「質問」が基本テクニックと書いたが、これがまた難しい。
何でもかんでも「質問」すればよいということではない。そして何でもかんでも「傾聴」すればいいということでもないのだ。目標達成のための行動変容を促がす気付きを、「質問」によって引き出すのだ。想像できると思うが、簡単ではない。
コーチが「効果的な質問」をするためには、質問の内容のみならず、相手とペースを合わせた呼吸・リズム・話し方に気を配らなければならない。
正しくペーシングできないと、相手は「誘導尋問」をされている気分となり、頭の整理もできないし、新たな気付きも得られない。相手の呼吸のリズムや、物事の受け止め方、思考の揺らぎなど、一定の期間をかけてキャリブレーション(観察)し、クライアント特有の認知パターンを知ることが不可欠だ。(簡易的なテストでクライアントを安易に区分するのは危険)
数日間の研修を受けただけの一般企業のマネジャーが、見よう見まねで部下に「コーチング」をしてみようとしたが、部下が混乱して意欲が向上するどころか、悩みの袋小路に入って抜け出せなくなってしまった、という事例がたくさん出ている。コーチングのスキルは、基本要素だけでも多岐にわたる。生半可なトレーニングでは身につかないことを知っておくべきだろう。
■2つ目の問題「コーチング対象の誤解」
次は「コーチング対象の誤解」に関する点だ。
「コーチング」の基本的な考え方は、【答えは、クライアントの中にある】。これを読んでいる読者も、聞いたことはあるだろう。答えは自分の中にある。「わかってはいるのだが、なかなか行動が伴わない……」という場合にコーチングは威力を発揮する。
コーチングは目標達成させるための行動変容を効果的に促がすためにある技術だ。しかし、ベースである「目標達成意欲」がない、そのための「能力」がない、というのであれば、コーチング対象にならない。
今よりももっと速く走りたい、もっと高く飛びたいと願うアスリートに対してコーチが手ほどきをするのと同じだ。一般企業でいうと、経営者やマネジャーがコーチングの対象クライアントにふさわしいと言えるだろう。
達成意欲もなく、どのような行動を起こすことで結果がもたらされるのか、皆目検討もつかない人材に「コーチング」は機能しづらいのだ。この場合、必要なのは「ティーチング」と言える。
また、「重要―緊急マトリックス」で考えた場合、コーチング対象は【重要だが緊急ではない】仕事にすべきであり、急を要するときに「コーチング」は逆効果だ。つまり、早く部下に結果を出してほしい、行動を変えてほしいときにコーチングは機能不全に陥ってしまう可能性が高いのだ。
■誤解さえしなければ「コーチング」は素晴らしい技術
「コーチング」は素晴らしい技術だが、どういう人に対して、どのような行動変容を、どのような時間軸で実現させるかをキチンと押さえておくべきだ。実際に、私の場合も、現場に入って「コーチング」することはない。
基本スタンスとして、相手に考えさせ、相手の言葉で行動を宣言してもらうが、相手の答えが間違っていれば、私はそれを修正する。そしてアドバイスをする。
部下の中に「答え」がないのなら、上司はアドバイスしつつ、膨大な数の成功体験を通じて気付かせるべきだろう。その成功の「歴史」がクライアントをコーチングしてくれるはずだ。
<参考記事>