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バイデン撤退「民主党は敗北に近づくことになる」勝者を的中させてきた“大統領選のノストラダムス”の予測

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 バイデン氏が大統領選からの撤退を表明した。

 バイデン氏は討論会で言葉に詰まるなどの大失態を晒し、その後も、ゼレンスキー大統領をプーチン大統領と紹介するなどの失言を続け、党内での撤退圧力は高まっていた。決定打はトランプ氏が暗殺未遂事件で銃撃を受けながらも力強さを示し、バイデン氏の弱さが際立ってしまったことだろう。「強いトランプ」vs「弱いバイデン」という鮮明なコントラストが生じてしまった。オバマ元大統領やペロシ前下院議長など民主党の重鎮たちもバイデン氏はトランプ氏に勝てる可能性が低いとの見方を示したことも撤退の後押しをしたと思われる。

 バイデン氏は民主党の大統領候補としてハリス副大統領を支持すると表明したが、果たして、民主党に勝ち目はあるのか? 

与党の勝敗を左右する13の鍵

 アル・ゴア氏がジョージ・ブッシュ氏に負けた2000年の大統領選を除き(もっとも、リクトマン氏は、ゴア氏が一般投票では勝ったため、自身の予測は正しかったと主張している)、1984年以降の大統領選の勝者を的中させてきた、“大統領選のノストラダムス”として知られるアメリカン大学歴史学教授のアラン・リクトマン氏が、米政治ニュースサイト「ポリティコ」で、バイデン氏の撤退が大統領選での勝敗にどんな影響を与えるのか見解を述べている。

 リクトマン氏は自身が編み出した、13の鍵をベースに大統領選の勝者を予測してきた。この予測システムでは、与党にとって不利となる鍵が6つ以上失われた場合、与党は敗北するとしている。以下が13の鍵だ。

1.党の使命: 中間選挙後、与党は米下院で、前回の中間選挙後よりも多くの議席を保持している。

2.コンテスト: 与党の指名をめぐり、対立候補がいない。

3.現職: 与党の候補者は、現職の大統領。

4.第三政党: 主要な第三政党が存在しないか、または、独立的な選挙運動が行われていない。

5.短期的な経済: 選挙期間中、経済は景気後退に陥っていない。

6.長期的な経済: 任期中の一人当たりの経済成長率が、過去2期の平均成長率と同等かそれを上回っている。

7.政策変更: 現政権は国の政策に大きな変更をもたらしている。

8.社会不安: 現政権の任期中に大きな社会不安が起きていない。

9.スキャンダル: 現政権は重大なスキャンダルに襲われていない。

10.外交・軍事の失敗: 政権は外交・軍事面で大きな失敗をしていない。

11.外交・軍事の成功: 現政権は外交または軍事問題で大きな成功を収めている。

12.現職のカリスマ性: 与党の候補者はカリスマ性があるか国民的ヒーローである。

13.挑戦者のカリスマ性: 挑戦している党の候補者はカリスマ性がないか、または国民的ヒーローでもない。

民主党は新たに“現職”という鍵を失った

 これまで、リクトマン氏は、与党民主党は上記の13の鍵のうち、バイデン氏の党内での対立候補が不在で、バイデン氏が現職大統領の候補であるという2と3の鍵は保持しているものの、中間選挙で民主党が下院で敗北したこととカリスマ性が欠如していることから1と12の鍵を失っているとの見方を示していた。

「バイデン氏は決定的に2つの鍵を失っている。与党は2022年に米国下院の議席を失ったことから、1番目の鍵を失くしている。また、同氏はジョン・F・ケネディやフランクリン・ルーズベルトのようなカリスマ性がないから12番目の鍵を失くしている」

 つまり、民主党は13の鍵のうち、すでに2つの鍵を失っていたわけだ。しかし、バイデン氏の撤退により、リクトマン氏は「民主党は(3番目の)現職という鍵を失った」と指摘している。つまり、民主党は、候補者が現職の大統領ではなくなるため、3つの鍵を失ったことになるという。その意味では、リクトマン氏の予測システムにおいては、民主党は敗北に一歩近づいてしまったと言えるのかもしれない。

“コンテスト”の鍵を失う可能性も

 さらに、リクトマン氏は、民主党がもう一つの鍵を失う可能性が出てきたと指摘している。それは、2番目の「与党の指名をめぐって、対立候補がいないコンテスト」という鍵だ。これまで、与党民主党にはバイデン氏の対立候補と言える人物がいなかったので民主党はこの鍵を持っていたが、撤退により事態が変わってくる可能性があるからだ。つまり、民主党大統領候補の指名を得ようと立候補する者が複数現れ、コンテストが起きるとこの鍵は失われる。現在、民主党大統領候補の候補者はバイデン氏から支持されたハリス氏だけだが、他に立候補する者が現れたら、コンテストが起きることになる。そのため、同氏は以下のように述べている。

「民主党は“コンテスト”というもう1つの鍵を失う可能性があり、この鍵を失った場合、4つの鍵を失い、予想されている敗北に近づくことになる」

 つまり、民主党は、ハリス氏の下で団結しなければ、この鍵を失うことになる。そのため、リクトマン氏はこう述べている。

「今後数週間、重要な問題は、民主党が賢くなってバイデン氏のアドバイスに従い、カマラ・ハリス氏の下に団結するかどうかだ。ハリス氏は副大統領、米上院議員、カリフォルニア州司法長官を務めた経歴を持つ、十分な資格を持つ候補者だ」

熾烈な指名獲得争いが起きると...

 また、リクトマン氏は、与党の現職の大統領が出馬しない大統領選では、熾烈な指名獲得争いが起きると与党は負けていると言及している。

「鍵以外にも、歴史は重要な教訓を与えてくれる。1900年以降、与党は、熾烈な指名獲得争いが起きた場合、(現職大統領が出馬しない)「オープン・シート」の大統領選では勝ったことがない。しかし、サンプルは少ないものの、指名獲得争いが起きなければ、与党は「オープン・シート」の大統領選で勝つ可能性が(野党と)ほぼ同等にある。例としては、1928年と1988年(の大統領選)がある」

 リクトマン氏は、民主党が今回の大統領選で勝ちたいのなら、党内で指名獲得争いを起こさず、ハリス氏の下で団結することが重要だと考えているようだ。

 もっとも、現時点では、ハリス氏がバイデン氏の後任の民主党大統領候補に指名されると有力視されている。有力な対立候補と目された同党の知事もハリス氏を支持しており、ハリス氏が事実上、党指名候補に決まったとも報じられている。しかし、米大統領選では何が起きるかわからない。現に、トランプ氏は銃撃され、バイデン氏は1968年のジョンソン大統領以来56年ぶりに選挙戦の途中での撤退を決めた。

 大統領選の投票日まで残すところあと3ヶ月半。未知の領域に突入したと言われる大統領選の行方から目が離せない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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