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「バイデンは人々の懸念にヤバいほど無関心。撤退要求が高まるだろう」米紙はTVインタビューをどう見たか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ABCテレビのインタビューを受けるバイデン氏。画像:abc13.com

 第1回大統領候補討論会でバイデン氏がみせた“大失態”の波紋が広がるアメリカ。

 民主党内からはバイデン氏に対して大統領選からの撤退を求める声があがり、支持率はバイデン氏は拮抗していたトランプ氏から引き離されてしまった。民主党の主要献金者からはバイデン氏が撤退しないと献金を停止するとの圧力もかけられている。大統領就任以来最大の危機に直面しているバイデン氏。そんな同氏にとって正念場になると言われていた、ABCテレビのジョージ・ステファノプロス氏によるインタビューが7月5日放送された。850万人(ニールセンによる調査)が視聴したこのインタビューで大統領は何を訴え、アメリカの有力紙はそれをどう見たのか?

回答は否定のオンパレード

 バイデン氏は、このTVインタビューで以下を訴えている。

・批判された討論会でのパフォーマンスについて、疲れと風邪に起因する「悪いエピソード」に過ぎず、「深刻な症状」ではないと否定。

・「友人や民主党、下院、上院の支持者から、あなたが候補に留まれば下院と上院を失うのではないかと懸念していると言われたらどうするか?」との質問に対し「そんなことはあり得ない」と一蹴し、撤退を求める声を否定。

・「支持率が36%の大統領が再選されるのを見たことがない」との指摘に対し「それが私の支持率だとは思っていない。それは世論調査が示していることではない」と否定。

・「特にここ数ヶ月、メンタルの衰えが増していることに異論はないか?」との質問に「100mを10分で走れるか? 走れない。でもまだ体調はいい」「フレイル(虚弱状態)にはなっていない」と否定。

・認知機能検査を受けたことがあるかとの問いに「誰も検査が必要と言わなかった」とし、認知機能テストを受けることを否定。

・討論会を再度見たかとの質問に「見なかったと思う」と否定。

・トランプ前大統領に勝てないと分かれば大統領選から撤退するかとの問いには「撤退するのは全能の神が降臨して撤退を促された場合のみだ」と言って否定。

 こうして書き出してみると、バイデン氏の回答は否定、否定のオンパレードである。

危機感を抱いていないバイデン氏

 実際、米紙ニューヨーク・タイムズは「危機? 何の危機? バイデン氏は民主党の悲観論を拒否」というタイトルで、バイデン氏が懸念されている問題を否定し、危機感を抱いていないことを問題視している。

「バイデン大統領の世界では、すべてが順調に聞こえる。あの悲惨な討論会? 単にひどい夜だっただけ。あの悲惨な世論調査の数字? 単に不正確なのだ。悲観的な選挙予測? いつもの悲観論者がまた間違っている。彼に撤退を求めている民主党員? 誰も彼にそう言っていない」

 また、「彼は年齢を重ねるにつれて衰えているという考えに同意していない。彼はトランプ前大統領に負けていることを認めていない。彼は自分の党から撤退を求められているとは思っていない。金曜日の夜に放映されたゴールデンタイムのインタビューは、ダメージ・コントロールだけでなく現実をコントロールする練習でもあった」と懸念されている現実問題をコントロールすることができていなかったバイデン氏を揶揄している。

人々の懸念にヤバいほど無関心

 同紙は、バイデン氏の回答に対して、民主党内部からあがっている声も紹介している。

「大統領が否定し、孤立していることがわかる。大統領には選挙戦における自分の実力を正確に評価する能力が求められるが、このインタビューからは、大統領がその実力を上手く把握しているという確信を得られなかった」(2020年の民主党候補指名争いで、バイデン氏と対立した元住宅長官フリアン・カストロ氏)

「バイデン氏は、自身の能力やこの選挙戦での立ち位置について人々が抱いている懸念にヤバいほど無関心だ」(オバマ元大統領の上級顧問を務めたデイビッド・アクセルロッド氏)

「より多くの議員が大統領からの撤退を求めるだろう」(匿名の民主党議員)

「インタビューで問題は解決しておらず、バイデン氏は執行猶予を与えられたようなものだ」(匿名の民主党議員)

「このインタビューは必要なことだったが、十分とはいえなかった。民主党員の間で高まる怒りや憤りを鎮めることはできないだろう」(民主党の有力戦略家ポール・ベガラ氏)

 討論会ではバイデン氏が見せたたどたどしい様子も問題視されたが、同紙は今回のインタビューでもバイデン氏が答える様子に注目し、こう述べている。

「バイデン氏は今回、顔色が以前より赤みを帯び、膝の上に手を置いて足を組んで落ち着いているように見えたが、声はまたもやかすれ、ためらいがちで、最後まで言い終えるのに苦労する場面もあった」

信じられないことに、討論会を再度見ていない

 米紙ワシントン・ポストも、バイデン氏が懸念されている問題を否定し、現実が見えていないと指摘。

「バイデン氏のインタビューは、バイデン氏が(大統領選で)敗北するのではないかと心配している人々を安堵させるものにはならなかった」

「大統領は自身が直面している問題の大きさを否定し、この3年半に、自身が一歩踏み外したという明白な事実を認めようともしていない」

 同紙はまた、バイデン氏の様子についても以下のように疑問を投げかけている。

「(討論会時と)同じように口をあんぐり開けて見入っていたし、流れがわからなくなったような、とりとめのない答えもいくつかあった。信じられないことに、彼は自身の立候補を台無しにする恐れのある討論会を再度見なかったと言っている。彼は(討論会を再度見たか?の質問に対し)『見なかったと思う』と少し間を置いて言ったのだ」

 ニューヨーク・タイムズもワシントン・ポストも共に、バイデン氏が自身が置かれている現実を直視できていないことに“ヤバさ”を見出していることがわかる。

まるでトランプ氏と同じ

 懸念を全否定したバイデン氏は、インタビューで絶大なる自信を披露した。

 「私以上に大統領になる資格、あるいはこの選挙に勝つ資格のある者はいない」「私が彼を倒すのに最も適任だ」「私はとても成功した大統領として歴史に名を残すだろう」などと豪語したバイデン氏は、自画自賛するナルシシストなトランプ氏を彷彿とさせた。

 結局のところ、バイデン氏とトランプ氏は、現実的な問題を突きつけられながらも権力に固執し、歴史に名を残そうとしている意味では「同じ穴のムジナ」なのだ。このインタビューは米国民にそう確信させたのではないか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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