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国家公務員の労働環境はどこまで改善したか?協力的な議員、非協力的な議員も明らかに

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
株式会社ワーク・ライフバランス

「オンラインレクの対応」、「早期の質問通告で与野党一致」、「残業代の全額支払い」など、世論の盛り上がりなどを受けて、ここ半年程度で改善策が打ち出されていた国家公務員の働き方改革。

では実態としてどこまで改善したのか?

株式会社ワーク・ライフバランスは3月から4月にかけてインターネット上でアンケートを実施(国家公務員の回答数316)。

「コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」

https://work-life-b.co.jp/20210422_11719.html

約3割が「残業代が正しく支払われていない」

その結果によると、3月の残業代について「正しく支払われていない」と回答したのは30%近くに上った。

株式会社ワーク・ライフバランス【コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査】(以下、同様)
株式会社ワーク・ライフバランス【コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査】(以下、同様)

【2021年3月支給の超過勤務手当の支払いについての経験や実態についてのフリーコメント(一部抜粋)】

・年度末で超勤予算が枯渇し支払えないと言われた。(総務省 40代)

・超過勤務した分を申し出たが支払うことはできないと言われた。(農林水産省 40代)

・テレワークは国際会議等の理由があれば残業がつくが、基本的に認められないと言われた。実際の勤務時間で残業申請したものの、認められなかった。(財務省 20代)

・テレワーク(在宅勤務)では残業として認められないという空気がある。(農林水産省 20代)

・3割支給されている程度で前と全く変わっていません。噂では、予算がないからとのことですが、予算がないなら残業させないでほしい。(厚生労働省 40代)

質問通告の「2日前ルール」は「守られていない」85%

また、長時間労働の大きな原因となっている、質問通告の遅さに関しては、1月に「早期の質問通告で与野党一致」していたものの、約85%が「守られていない」と回答した。

具体的にどこの政党や議員がルールを守っていないか聞いたところ、質問通告時間が遅いのは「立憲民主党」「共産党」、デジタル対応が遅れているのは「立憲民主党」「自民党」との回答が多数上がった。

とはいえ、野党の方が質問回数が多く、立憲民主党に所属している議員も多いため、単純にどこの政党が悪いと断定することは難しい。

これまで度々説明してきている通り、直前まで審議日程を決めている「日程闘争」が最大の要因であり、これを見直していかなければならない。

日程闘争とは:国会の審議日程をめぐる与野党の駆け引きで、日本は会期中に議決に至らなかった案件は廃案となるため、可決を急ぐ与党は審議を早めて採決に持ち込もうとし、野党は引き延ばして廃案に追い込もうとする。

フリーコメントの中でもそのように触れられている。

個別の議員の方々からの配慮を感じるようになっている一方で、結局のところ、委員会の日程が権力闘争の具となっているために、改善の効果は抑制されている。与野党間での調整による日程決定が直前では、個別の議員の方々も2日前通告を実現できないのではないか。(国土交通省 30代)

・そもそも会議をやるかどうかが決まるのが前日なため、必然と通告も遅くなる。旧態依然とした日程闘争が変わらない限り国会による残業はなくならない。(議員秘書の職場環境も同様では)(総務省)

デジタル対応も同様に、議員がもっとも多い自民党は、デジタルに対応している、していない政党としても2番目に名前が上がっている。

・審議会を開催する度に、毎回複数の議員事務所に審議会資料を紙媒体で届けることが慣例化しています。審議会の資料は役所のホームページに公開されているので、紙媒体で確認したい場合は各議員事務所で印刷するようにしていただきたいです。膨大な量の資料を印刷し、資料を順番通りに組んで封筒に入れ、霞ヶ関から永田町の議員会館まで電車と徒歩で運ぶ作業をしています。見えないところで相当の時間とマンパワーが割かれておりこのような作業はすべて若手職員がやっています。(厚生労働省)

・野党ヒアリングと称して、役所の同意も得ずに民間人やマスコミを呼び、パワハラまがいのつるしあげが常態化している。また、到底間に合わない期限で資料作成を要求され、期限前に間に合わないと伝えると、執拗にパワハラのような言動を繰り返し、職員の多大なる負担となっている。特にある党の特定の議員及びその秘書の対応は常軌を逸しており、業務妨害といって差し支えないレベルにある。(法務省)

・質問主意書のルール(スピード感、体裁、内容)を緩和してほしい。閣議決定事項となるためルールが重く、これに当たると、1週間全ての仕事がストップする。一方で議員からは気軽に提出できるのは、不公平感がありすぎる。与党の若手や、国民民主や維新の議員は、リモートやペーパレス、早期通告など時代に合わせた対応をしてくれようとしている感じがする。(国土交通省)

・これまでと比べて1日程度通告が早くなった方がほとんど。これは本当に業務計画が立てやすくなった。(農林水産省)

協力的な議員は日本維新の会・音喜多駿議員、国民民主党・玉木雄一郎議員ら

一方で、協力的な議員、非協力的な議員がいるのも事実であり、今回の調査では個人名も上げてもらっているが、特定の一部議員に回答が偏っているのはその証拠であろう。

先方の「事情」は把握していないため、非協力的な議員の名前を出すのは控えるが、協力的な議員としては、日本維新の会・音喜多駿参議院議員、国民民主党・玉木雄一郎衆議院議員、自民党・小林史明衆議院議員、立憲民主党・石橋通宏参議院議員、日本共産党・宮本徹衆議院議員の名前が上げられた。

特に前半の3人はこれまでオンライン対応や国会改革に関して問題提起を度々しており、やはり個人の意識によって変えられる部分も多いのだろう。

オンライン対応は確実に前進

「議員とのレクは電話やオンラインなどを利用してリモートで行うことができる」という問いに対し、前回調査(2020年3月〜5月)と今回調査を比較すると、ポジティブな意見である「強くそう思う」「そう思う」が17.0%から67.1%へと増加した。

「議員とのやり取りはFAXではなくメール等で行うことができる」という問いに対しても、ポジティブな意見である「強くそう思う」「そう思う」が13.9%から69.2%へと増加。

残業代不払いで「結局は変わらないというあきらめの気持ち」

人事局が2021年4月に発表した2021年度の国家公務員採用試験の総合職の申込者は、2020年度に比べて14.5%も減っており、現状は危機的な状況と言っても過言ではない。

今回のアンケート調査で、「残業代が正しく支払われていない」と答えた人に、気持ちの変化を複数回答で質問すると、「結局は変わらないというあきらめの気持ちを感じた」が71%、「仕事へのモチベーションがより下がった」が42%、「辞めたいと思うことが増えた」が33%、「転職先を探し始めた」が26%と回答があり、こうした状態ではさらなる「官僚離れ」が懸念される。

【実態どおりの支払いがされないことについてのフリーコメント(一部抜粋)】

・テレワークにて勤務した場合、管理者が直接目視にて作業状況を確認できないので、超過勤務手当の支払いは困難である旨を遠回しに指示を受けた。(農林水産省 30代)

・テレワークの日は残業をつけないよう通知があった。業務が終わらない場合にはサービス残業とすることを暗に指示された。(経済産業省 20代)

【困っていることについてのフリーコメント(一部抜粋)】

・パワハラに対してパワハラを起こしている側に組織が寛大。パワハラを人事課に訴えたがスルーされた。トップ層はパワハラ課長を擁護しているため、結果的に若手の被害者が続出している。人事課長にも直談判したが難しい問題とトップ層との間で板挟みにあっているようだ。(内閣府 40代)

・そもそも国が残業代をしっかり払っていない、労働基準法を守っていないなど終わっている。転勤も今の時代にそもそもそぐわない。優秀な人材から離職し、厚労省はすでに組織として崩壊していると思う。(厚生労働省 40代)

・女性や子育て、介護などをしている職員が働ける環境にないこと。女性で集まるたびに絶望するような話ばかり聞かれ、職場に対する信頼感が持てない。やめることばかり考えてしまう。(総務省 30代)

・年功序列により、能力のない上司が増え、若手がどれだけ働いても評価されず、やる気のある職員が辞めていき、悪循環が起こっている。仕事は毎年増えるが行きすぎた職員の削減により、現場がどんどん追い詰められている。(国土交通省 30代)

・上司に対する部下からの評価(いわゆる360度評価)が形骸化しているため、意味のあるものにしてほしい。パワハラで辞めていく同期はもう見たくない。(内閣府 20代)

【良くなったことについてのフリーコメント(一部抜粋)】

ブラック問題が取り上げられるお陰で、この一年の間でも、意識はかわり、働きやすくはなったと思う。また、国会対応業務が発生しない時は、会社にいる時よりリラックスして仕事ができているようにも思う。(局内の人間関係は良いと思う)国会関連業務が最も大変ではあるが、国会の仕組みや議員の問題というより、行政府と立法府の双方に原因があり、協力して解決すべき問題ではないかと感じる。(国土交通省 40代)

・コロナによりテレワークが普及し始めていることは良いこと。テレワークがなければ、平日に家族と夕飯を食べる経験はまずできなかった。(国土交通省 30代)

幹部の意識がここ一年で大幅に改善された。世論のおかげ。(国土交通省 20代)

国会議員の先生方からの配慮を感じるようになった。(環境省 20代)

・テレワークの実施により、通勤時間の削減や作業に対する集中力の向上を実現させることができ、「テレワークは役に立つ」ということを十分に感じとることができた。(法務省 30代)

・河野太郎大臣のおかげで押印文化がなくなった事は進歩だと思う。各省庁の間でもデジタル化の進み具合に差があるため、進んでいるところに合わせて足並みを揃える事が出来れば、もっと良くなれると思う。(内閣官房 30代)

2月から残業代が本当に満額出るようになった。それまでは1/3程度しか出ていなかったのでとても嬉しかった。仕事に対するモチベーションアップにつながった。(文部科学省 20代)

・入省時と比べてペーパーレス化等が進み、何十部もコピーして資料セットを行うことや綺麗な紙資料を準備する必要がそこまでなくなったので、かなり業務負担減となった。入省時は定時時間内の大半をコピー、シュレッダーなどの資料セットや、新聞記事の切り抜きにかかっていた。それがなくなったのが本当に良いと思う。(国土交通省 20代)

関連記事:国会質問通告の早期化で与野党合意。官僚の長時間労働是正に向けて、今回こそ実現するか?(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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