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タイタンからの通信が途絶えた母船で起きていた重大なこと “議員買収”証言も 潜水艇タイタン事故公聴会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 アメリカでは、9月16日から27日まで、昨年6月に豪華客船タイタニック号の残骸見学ツアーに向かう途中で爆縮し、5名の乗船者が亡くなった潜水艇タイタンの事故を審理するための公聴会が行われた。タイタンを運航していたオーシャンゲート社の元関係者やエキスパートら24人以上が証言した。

NASAやボーイング社の関与は限定的

 9月26日は、NASAやボーイング社の関係者が証言を行った。オーシャンゲート社は、タイタンはNASAやボーイング社の支援を受けて設計・開発されたと示唆していたからだが、それは本当なのか?

 証言したNASAのエンジニア、ジャスティン・ジャクソン氏によると、オーシャンゲート社は当初、探査用の厚い複合材船体の製造に関心を持っていたNASAに複合材船体の製造を依頼したが、新型コロナのパンデミックにより、NASAはオーシャンゲート社向けの製造やテストができず、厚い船体の製造を試みる計画を含む、3分の1スケールのモックアップに関する相談をリモートで行ったという。
 その後、オーシャンゲート社はメディア用のリリースにNASAの名前を引用したいと要請したが、NASAがそれを断ったことから、両者の契約は終了した。断った理由について、ジャクソン氏は「彼らが(リリースで)使っていた言葉が、私たちが支持しているとすることに近い言葉だったのです。我々の関係者は少し気分が悪くなりました」と言及した。オーシャンゲート社はNASAから船体に関する何らかのお墨付きを得ようとしたのだろうが、NASAはお墨付きを与えられるほど同社に関与していなかったということだろう。

 オーシャンゲート社とカーボンファイバーの船体に関する契約を行ったボーイング社はコンセプト船の予備的な実現可能性調査は行ったものの、同社エンジニアのマーク・ネグリー氏は「オーシャンゲートのために部品を製造しておらず、カーボンファイバーの種類についても助言しておらず、材料のテストにも関与していない」と証言した。結局、両者の関係は、費用の関係上、途絶えたようだ。

 つまり、NASAもボーイング社も、オーシャンゲート社との関係は限定的だったわけである。

規制はイノベーションの妨げになる

 沿岸警備隊の海洋検査官ジョン・ウィンターズ氏は、オーシャンゲート社元CEOストックトン・ラッシュ氏が沿岸警備隊の規制について「規制が私のイノベーションのプロセスを妨げている」と何度も不満を述べたと証言。タイタンの検査も沿岸警備隊に依頼しなかったという。

 また、同社が乗船者のことを“ミッション・スペシャリスト”と呼んでいたことも問題になった。タイタンの乗船者は莫大な料金を払って乗船していたが、規則によると、料金を払って乗船する者は“ミッション・スペシャリスト”のような乗組員とは言えないからだ。

タイタンからの通信が途絶えた母船で起きていたこと

 公聴会最終日の9月27日には、新事実が明らかになった。タイタンとの通信が途絶えた母船ポーラー・プリンス号であることが起きていたのだ。母船の船長は、事故から数ヶ月後、沿岸警備隊委員会に聴取された際、こう語っていたことがわかった。

「後から考えてみると、(タイタンからの)通信が途絶えた頃、ポーラー・プリンス号が揺れたのを感じました。しかし、当時は何も考えていませんでした。それは軽い揺れでした」

 その発言を公聴会で初めて知ったというジェイミー・フレデリック大佐(タイタンの捜索活動のリーダーの一人で、現在はボストン沿岸警備隊管区の司令官)は「捜索チームがその揺れについて知っていたら、状況は間違いなく変わっていただろう。捜索救助活動に大きな影響を与える可能性があった情報だ」と母船の船長の発言が委員会の統合司令部に共有されていなかったことを重大視した。

議員を買収して解決

 オーシャンゲート社元従業員のマシュー・マッコイ氏の証言も注目された。

 あるランチの席で、タイタンの検査証明書が不足していることを懸念したラッシュ氏は「問題になったら、議員を買収して問題を解決する」と言及したという。マッコイ氏は同氏の発言について「愕然としました」と述べ、その後、会社を辞めた。

 また、マッコイ氏は、在籍していた2017年当時、同社は有能な人材ではなく、大学のインターン生が多かったとも証言した。

 2週間にわたって行われた公聴会の終わり、米沿岸警備隊海洋調査委員会の委員長ジェイソン・ノイバウアー大佐は「内部告発者によって共有された情報は、今後、沿岸警備隊内でより広く行き渡ることになるだろう。調査作業はまだ残っており、必要なら、さらに公聴会が行われる可能性がある」と述べ、調査努力は今後も続くと述べた。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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