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元妻が買ったのは覚醒剤ではなく氷砂糖だった?「ドン・ファン事件」無罪の訳 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Motoo Naka/アフロ)

「紀州のドン・ファン」と呼ばれた男性を急性覚醒剤中毒死させたとして殺人罪などに問われた元妻に無罪が言い渡されました。市民感覚とかけ離れているなどと判決を批判する識者がいる一方で、市民の代表として審理に加わった裁判員の一人は「ニュースや報道でみる事件と、裁判員としてみる事件では全然違うので、先入観は怖いなと思った」と語っています。判決の理由やその影響を含め、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「被告が覚醒剤の可能性があるものを買ったことは認められるが、氷砂糖の可能性もあり、覚醒剤に間違いないとは認定できない」
出典:FNNプライムオンライン 2024/12/12(木)

「ネットで『完全犯罪』等と検索しているが、殺害を計画していなければ検索することはありえないとまではいえない」
出典:カンテレ 2024/12/12(木)

「野崎さんが知人に『覚醒剤やってるで』などと電話した」「覚醒剤に興味を持ち、入手したことを完全に否定できるか疑問が残る」
出典:朝日新聞DIGITAL 2024/12/12(木)

「被告が野崎氏に覚醒剤を摂取させたと推認することはできず、(中略)野崎氏が誤って過剰摂取したことは否定できない」
出典:ytv 2024/12/12(木)

エキスパートの補足・見解

裁判所は事故死だった可能性を払拭できないと述べています。他殺だったかすら疑わしいというわけです。そうなると、元妻以外に犯人の可能性などないという検察側の主張は意味をなさなくなります。

覚醒剤入手の件も、SNSで「アイス」などの隠語を使って客を募り、元妻から注文を受けて販売したとされる密売人が「実は氷砂糖を砕いた偽物だった」と証言しています。元妻も男性の依頼で入手して渡したあと、男性から「あれは使い物にならん。偽物や」と言われたと供述しているところです。

検察側は嘘だと主張していたわけですが、2020年に全く同じやり方で氷砂糖を本物と偽って販売した大学生が麻薬特例法で摘発された例もあります。そのまま飲むと苦い覚醒剤をいかにして大量に飲ませたのかも未解明であり、検察側の主張に穴があったのは確かでしょう。

「疑わしきは罰せず」という刑事司法の原則が貫かれた形となった無罪判決でしたが、検察側の控訴が予想されます。故意に被相続人を殺害して刑に処せられたら相続人の資格を失います。この刑事裁判は13億円超ともいわれる男性の遺産の行方にも大きな影響を与えることになるわけです。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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