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【親子で楽しく学ぶ夏休み耐震実験4】振り子で学ぶ建物の揺れ方

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
日本損害保険協会のホームページより

振り子の揺れ

著者作成
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 2本のタコ糸と、大きなナット2個と小さなナット1個を用意します。最初に大きなナットをタコ糸にぶら下げてみましょう。ナットを横に引っ張って放すと、振り子が揺れ続けます。タコ糸の長さを短くするとその周期は短く、長くすると長周期になります。

 つぎに、小さなナットもタコ糸にぶら下げてみましょう。タコ糸の長さが等しいと、ナットの重さが変わっても、振り子の周期は変わりません。この周期を、振り子の固有周期と言います。中学の時に、振り子の固有周期は、長さの平方根に比例することを勉強しましたよね。

鏡を通して振り子を見てみると建物の揺れに見える

 さて、振り子の手前に鏡を敷いてみると、振り子が逆立ちして見えます。その状態で、振り子を持つ手を左右に動かすと、手の上で振り子が左右に振動しているように見えます。カメラをひっくり返して撮影してもよいです。手が地盤、振り子が建物だと思ってください。

 タコ糸を少し長めにして、手をゆっくりと左右に動かしてみます。振り子は手と一緒に移動するだけです。つぎに、手を小刻みに左右に速く揺すってみます。今度は、手が左右に動いても、ナットは余り動きません。それに対して、上で説明した固有周期で、少しだけ左右に動かしてみてください。最初のうちは、ナットは余り揺れませんが、動かし続けていると徐々に揺れが大きくなって、最後はものすごく揺れます。これを、共振と言います。

日本損害保険協会より
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 タコ糸の長さをいろいろ変えて、実験してみてください。振り子の長さによって、揺れ方が随分違います。こういった実験から、背の高い建物は長い周期の揺れで大きく揺れてしまうことが分かります。これを長周期地震動問題と言います。

同じ大きさの錘(おもり)を2つぶら下げて、2階建ての建物の揺れを見る

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 つぎに、同じ大きさのナットを2つぶら下げてみます。タコ糸の長さは、同じにしてみてください。今度は、大きく揺れる動かし方が2種類あることが分かります。左右に動かす手を最初はゆっくりと、そして徐々に速く小刻みにしていきましょう。そうすると図の左側のように大きく揺れるようになります。そして、さらに早く小刻みに左右に揺すっていくと、揺れが収まったあと、再び、図の右側のように大きく揺れるようになります。この2つの揺れ方は、ちょうど2階建ての建物の揺れ方に相当します。長い周期だと1階と2階が同じ方向に揺れますが、短い周期では1階と2階が逆方向に動きます。不思議ですね。一度、錘を沢山つけて揺すってみてください。錘の数の分だけ揺れやすい形がでてきます。とても面白いですよ。

長い大きな振り子に短い小さな振り子をぶら下げてゆっくり揺する:低い建物は揺れにくい

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 さて、つぎに、大きいナットをつけた長い振り子の下に、小さいナットをつけた短い振り子をぶら下げてみましょう。鏡を通して逆さまに見ると、大きいナットの振り子が地盤、小さいナットの振り子が建物のように見えないでしょうか。

 それでは、大きい振り子が良く揺れるように手を左右に動かしてみてください。小さいナットは大きいナットと一緒に、ゆったりと揺れると思います。すなわち、長周期の揺れを受ける短い周期の低い建物は、地盤の動きと一緒に揺れることが分かります。

長い大きな振り子に短い小さな振り子をぶら下げて小刻みに揺する:免震の原理

 つぎに、小さいナットを揺するように小刻みに手を動かしてみてください。大きいナットはほとんど揺れないので、小さいナットも揺れません。つぎに、大きいナットを手で持って小さいナットだけを小刻みに動かすと、小さいナットは大きく揺れます。とても不思議ですね。長くて重い振り子を挟むことで、小さい振り子が揺れなくなりました。これが免震の理屈になります。短い振り子が揺れる小刻みな周期で手を動かしても、長い振り子が免震装置の役割を果たすので、小さな振り子は余り揺れません。

短い大きな振り子に長い小さな振り子をぶら下げて小刻みに揺する

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 今度は、大きいナットのタコ糸を短くして、小さいナットのタコ糸を長くしてみましょう。少しゆっくり揺すると、大きいナットは手と一緒に動いて、小さいナットだけがゆらゆら揺れると思います。これは、固い地盤では揺れが増幅されないことを意味します。

 つぎに短い大きな振り子が大きく揺れるように手を動かします。そうすると長い振り子は余り動きません。これは、高層ビルのような長い周期で揺れる建物は、小刻みに揺れる揺れでは柳に風と余り揺れないことを意味します。これが、かつて、地震の揺れはガタガタ揺れるので、長い周期で揺れる高層ビルは地震でも安全、と言っていた理由です。でも、大きな地震では長周期の揺れがあることが分かってきたので、その対策が急務になってきています。

大きい振り子と小さい振り子の長さを一緒にすると、小さい振り子が大きく揺れて大きい振り子が揺れなくなる:制振の原理

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 最後に、2つの振り子のタコ糸の長さを同じにしてみましょう。すると、小さな振り子がものすごく揺れます。共振の怖さが分かりますね。

 ところで、不思議なことに気づきます。小さな振り子はブルンブルンと揺れているのに、大きな振り子はほとんど揺れていません。つぎに、小さな振り子を切り離してみてください。今度は、大きな振り子がものすごく揺れます。小さな振り子があることで大きな振り子の揺れが抑えられました。これが、チューンド・マス・ダンパー(TMD)という最新の制振技術です。建物の固有周期と同じ周期で揺れる振り子を建物の頂部に置くことで、高層ビルの揺れを抑える技術です。

 このように、振り子の振動から様々な最新の建築技術が見つかります。親子でいろいろ実験して、独創的な新技術を発明してみませんか?

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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