「料理界のダ・ヴィンチ」の弟子は誰? 雲の上の料理人がつくった発酵をテーマにした料理
日本の発酵文化が注目
2013年12月、ユネスコ無形文化遺産で「和食;日本人の伝統的な食文化」が登録されました。それ以前から、海外では日本の料理や食材、調理法や食文化に大きな関心が寄せられていましたが、これを機にしてよりいっそう日本の食に注目が集まり、そこから10年近くが経過しています。
海外では受け入れられないと思われていた、寿司や刺身などの生魚、そして、日本が誇る発酵食品もだいぶ食べられるようになりました。
発酵食品は、消化を促進させたり、疲労を回復させたり、免疫細胞を活性化させたりし、体によい影響をもたらすことから、世界的に注目されています。海外にいる気鋭の料理人が、醤油や味噌、味醂や塩麹、米酢や鰹節といった調味料を上手に用いて料理の幅を広げているのが現状です。
日本のフランス料理界の巨匠である上柿元勝氏
日本には発酵を上手に使う料理人がたくさんいますが、中でも注目したいのが上柿元勝氏。
20世紀のフランス料理界の偉人であり、厨房のダ・ヴィンチと称されるアラン・シャペル氏のもとで修行し、日本の食材を高度なテクニックで繊細に融合させ、独創的なフランス料理を築き上げています。昭和天皇や来日した国賓にも料理を提供し、2016年には「現代の名工」に選出されたほどの料理人です。
日本におけるフランス料理界の巨匠である上柿元氏が、発酵をテーマとしたイベントを開催しました。
それは、2022年5月20日と21日に「洋食ビストロ TŌYAMA」で行われた「料理界のダ・ヴィンチの弟子である『炎の料理人』 上柿元シェフが発酵をテーマに料理をつくる日」(33,000円、サ込)です。
日本の醤油と味噌、鰹節、ニンニク、漬物などの発酵食品をフランス料理に見事取り入れたコースに仕上がっていました。
・ミシュランガイドで唯一のビブグルマン!? 「大人の洋食」を味わえるレストランはどこ?(東龍)/Yahoo!ニュース
「洋食ビストロ TŌYAMA」は、遠山忠芳氏がエグゼクティブシェフを務めるレストランで、ミシュランガイドのビブグルマンにも輝いた注目店です。
上柿元氏による発酵コースを詳しく紹介していきましょう。
アミューズ・ブーシュ
最初のアミューズ・ブーシュは3種類が提供されました。
新玉ねぎのムースキャビア添え
甘味のある新タマネギのムースの上には、グリーンピースのピューレとイタリアのキャビアがのせられています。全体を混ぜ合わせて食べると、まろやかな口当たりに。
黒豚のリエットシュー詰め
黒豚と野菜でつくられたリエットが、たっぷり詰め込まれたプティシューです。黒豚の旨味がギュッと閉じ込められています。
霧島産黒さつまどりの「こまんか」ボールの黒みそソース
黒サツマドリを用いたコロッケは熱々で、黒味噌のソースが合わせられていました。「こまんか」は鹿児島県の方言で「小さい」を意味しています。隠し味に、ちょっとだけヨーグルトをしのばせて爽やかに。
霧島サーモンのフュメと野菜のプロムナード
スモークサーモンと野菜の菜園風で、ミモザ風にして見た目も華やか。ダイコンのピクルス、グリーンアスパラガスにホワイトアスパラガス、スナップエンドウ、ドライトマトなど、野菜がたっぷりです。野菜のジュとフェンネルのゼリー、バルサミコ酢でさっぱりとしています。
阿久根産タカエビのスープ 枕崎産カツオ節をふんわりのせて
滋味がふんだんに詰まったタカエビのスープには、魚介のクネルが入れられています。上には、サクラエビとパルメザン・レッジャーノの佳味が凝縮されたチップ。エビの卵とアオサノリを散らし、上柿元氏が大使を務める枕崎の鰹節を仕上げに削りました。チップを崩してスープに混ぜて食べれば、テクスチャが豊かになります。
佐世保産イサキと青森県産黒にんにくのパイ皮包み焼き プロヴァンス風
佐世保産イサキの香り高いパイ包み焼き。58度くらいで3週間発酵させた黒ニンニク、火入れしたトマト、ふくみそ、ホウレンソウも詰められていて、食味が豊かになっています。アンチョビバターとチャツネでコクが深まっており、パイのサクサク感とイサキのふっくら感がよいコントラスト。魚の形をしたチュイルも可愛らしいです。
河内菌本舗の麹水グラニテでお口直し
内菌本舗麹水でつくられたグラニテと「あまおう」の組み合わせ。甘味と酸味のバランスがよく、口中をさっぱりさせてくれます。
鹿児島県産黒毛和牛のステーキとホホ肉のドーム仕立て 赤ワインソース 気仙沼の「もぜ」フカヒレを添えて
鹿児島県で「可愛い」を意味する「もぜ」。上柿元氏が「フカヒレを食べると元気になるので、牛肉と合わせました」と述べるように、山海の美味を享受できるメインディッシュです。
黒毛和牛のステーキにかけられているのは、フォン・ド・ヴォーとたっぷりのエシャロットの赤ワインソース。黒酢で煮たフカヒレには柚子胡椒が入れられており、片栗粉を加えた中華風ソースとの相性が抜群です。レタスの中には赤ワインで煮込んだ牛ホホ肉と山川漬けが包まれており、酸味のあるベアルネーズソースがぴったり。付け合わせは、リンゴとジャガイモのピューレ。
スペイン産ショコラブランの軽いガトー「カミーユ風」
長崎県にある上柿元氏のパティスリー「カミーユ」風にアレンジされたホワイトチョコレートのムース。中には味噌がしのばされています。添えられたライムとバジルのソルベが爽やか。
かわいい小菓子とコーヒー
最後は5種類の焼菓子とドリンク。無農薬紅茶クッキー、粒納豆入りのマドレーヌといった発酵食品も用いられています。
企画が持ち上がった経緯
素晴らしい発酵のフランス料理でしたが、どういった経緯で開催に至ったのでしょうか。
それは、「洋食ビストロ TŌYAMA」を運営するソルトグループの代表取締役である井上盛夫氏と上柿元氏が昨年知り合ったことに端を発します。2人とも発酵に関心があったことから、何かイベントを開催できないかと考え、2022年1月にイベントを開催することになりました。
しかし、コロナ禍の影響でイベントは流会。改めてスケジュールを調整して企画を仕切り直し、ようやく今回の開催に至ったのです。
上柿元氏は振り返ります。
「1月と5月では食材が全く異なります。そのため、以前決まったメニューを全て考え直して、今回のコースを創りました」
特にこだわったのが、タカエビのスープとイサキのパイ包み焼き。前者は日本料理の素晴らしい出汁やサクラエビ、鰹節をフランス料理に活かしたいと思って考案しました。後者は黒ニンニクを3週間も発酵させて、手間暇をかけています。
フランスのワインでペアリング
上柿元氏は料理だけではなく、ワインにも精通しています。
「私が好きということもあり、ブルゴーニュのワインを中心にペアリングしました。昔からお付き合いのあるワイナリーなどのワインを選んでいます」
最初のシャンパーニュ「ルイ・ロデレール コレクション 242」は新しくリリースされたヴィンテージ。その後には、ロワール地方の白ワイン、ブルゴーニュ地方の白ワインと赤ワインで、フランスワインを堪能できます。
今秋に再びイベントを開催
遠山氏は今回のイベントについて述べます。
「上柿元ムッシュは雲の上の方なので、イベントをさせていただけるのは奇跡です。料理は普段と違う特別メニューだったので、常連のお客様にも新鮮に感じていただけました」
上柿元氏は自身の料理について真摯に語ります。
「これまで自分の料理に満足したことはありませんね。今日より明日とより良いものを追求する日々です。常に自然の恵みに感謝し食材に失礼のないように努力しています。毎日が修業です。基本を大切に新しい発想を取り入れていきたいと思います。発酵を取り入れながら、料理で日本を元気にしていきたいと考えています。料理は愛情です」
上柿元氏による本格フレンチの発酵コースを、再び食べたいという声がたくさん上がっています。好評だったことを受けて、今秋もソルトグループのレストラン内でイベントが予定されているので、楽しみに待ちたいです。