Yahoo!ニュース

安倍外交を侮辱したのはイランなのか米国なのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(445)

水無月某日

 イランと米国の緊張緩和を図るため、日本の総理として41年ぶりにイランを訪問した安倍総理が、イランの最高指導者ハメネイ師と会談していた現地時間の13日午前、ホルムズ海峡で日本とノルウェイのタンカー2隻が何者かに攻撃され炎上した。

 米国のポンペイオ国務長官は13日の記者会見で、攻撃は背後にイランがいると断定し、「イランは安倍総理が緊張緩和を求めて歴史的な訪問をしている時に日本のタンカーを攻撃し、船員の命を脅かしたことで日本を侮辱した」と述べた。

 米中央軍は、イランの革命防衛隊のボートが攻撃された日本のタンカーに接近し、船体から不発機雷を取り除く様子を録画したと発表し、CNNによって放送された白黒の映像では、タンカーに接近したボートが何らかの作業をしている様子が映し出されていた。

 国連安全保障理事会は13日に米国の要請で緊急の非公開会合を開き、米国のコーエン大使代行は「攻撃はイランの犯行」と各国に伝達し、イランに交渉のテーブルにつくよう求めた。

 一方のイラン代表部は犯行を全面的に否定し、「米国が仕掛けた経済戦争、地域における軍事的存在感が地域の不安定の理由だ」として交渉に応じない姿勢を示す。そして「核合意から一方的に離脱した米国が交渉に戻ってくるよう要請するのは皮肉なことだ」と語った。

 イランと米国の仲介者としてイランを訪れた安倍総理の外交は不調に終わっただけでなく、顔に泥を塗られた挙句、湾岸地域に一触即発の危機が訪れたことで、中東の石油に頼る日本経済に深刻な影響を与えかねない事態となった。世耕経産大臣は「我が国のエネルギー供給に影響はない」と語ったが、今後の推移次第では影響が出てくることも考えられる。

 フーテンは前のブログで、G20の議長国である日本の安倍総理が、イランのロウハニ大統領を今月末の大阪会合に招待することに成功すれば、トランプ大統領との首脳会談をセットすることで「安倍外交」が世界的に評価され、その勢いで衆参ダブル選挙に持ち込む可能性もあると書いたが、安倍総理はそれどころではない状況に追い込まれた。

 ポンペイオ国務長官は「イランが安倍総理を侮辱した」と主張するが本当にそうなのか。タンカー攻撃の犯人がまだ分からないので結論を出すことは難しいが、であることは様々なケースを想定する事もできる。安倍外交を侮辱したのはイランか米国か、それを考えてみたい。

 事の発端はトランプ大統領の「イラン核合意離脱」である。トランプ大統領はオバマ大統領のやったことをすべて否定する立場だ。この二人は目的は同じなのだが、やり方が対照的である。目的は「世界の警察官」をやめる事でそれは二人に共通する。しかしやり方はリベラルとアンチリベラルに分かれる。

 オバマは核廃絶や人権尊重などリベラルなやり方で米国の世界一極支配を終わらせようとした。外交のやり方は宥和的であった。これに対しトランプは理想を排し実利だけの考えで「世界の警察官」をやめようとしている。クリントンとブッシュ(子)の政治がもたらした米国一極支配の負の遺産から米国を脱却させようとしているのである。

 オバマの宥和的な外交は相対的に米国の地位を低下させて中国の台頭を許した。オバマとは対照的な方法で米国の国力を増強したいと考えるトランプは、オバマが成し遂げた外交的成果をことごとく否定する。その流れの中で「イラン核合意」もトランプ流に書き直したい。

 トランプはイランと戦争したいわけではないが、イランには最大限の圧力をかけ、米国が優位に立つ状態で「核合意」を書き直したい。だから軍を派遣して戦争一歩手前の状況を作り出し、そこから交渉を模索する。相手に恐怖を与えてから交渉するヤクザの手口である。トランプは北朝鮮に対しても中国に対しても全てそのパターンだ。

 オバマの「イラン核合意」は米国と英仏中露独の5か国が作り上げた。そこに日本の名前はない。日本はイランと友好関係があるのに仲間に入れてもらえなかった。日本の外交力はその程度に見られている。なぜなら米国の言いなりだからだ。日本の言うことは米国と同じだから日本の主張は聞く必要がない。

 今回の安倍総理のイラン訪問は「トランプから頼まれた」との報道があるが、フーテンは疑問である。米国が日本の外交力など評価するはずはなく、おそらく安倍総理が自分を売込み、日本がオバマの「イラン核合意」のメンバーに入っていなかったことから、トランプが「やらせてみようか」となったと考えている。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2019年6月

税込550(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

田中良紹の最近の記事