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後発で配信参入したパラマウント「日本は難しい市場」 日本統括責任者に聞く独自戦略と勝機

武井保之ライター, 編集者
(C)2024 Paramount Global

ハリウッドメジャー映画スタジオの1社であるパラマウント・グローバルの配信サービス、パラマウントプラスが昨年12月に日本上陸した。ディズニーによるディズニープラス、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーによるHBO Maxに続く日本市場参入となったが、後発からどう巻き返していくのか。立ち上げを手がけてきた米パラマウントの日本におけるストリーミングビジネス統括責任者エリン・チャン氏に聞いた。

ディズニー、ユニバーサルに続く日本市場参入

市場拡大とともにシェア争いが厳しくなる動画配信サービス。日本ではNetflix、Amazonプライム、ディズニープラス、Huluなどグローバルプラットフォームのほか、U-NEXTをはじめとする国内サービスがしのぎを削っている。

(関連記事:配信ドラマ、地上波ドラマとは異なるゴールと課題とは ディズニープラスとHuluトップに聞く

ハリウッドメジャーからは、ディズニープラスが2020年6月にスタンドアローンの単独サービスとして日本上陸。続いて、HBO Maxが2021年4月よりU-NEXTを提携パートナーとするバンドルサービスとしてスタート。

それに続く3社目のサービスとなったのがパラマウントプラス。昨年12月からWOWOWオンデマンドおよびJ:COM STREAM内のバンドル形態でローンチし、今年4月からAmazonプライム内でもスタートした。

ちなみに日本未上陸のメジャー残り1社となるNBCユニバーサル(コムキャストグループ)によるPeacockの日本上陸は未定。昨年末にはパラマウントプラスとの統合の可能性がアメリカで報道されていた。

日本はローカルコンテンツが強い“難しい市場”

パラマウントプラスの前身は、2014年にスタートしたCBS All Access。2021年2月よりパラマウントプラスとして本格的なグローバル展開をスタート。現在は45カ国でサービス提供し、加入者数は675万人(24年5月現在)と順調に拡大。しかし、Netflixの2億6000万人、ディズニー+の1億4000万人からは大きく水を開けられている。

ただし、パラマウントプラスは日本やフランスをはじめ、単独サービスではなく提携パートナーとのバンドルでサービス提供している国がいくつもあるため、会員数の単純な比較はできない。

そうしたなか後発となった日本市場の参入も、スタンドアローンではなく、バンドルとなった。その背景をエリン氏は「日本は難しい市場」と語る。

「世界でTOP10に入る市場であり、特に世界最大規模のアメリカや中国を除くと最大かつ魅力的なマーケットのひとつであるのと同時に、とても難しい市場でもあります。

アニメやドラマなどクオリティの高いローカルコンテンツが豊富にあり、そうしたコンテンツの人気が圧倒的に高い市場だからです。加えて、加入する前に他社サービスを含めてすごく調べてから入会します。

一方、一度コミットするとロイヤルカスタマーになり、解約率は低いのが日本人の特徴です。

もちろん欧米の大作シリーズや海外ドラマなどのファンは一定数いますが、それがコアファン層に留まり、なかなか一般層に広がる人気を得にくい」

そんな市場への後発参入における勝機をどこに見出しているのか。

「日本は世界中で見ても競争が激しいマーケットであり、どのような形で参入するのがベストか検討を重ねて準備してきたため、時間がかかりました。結果、スタンドアローンでゼロから加入者を募るのではなく、ローカルの強いパートナーとの提携から、そのユーザーへのアクセスをベースにロケットスタートする方針になりました」

「我々にはまだ日本に入ってきていない良質なコンテンツが数多くありますので、それを持ってきてファンを広げていくことをいまはじめています」

提携パートナーを増やすことでユーザーの裾野を拡大

エリン氏は日本市場はまだ伸びしろがあるとするが、HBO Maxに続くパラマウントプラスのバンドル形態でのローンチからは、競合サービスがひしめくなかでのスタンドアローンの新規サービス展開が難しくなっていることがうかがえる。

そんななかパラマウントプラスは、提携パートナーを増やしていくことでアプローチするユーザー層の裾野を広げ、ロイヤリティの高いコアファンの開拓を狙う。それは飽和状態に近い市場において、合理的かつ効率的な進出形態になるだろう。

「しばらくは3つのサービスのみになりますが、長期的なスパンで見れば、さらに増やしてくことも視野に入れています。まずは現在の提携パートナーとの関係値を深め、サービスとしての充実や質の向上、ユーザーの拡大と利益率の改善を最優先にしていきます」

エンターテインメント視聴環境の変化が追い風になるか

この先のスタンドアローンでのローンチについて聞くと、「将来的なシナリオとしては考えていないわけではありませんが、いま現在、具体的な計画はありません」(エリン氏)とする。

パラマウントプラスの強みは、110年の歴史と伝統を誇るハリウッドスタジオの作品群だ。そのなかには『ゴッドファーザー』や『スター・トレック』『インディ・ジョーンズ』『ミッション・インポッシブル』『トップガン』など世界的人気の大ヒットシリーズも多く含まれる。

この先の日本市場でのシェア拡大のための戦略と課題を聞くとこう答える。

「サービス認知とシェアの拡大には、コンテンツしかない。マーケットの競争が激しいなか、本国から日本へコンテンツを持ってくるスピードをより速くしていかないといけないと感じています。コンテンツ数を増やしていくうえでスピードをより重視しています」

動画配信サービスの普及により、日本でも国内の地上波ドラマだけでなく、世界中のドラマを視聴する習慣が根づきはじめているなか、ドラマや映画をはじめとした日本未上陸の良質なコンテンツを多く有するパラマウントプラスには、時代の流れとともに大きく成長するポテンシャルを感じさせる。エンターテインメント視聴環境とユーザーのエンタメライフスタイルの変化が追い風になっていく可能性はあるだろう。

現在はローカルコンテンツの制作予定はないとするが、将来的には他グローバルプラットフォームのような日本オリジナルドラマ制作への参入も十分考えられる。市場競争が激しくなるのは、ユーザーにとっては喜ばしいことだ。これからの動向に期待したい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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