美しく幕を閉じた『海に眠るダイヤモンド』 「M-1」の裏は端島の人生讃歌に相応しいラストの舞台だった
放送開始当初から壮大なスケールの物語と映像美で話題になった『海に眠るダイヤモンド』の最終話。70年にわたる「戦後の端島」と「現代の東京」に生きる登場人物たちの生涯を描く人生讃歌は、美しく儚く幕を閉じた。
時を超えて残るのは自然と語り継がれる人の記憶
鉄平(神木隆之介)が不本意に端島を離れ、生涯会うことが叶わない朝子(杉咲花)に残したのは、修行して自ら作ったギヤマンではなかった。かつて朝子が鉱員住宅の屋上に植えたいと言っていたコスモスを、端島が一望できる長崎の家の庭に植えた。それをいづみ(宮本信子)は目にすることができた。
鉄平と朝子の恋のはじまりの色ガラスの瓶と、鉄平が端島を離れてから朝子のために作ったギヤマン(ガラス細工の瓶)。それは2人の恋の象徴であったが、物語の最後に残すアイテムではなかった。
いつか人は死に、ものは廃れる。残るのは、花や緑などの自然と、語り継がれる人の記憶だ。
端島の登場人物のなかで現在も生きているのは、いづみだけだった(子どもたちは除く)。70年の間に、百合子(土屋太鳳)も賢将(清水尋也)も鉄平も亡くなっている。
現代の端島の風景と、そこに降り立ったいづみと玲央(神木/二役)の姿は、このドラマが伝えようとしていることを映していた。
一方、玲央の出自は描かれなかった。うり二つの鉄平との関係はどうでもいいことなのだろう。いづみにとって鉄平にそっくりだった彼は、端島の記憶を受け継ぎ、次世代に残していく役割を担う。
そこに血縁など特別なつながりは必要ない。人と人が偶然出会ってそこから生まれる縁によって、人生はつながっていく。それは鉄平の兄・進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)の縁もそうだ。そこからすべてがつながっていったのだ。
「M-1」の裏も計算された演出か
最終話の2時間は、それまでのさまざまな出来事が、ひとつの最終地点へ向かって一気に走り抜けた。一つひとつのエピソードが線でつながり、現代の鉄平の消息にどんどん迫っていく。そして、ラストはリアルでファンタジックな美しいシーンだった。
まるで1年間見続けた大河ドラマの最終話のような、近年稀に見る充実した濃い内容のラスト2時間だった。
もしこの2時間が『M-1グランプリ』の裏でなかったら。1時間ごとの2週に分かれて最終話を迎えていたら。最終話は今年いちばんの話題になっていたのではないか。そんなことも思わされた。
しかし、それは間違っていた。
『M-1グランプリ』という現代のもっとも華やかなエンターテインメントショーの裏で、その美しい物語の幕を静かに閉じるのは、かつて繁栄を誇り、いまは廃墟の無人島となり自然に囲まれる端島に相応しい終わらせ方なのかもしれない。
日本一の漫才師が決定する、1年でもっともお笑い界が盛り上がるこの日のこの時間帯だからこそ、その裏で綴られた物語から視聴者が得られた感傷がある。
制作陣はいまの日本エンターテインメントシーンのトップクリエイターたちだ。おそらくそこまでを演出として計算し尽くしたエンターテインメントだったのだろう。
リアルタイムで視聴してこそ最大限楽しめる、すべてにおいてすばらしいテレビドラマだった。