保育管理下の窒息 その1〜玩具による窒息を減らすには #こどもをまもる
2024年6月14日、徳島県の保育施設で当時1歳だった男児が積み木をのどに詰まらせ、警察が園長や保育士ら8人を業務上過失傷害の疑いで書類送検したというニュースがあった。
この事故は、1年半前の2022年12月5日に起こっていた。ニュースでは、のどに詰まらせたものと同型の積み木のおもちゃの写真も載っていた。この木製のおもちゃは直径約2.5cm、高さは約3cmの円柱状のもので、つかまり立ちができるこどもであれば手が届く高さの棚に置かれていた。現在、男児は低酸素性脳症のため意思疎通ができないと報じられていた。
時系列で振り返ってみると
このニュースを聞いて、違和感を覚えた。重傷度が高い事故が起こってから1年半も経ってからのニュースで、遅すぎると思ったのだ。2016年4月から、保育管理下の事故で、意識障害がある場合には、遅くとも1週間以内に国に報告することが義務付けられている。なぜ、今回のニュースが出るまで、われわれが知ることができなかったのかについて、事故が起こってからの経緯を調べてみた。
◆ 2004年 保育施設がこの積み木を購入。
◆ 2022年12月5日 誤嚥による窒息事故が発生。
◆ 同年12月9日まで 保育施設から徳島県へ、徳島県から国へ、本事故について報告。
◆ 2024年3月21日 教育・保育施設における重大事故データベースに、本件の初回掲載(掲載まで1年4ヶ月が経過)。
◆ 2024年6月14日 当該保育施設の関係者が業務上過失傷害の疑いで書類送検された。
これまでにわかっていること
このイチゴの玩具はマジックテープで2つに分離できるようになっており、その片方(イチゴの先端部分)を飲み込み、それが咽頭の上部に嵌入して窒息した。飲み込んだものは、中心部の直径が35mm、幅は30mmで、今回の事例の玩具の大きさとほぼ同じであった。
他にも玩具による窒息の報告がある。
今回の報道からわかっていること
・0歳児クラスの安全点検に、誤嚥する恐れのあるおもちゃに関するチェック項目がなかった。
・積み木は0歳児用の市販品で、施設内の棚に置かれ、園児が自由に手に取って遊べるようになっていた。
教育・保育施設等における事故情報データベースからわかること
・積み木は2004年に購入したものを使っていた。
・事故予防研修は年に2回実施していた。
・玩具の安全点検は月に1回実施していた。
・0歳児クラスの安全点検に誤嚥する恐れのあるおもちゃに関するチェック項目はなかった。
湧き上がる疑問
上記の情報から、いくつかの疑問が湧き上がってきた。
1 2004年に購入したこの積み木のサイズ(長さ3cm、直径2.5cm)は、現在の基準では0歳児用とすることはないはずだが、2004年当時は「0歳児対象」として販売されていたのか?
2 事故の発生から重大事故データベース上への公開までに1年4ヶ月かかっているが、それはなぜか?こどもの事故は、同じ事故が起こり続ける。今回の件がもっと早く公表されていれば、保育関係者はそれぞれの施設で玩具の見直しを行うことができ、この積み木を作ったメーカーはその時点で積み木の安全性について検討し、リコールをすることができたのではないか。また、他のメーカーも、販売している積み木の形状を見直すことができ、一般家庭の保護者も、自宅の玩具をチェックする機会になったのではないか。
3 この保育施設では、「事故予防研修は年に2回実施」しており、「玩具の安全点検は月に1回実施」していたとのことだが、「0歳児クラスの玩具安全点検に、誤嚥する恐れのあるおもちゃに関するチェック項目」はなく、現実に重大な事故が発生している。研修や点検は機能していないのではないか。
4 今回のニュースによると、現場関係者に刑事責任があると判断されたようだが、それで事故の再発予防につながるのだろうか。今回は保育施設の園長ら関係者だけが送検され、この積み木を製造・販売したメーカー、またこの積み木が「0歳児対象」として市場に流通することを容認(あるいは黙認)していた国、そして保育施設の安全管理体制の不備を見逃した自治体の責任は問われていない。保育施設側の「玩具購入時の安全点検が不十分」「0歳児の手が届くところに積み木を置いていた」という過失はあるが、「人は誰でも間違える」と考えることが事故予防の原則ではないか。
必要なことは何か?
関係者を処罰するだけでは、同様の事故を防ぐことはできない。上記の疑問に対して行うべきことを挙げてみた。
1 製品の大きさのチェック
日本人の3歳児の最大開口口径と、レントゲンの写真からのどの奥までの距離を朝日大学の田村 康夫先生に計測していただき、この値をもとに、2001年頃、3歳児の口腔モデルを作って「誤飲チェッカー」と名付けた。今回の事例の積み木も、乳幼児の口に入る大きさであった。元の大きさが誤飲チェッカーに入らないものでも、製品を分解することができ、それが乳幼児の口に入る大きさになるものについては特に注意が必要である。保育の場にある玩具について、乳幼児が誤飲可能な大きさかどうかをチェックする必要がある。できれば、一般家庭でも玩具をチェックすることが望ましい。
2 製品の危険性の周知
保育現場に対し、乳幼児用玩具の安全基準を示し、以前からある玩具の取り扱いや、個人が作るおもちゃの危険性についても周知する必要がある。今回、この玩具の危険性が大きく報道されたのは、事故が起こってから1年半も経った時点であった。発生状況から、いわゆる犯罪である可能性は低い。警察の取り調べが確定してから広報するのではなく、事故が起こってすぐに詳細について報道するべきであった。その時、この玩具の写真も示すとよい。メディアは、この玩具を製作・販売したメーカーに具体的な対応について問い合わせ、日本玩具協会や国の対応についても取材して、その結果を報道すべきである。
3 保育事故データ検討委員会の設置
保育管理下で重傷事故が起これば、保育施設から都道府県へ、そして国へ報告が行われることとなっている。今回のケースでは、国はデータベースに載せただけで、予防策については何も検討していない。死亡事故に関しては、各自治体で検証委員会が設置され、その報告書が国に報告されているが、死亡例以外は保育事故データベースに載せるだけで、詳しい分析は行われていない。国は、それぞれの事故の専門家を任命して保育事故データ検討委員会を設置し、1〜2か月ごとにデータベースに報告された事例を検討し、具体的な対策を公表して、保育事故データベースを活用する必要がある。
4 データベースに記入する事故予防研修や安全点検欄の削除
保育事故データベースによれば、今回事故が起きた保育施設では事故予防研修や安全点検が定期的に行われていたとされているが、窒息の予防にはつながっていなかった。安全点検と一口に言っても、点検項目はたくさんあり、データベース用の項目に「〇」をすれば安全が確保できるわけではない。このような抽象的で役に立たない質問項目は削除すべきである。乳幼児の窒息を予防しようとするなら、「誤飲チェッカーのような器具を使って、玩具の大きさをチェックしていますか?」のような具体的な質問にすべきである。
おわりに
窒息は重傷度が高い事故である。今回、保育関係者が業務上過失傷害で起訴されたというニュースで、玩具による窒息事故が起こっていたことを知った。これまでわが国では、事故が起こったそばにいた人の責任を問うことだけが行われてきたが、それでは次の事故の予防にはつながらない。予防につなげるためには、何が原因で、どうすれば再発を予防できるのかについて科学的に検討し、製品や環境を変える必要がある。
-------------------
「#こどもをまもる」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。
子どもの安全を守るために、大人ができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。
特集ページ「子どもをめぐる課題」(Yahoo!ニュース)
------------------