ジュニアシートの重要性〜小学6年生との対話 #こどもをまもる
2024年8月18日、福岡県で母親が運転する軽自動車がバスに衝突し、この自動車の後部座席に乗っていた7歳と5歳の姉妹が亡くなった。
福岡 幼い姉妹死亡の事故 “シートベルトで腹部を強く圧迫か”
2024年8月21日 (NHK NEWS WEB)
姉妹はシートベルトを使用していたが、衝突時にこのシートベルトが腹部を強く圧迫したことが原因で死亡したと見られている。本来は両側の骨盤骨にかけて固定するべきベルトが腹部にかかっていたため、強い衝撃によって腹部の臓器がベルトと脊椎骨の間に挟まれ、脾臓や肝臓が破裂したものと思われる。
小学6年生からの質問
この事故の後、知人から以下のような相談があった。
福岡で7歳と5歳の姉妹が亡くなった事故のニュースを見て以来、娘がしきりとシートベルトの位置を気にしています。娘は身長149cmで、背もたれのないタイプのジュニアシートに座り、シートベルトを使用しています。「シートベルト、この位置で大丈夫?お腹にかかっていない?」と度々尋ねるので、「鎖骨と左右の腰骨の上にかかっているので大丈夫」と説明したのですが、「シートベルトが心臓の上にかかっているけど、これは大丈夫?」と聞きます。
また、「こういう事故が起こったことと、事故の原因を、日本中のこども達に知らせた方がいいね。外国の人にも知ってもらった方がいいね」と言っています。先生、Yahoo!ニュースに書いていただけないでしょうか?
小学6年生との対話
この話を聞いて、小学生にもわかるような説明や教材が必要であると思った。以下、チャイルドシートやジュニアシートの課題について、実際に小学生と対話した内容をもとに説明してみたい。
小学生)福岡の事故のニュースを見て、ショックを受けました。私は今、小学6年生で、ジュニアシートに座ってシートベルトを使っていますが、自分のシートベルトの使い方が正しいかどうか不安です。シートベルトが心臓の上にかかっていることも心配です。
筆者)そうだね。あの事故についてはこどもだけでなく、日本中のおとなもショックを受けたと思うよ。最初に見たニュースでは、事故直後に現場に駆けつけた人が「姉妹はちゃんとシートベルトをしていた」と話していたので、「あれ?」と思った。その時点では、姉妹が自動車の座席にそのまま座っていたのか、それともジュニアシートに座っていたのかがわからなかったけれど、もし直接座席に座ってシートベルトをしていたとしたら、これは危ないな、と思ったんだ。
小学生)どうして「危ないな」と思ったのですか?
筆者)シートベルトは、身長が140cm以上の人を想定して設計されているんだよ。今回亡くなった姉妹は7歳と5歳なので、おそらく二人とも140cmに満たないよね。そういう人がシートベルトを使うと、本来は鎖骨(腕、肩、胸をつなぎ合わせている骨。首の下あたりの左右にある)にかけるべきベルトが首にかかってしまったり、腰の骨にかけるべきベルトがお腹にかかってしまったりするんだ。
小学生)首やお腹にかかるとどうなるのですか?
筆者)シートベルトは、自動車が衝突した時に人が自動車から飛び出してしまわないよう、とても強い力で人の身体を押さえるんだ。ベルトが鎖骨や腰骨に正しくかかっていれば、たとえ強い力で押さえられたとしてもベルトが身体に食い込むことはないけれど、首にかかった状態で強い衝撃を受けると、首が締めつけられて窒息してしまうことがある。
お腹にベルトがかかっていると、内臓はベルトと脊椎骨(背骨)の間に挟まれてしまう。お腹は薄い皮下脂肪や筋肉に覆われているだけなので、強い力は内臓(肝臓、脾臓、膵臓、腎臓など)に直接到達してしまうんだ。お肉屋さんでレバー(肝臓)を見たことがあるかな?
小学生)はい、あります。ぷよぷよしてやわらかそうでした。
筆者)そうだね。肝臓や脾臓は硬めのお豆腐くらいのやわらかい臓器で、強い力がかかると裂けて出血してしまい、時には大量の出血のために死亡してしまうんだ。
自動車乗車中だけでなく、肝臓などが破裂する事故は他にもある。水筒を斜め掛けにして走っていたところ、つまづいて前方に転び、掛けていた水筒が前方に移動して、水筒がこどものお腹に強くぶつかり内臓出血をしたということもあるし、自転車に乗っていて転倒し、自転車のハンドルの握り手の部分がお腹に強く当たって内臓出血したということもある。窒息した時、腹部を突き上げるハイムリッヒ法という救命処置があるけれど、0歳児ではその方法を行ってはいけない。それは、赤ちゃんの内臓損傷を避けるためなんだよ。
小学生)えー、水筒でも自転車でもそんなことが起きるんですね!私の場合、シートベルトがちょうど心臓の上を通っているのですが、それは大丈夫ですか?
筆者)肺や心臓は、胸郭を形成している骨(肋骨)で守られているから大丈夫だよ。
小学生)よかった!安心しました。
筆者)日本では、法律で「6歳未満のこどもはチャイルドシートを使用する」ということは決まっているけれど、6歳以上のこどもが使用すべきジュニアシートの重要性や、使い方によってはシートベルトが危険になるということはあまり注目されてこなかった。
小学生)そうなんですね。では、6歳以上で、身長が140cmになっていないこどもはどうすればいいんですか?
筆者)そうだよね。「6歳以上で身長が140cm以下」のこどもは、身長に合ったジュニアシートを使用する必要がある。ジュニアシートは、自動車のシートベルトがこどもの身体に正しくフィットするように使うものなんだ。ジュニアシートには背もたれのあるタイプと背もたれのないブースターシートがあるけれど、身長が120〜130cmまでは背もたれのあるタイプ、130cm以上になったらブースターシートを使うようにするといいね。
小学生)私は今、身長149cmなので、ブースターシートを使っていますが、それは正しいのですね。
筆者)そうだね。さっきも言ったように「6歳未満のこどもはチャイルドシートを使用する」という法律はあるけれど、それ以外のことは法律では決まっていない。だから「6歳になったらチャイルドシートは卒業で、おとなと同じようにシートベルトを使えばよい」と考えている人がたくさんいるんだ。ジュニアシートの重要性があまり知られていないんだね。
小学生)実際にシートベルトでケガをしたり、亡くなったりしているこどもがいるのに、ですか?
筆者)そうなんだ。警察による取り締まりも行われていないんだよ。おとなもこどももすべての人が身長や体格に合ったシートベルトやチャイルドシート、ジュニアシートを使用する、ということを、きちんと決める必要があるね。
小学生)ジュニアシートが必要だ、ということは、とても大事なことなので多くの人に知ってもらいたいですが、何かわかりやすい資料はないですか?
筆者)JAF(日本自動車連盟)がいろいろな資料を公開しているよ。たとえばこの「ジュニアシートを使わないリスク」は小学生のみんなにもわかりやすいと思う。それから、ジュニアシートを使った場合、使わない場合の実験動画もあるから、一緒に見てみよう。
小学生)わー、こんなふうになってしまうんですね!怖〜い。でも、私は6年生だからこれが実験だということも、ジュニアシートが必要だということもわかるけど、弟は1年生なので、この動画はちょっと難しくて、よくわからないかもしれません。アニメになっているといいなぁ。
筆者)そうだね。1年生にもわかるようなアニメがあるといいね。
小学生)そうしたら学校でみんなで見られると思います。
小学生向けの教材開発の必要性
今回の事故を受けて、JAFがすぐに「シートベルトの使用の推奨を、身長140cmから150cmに変更する」と発表したことは高く評価したい。ただ、この変更について、そしてジュニアシートの重要性について、小学生を持つ保護者をはじめとした多くの人に知ってもらわなければ意味がない。国は自動車乗車時のこどもの拘束方法や制度についてあらためて検討し、道路交通法の改正を視野に入れた取り組みを進める必要がある。
一方、小学1年生にもわかるような動画や資料を制作し、学校教育の場で活用できるようにしてもらいたい。保護者の意識や関心によって、こどもの安全が左右されることがあってはならない。
また、自治体においては、誰もが大きな負担なくチャイルドシートやジュニアシートといった拘束具が購入できるよう、助成制度の検討を進めてもらいたいと考える。
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