アイスランドの無愛想じいちゃん、亡き妻の不倫発覚にどう向き合う?北欧映画
2019年にリリースされた北欧映画の中で、最高傑作のひとつとして話題となった『ホワイト、ホワイト・デイ』。私個人的にも、トップファイブに入る作品だった。アイスランド、デンマーク、スウェーデン共作(109分)
突然、交通事故で亡くなった妻を思い、まだ自分の感情と向き合えていない男性。ある日、彼女が浮気をしていたことを知る。
私はノルウェーの映画館で鑑賞。北欧理事会が授与する映画賞では各国から5作品がノミネートされており、その1本が本作だった。どれも素晴らしい作品だ。本作以外はすでに過去記事で紹介しているので、記事文末を参考に。
亡き妻の死と不倫の疑惑に、当惑するインギムンドゥル。映画を鑑賞中、客席からは何度も笑い声が響いた。
インギムンドゥルと周囲の男性たちは、典型的な北欧の男たちともいえるかもしれない。
無口で、自分の感情をあまり外に出さず、ひとりで悩みを解決しようとする。
男の役割は、家や家族を守り、強くあること。心の中で小さな嵐が起こっていても、周囲に相談せず、酒を飲んだり、スポーツをしたりする。広大な自然の中に、自分の弱い部分は隠そうとする。
泣いているところなんて、絶対に見せやしない。
そんな男性像と、彼の周囲の男たちとの友情や対立、コミュニケーションは、笑いを誘う。
観客が笑うのは、それが彼らの日常生活で確かに存在するものだからだ。
男性たちが守ろうとしてるものは、家族と名誉がある「家」の中にある。作品中で、建築物として家がどのような役割を担っているか、考えながら見るのもおもしろい。
そういえば、北欧の男性像をうまく描いた本作を見ていると、ノルウェー映画『Out of Nature 』(Mot naturen, 2014)を思い出す。あれも良作だった。
頑固なインギムンドゥルには、かわいい孫娘がいる。仲良しの2人のやり取りには、思わず微笑みを浮かばずにはいられない。孫娘を演じるのは、フリーヌル・パルマソン監督の実の娘であるIda Mekkin Hlynsdottir。彼女の名演技からも目が離せない。
ノルウェーでの公開日にはインギムンドゥルを演じるアイスランド人俳優、イングヴァール・シグルドソン氏が登場し、映画の裏話を語った。
「映画に出演できて、私は幸運でした。パルマソン監督は、台本に取り掛かっている間も、思いついたアイデアや音楽を私に送ってきたんです。撮影が始まる時には、私はなんの心配もなく挑めました。よく働く監督ですよ。彼は、私が演技で奮闘するのを見るのが好きなようだ」
「孫を演じたイーダは、まるで奇跡のような子です。収録が始まる前に偶然会ったことがあり、『あなたが、わたしのおじいちゃん役の人ね!』って、話しかけてきたんです。撮影中も『私、たまにパパが嫌になるの、女優になんてなりたくないわ』と言って、笑わせてくれましたよ」
「インギムンドゥルは、自分の感情にどう対処していいのか分かっていない男です。良き妻と家を守るのが、自分の仕事だと思っている。彼は彼なりの昔風のやり方で、たくさんの愛情を見せているんですよ」
「この映画にずっといるのは、亡くなった妻です。インギムンドゥルは妻の行動を理解するために、彼なりの旅をする必要がありました」
「アイスランド映画はどんどん良くなってきていると思います。私も俳優として、進化していきたいですね!」
北欧理事会 映画賞2019ノミネート作品
最優秀作品はデンマークの『クィーン・オブ・ハーツ』
『Dronningen (Queen of Hearts) 』デンマーク
『Aurora』 フィンランド
『Hvitur, hvitur dagur (A White, White Day)』 アイスランド
『Blindsone (Blind Spot)』 ノルウェー
『Rekonstruktion Utoya (Reconstructing Utoya)』 スウェーデン
『クィーン・オブ・ハーツ』と『ホワイト、ホワイト・デイ』は、トーキョーノーザンライツフェスティバル 2020で上映予定
2月8~14日 ユーロスペース、アップリンク渋谷
Photo&Text: Asaki Abumi