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感染症の拡大にも影響が。長引く「薬不足」その原因と対策を考える #専門家のまとめ

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 薬の不足が長引いています。コロナ禍を挟んだこの数年、医療現場や薬局などで薬不足が続いています。これは日本独自の問題なのでしょうか。その原因と対策を考えました。

 医療分野でお薬は重要です。しかし、後発薬(ジェネリック)を含むお薬不足が大きな社会問題になっています。この夏、新型コロナやその他の感染症が流行し、解熱鎮痛薬などが不足するケースも増えています。なぜ、お薬不足が常態化してしまっているのでしょうか。

ココがポイント

▼後発薬の薬価と国際的な供給体制の問題も

なぜ 長引く“薬不足” 解消しない供給不安の謎に迫る(NHK、2024/06/18)

▼新型コロナやインフルエンザ、手足口病など複数の感染症が増えたことも理由

コロナ急増で薬が足りない! 変異株「KP.3」が猛威、猛暑で免疫低下「ドミノ感染」も(テレ朝news、2024/07/27)

▼国内製薬メーカーの構造的な問題があり、政府行政の支援や対策が必要

後発薬の不足、少量多品目生産の構造見直せ(読売新聞、2024/07/29)

エキスパートの補足・見解

 薬不足が長引いている原因には、複雑な要因が絡み合っているようです。この問題の発端には、2018年の夏頃に明らかになった国際的なニトロソアミン問題、国内においては2020年から多発した後発薬の品質不正などの問題などが起きたことで、薬剤メーカーが行政処分を受けて供給量が減ったことがあります。

 また、特に米国に次いで世界2位になった中国の医薬品の消費量の激増、中国が環境保護規制を強化した影響による中国製原薬の価格高騰など、中国やインドなどの原料生産国からの調達量の減少といった国際的な供給システムの問題などが背景にあります。

 さらに、お薬の価格の問題もあるようです。お薬の価格、つまり薬価は市場の実態に合わせて毎年、改定されることで年々、下げられてきました。

 しかし、新薬に比べて薬価に占める原材料費の割合が高い後発薬では不採算のお薬も多いようです。原材料費を含めたコスト競争により特定の供給国に依存することで製造が安定しないこともあり、中小の多い後発薬の製薬メーカーは利益優先でお薬を作らざるを得ない状況があります。

 価格競争が起きやすい状態になっているとの指摘もあり、お薬の価格が価格競争で安くなることで、医療機関や薬局薬店が薬価より安いお薬を購入する薬価差益という問題もあり、お薬の過不足に関する状況が不可視化されて情報が共有されないため、市場在庫に大きな偏りが生じていることも大きいでしょう。

 また、高齢化が進む中、在宅医療などで生じる残薬、飲み忘れたり、過剰に処方されたりして飲まれなくなったお薬の問題もあります。高齢者は複数の医療機関を受診することも多く、重複して処方されるお薬も多く、自宅に残ったお薬も多くなるというわけです。

 こうしたお薬の供給不足問題は、日本に限ったことではなく米国やヨーロッパ各国でも起きています。薬価の問題以外では日本と同様、国際的な供給の不安定化と供給システムの不可視化、後発薬の製薬メーカーの経営事情などがあります。

 日本でのお薬不足のためには、まず行政が薬価などの制度を見直すなどの施策とともに原材料を含む国際的なお薬の供給システムの構築が必要でしょう。そのためには原材料供給国や医薬品消費量の多い各国間の連携が重要となります。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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