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「ストレスを受けやすい人は共感力の強い人」でもある。「HSP人材」の重要性とは。大阪大学の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 人は多種多様なパーソナリティを持つが、特に環境刺激に対して敏感に反応しやすい人がいる。いわゆる「HSP(Highly Sensitive person、繊細さん、以下HSP)」と呼ばれるような人だが、大阪大学の研究グループは日本の企業で働くHSPを調べ、その割合や職場におけるそのサポートの重要性について発表した。

HSPとは何か

 同じストレス環境でも強い影響を受けてしまう人もいればそうでない人もいるし、同じ映画やドラマを観ても強く感動する人もいればそうでない人もいる。刺激を受けることが好きな人もいれば平穏な状態が好きな人もいるし、静かな環境が好きな人もいれば賑やかな環境を好む人もいる。

 こうした個人差の尺度にHSPがある。HSPは1996年に米国の心理学者、エレイン・N・アロンが提唱した概念で、間隔処理感受性(SPS=Sensory-Processing Sensitivity)が高い人のことだ(※1)。この心理学的な気質は生まれながらのもので、人種や環境などに影響されないと考えられ、精神的な疾患ではない(※2)。

 アロンによれば人口の15%から20%ほどがHSPだ。また、HSPの人はものごとをより深く考え(Depth of processing)、環境刺激に敏感で(Overstimulated)共感力や反応力が高い(Sensitivity to subtleties、Emotional reactivity and high empathy)。

 アロンはHSPに関し、HSPかどうかの特性を調べる27項目のチェックリスト(Highly Sensitive person Scale=HSPS)を開発した。これは日本語版(HSPS-J19)もあり(※3)、日本語のチェックリストの妥当性も報告されている(※4)。

職場でのHSPを理解する

 これまでHSPの研究は児童や青少年についてのものが多くあったが、勤労者についての研究も始められている(※5)。同じ職場環境でもHSPかどうかで健康への影響が異なってくるため、病気の予防や治療に役立てられる可能性があるためだ(※6)。

 大阪大学の研究グループ(※7)は、環境刺激に対して敏感に反応しやすいHSPについて、日本の企業で働く人を対象に調査を行い、HSPが職場で比較的、ストレスを感じやすい傾向のあること、その一方で同僚に共感しやすいという仕事や人間関係で有利に働く側面を持つことを明らかにし、その結果を心理学雑誌で発表した(※8)。

 職場でストレスを受けやすい人がいた場合、そうでない人はその人を単に神経質なだけ、悲観的なだけと思いがちだ。だが、HSPというパーソナリティについて理解できれば、そうした人をサポートし、仕事がしやすい環境を整えることができる。

 職場でのHSPについてこれまで、ストレスを感じやすく他人の気分に左右されやすい、疎外感を受けやすいなどのネガティブなものが多かった。だが、同研究グループはHSPのポジティブな側面にも焦点を当て、日本国内の企業に勤務している18歳から81歳までの296人を対象にHSP特性と職場でのストレスの関係を調べた。

 その結果、調査参加者の約26%がHSP特性が高く、HSPに特有な楽観性や悲観性を考慮してもHSP特性の高い人ほど疎外されていると感じやすくストレスを感じやすい傾向があることがわかった。

 そして、HSP特性の高い人ほど同僚などの他者に対して共感しやすいことが示唆されたという。同研究グループは、HSPの共感力の高さは協調して仕事を進めるような場面で職場でポジティブに作用する点と強調している。

HSP特性が高いほどストレスを感じやすく、他者に共感しやすい傾向があることがわかった。大阪大学のリリースより
HSP特性が高いほどストレスを感じやすく、他者に共感しやすい傾向があることがわかった。大阪大学のリリースより

 職場で強いストレスや疎外感を受ければ、会社への不満や早期離職などにつながりかねない。ストレスの感じ方は個々人によって異なり、その人に合ったサポートが必要だ。

 感受性が強く共感力の高い傾向があるHSPは、職場で一緒に仕事をしたり雰囲気のいい環境を作る上で欠かせない存在だ。社員の4人に1人いればかなりの割合であり、企業にとっても重要な役割を果たしている。そのため、HSPの特性を理解することで、経営に好影響をおよぼす可能性がある。

 同研究グループは、働く人のHSP特性を調べることなどによって、ストレスを感じやすい人を理解し、HSPが求めるサポートを考えることで、よりよい職場環境デザインの構築に役立つと期待している。

※1-1:Elaine N. Aron, Arthur Aron, "Sensory-Processing Sensitivity and Its Relation to Introversion and Emotionality" Journal of Personality and Social Psychology, Vol.73, No.2, 345-368, 1997

※1-2:Monika Paryla-Matejczuk, et al., "Theoretical backgraound of high sensitivity - systematic review" Prizeglad Psychologiczny, Tom.65, Nr.3, 79-96, 29, December, 2022

※2:Andrew K. May, et al., "A psychometric evaluation of the Highly Sensitive Person Scale in ethnically and culturally heterogeneous South African samples" Current Psychology, Vol.41, 4760-4774, 6, August, 2020

※3:髙橋亜希、「Highly Sensitive person Scale 日本版(HSPS-J19)の作成」、感情心理学研究、第23巻、第2号、68-77、2016

※4:Shuhei Iimura, et al., "Environmental Sensitivity in Adults: Psychometoric Properties of the Japanese Version of the Highly Sensitive Person Scale 10-Item Version" Journal of Personality Assessment, Vol.105(1), 87-99, January-February, 2023

※5:Arne Evers, et al., "High sensory-processing sensitivity at work" International Journal of Stress Management, Vol.15(2), 189-198, 2008

※6:Grant Benham, "The Highly Sensitive Person: Stress and physical symptom reports" Personality and Individual Differences, Vol.40, Issue7, 1433-1440, May, 2006

※7:大阪大学国際教育交流センターの井奥智大特任助教(常勤)、大阪大学大学院人間科学研究科の綿村英一郎准教授

※8:井奥智大、綿村英一郎、「企業で働くHighly Sensitive personはストレスを感じ、共感しやすいか」、Japanese Journal of Applied Psychology, Vol.50, No.1, 11-20, 31, July, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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