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「加熱式タバコへの増税」は「喫煙率を下げる」効果があるが「タバコ税収」には大きな影響はない

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 加熱式タバコの喫煙者が増えている。喫煙者を減らすための方法にはいろいろなものがあるが、増税による小売価格の上昇が効果的だ。

販売本数でも加熱式タバコが紙巻きタバコを補填

 タバコ関連疾患など、喫煙による健康被害を考えると加熱式タバコの喫煙者も紙巻きタバコと同様、減らす必要がある。加熱式タバコに対する課税は紙巻きタバコよりも低く、増税することが必要だろう。

 与党の税制改正大綱(令和6年度)によれば、タバコ製品に対し、1本3円相当の増税を予定しているとしているが、加熱式タバコを含む増税の時期は明らかにしておらず、税制改正の法律の附則で明らかにするとしている。

 タバコは値上げをしても売り上げは減らず、売上高が期待できる。実際、喫煙率が下がってきても、それを値上げ分が吸収し、タバコ税収はほとんど影響を受けていない。

売上げ本数が減っても税収には大きな変化はない。財務省「たばこ税等の税収と紙巻きたばこの販売数量の推移」より
売上げ本数が減っても税収には大きな変化はない。財務省「たばこ税等の税収と紙巻きたばこの販売数量の推移」より

 このグラフには、2017(平成29)年から加熱式タバコとリトルシガー(葉巻の一種で安価)の販売数量を紙巻きタバコのそれに加えた折れ線グラフが出現している。それをみると全体の販売数量もほぼ横ばいだ。

 紙巻きタバコの販売減を加熱式タバコやリトルシガーが補填している形になっているわけだが、日本たばこ協会の資料によれば2023年の加熱式タバコの販売数量が585億本(前年比112.1%)だったのに比べ、リトルシガーのそれは31億本(前年比70.5%)と1/10以下であり、補填しているのは圧倒的に加熱式タバコということになる。

低い加熱式タバコへのタバコ課税

 だが、現状の税額では、加熱式タバコは紙巻きタバコよりも低い。例えば、アイコス用テリアは20本で紙巻きタバコ15本相当、グロー用ケントは20本で紙巻きタバコ11本から14本相当、旧プルーム・テック用メビウスレギュラーが20本で10本相当で、紙巻きタバコに対する割合で1/2から3/4の税額だ。

 また、加熱式タバコは総じて紙巻きタバコより利益率が高い。加熱式タバコの純利益は、紙巻きタバコより4倍も多いという推計もある(※1)。

 このように税額やタバコ会社の儲けに加熱式タバコと紙巻きタバコで大きな幅があり、与党や財務省は加熱式タバコへの増税をもくろんでいる。一方、タバコ会社は加熱式タバコへの増税を阻止しようと、ロビー活動や広告宣伝を含むあの手この手で対策を講じているといった状況だ。

 だが、タバコや喫煙では、税収やビジネスだけでなく、国民の生命や健康、ウエルビーイングへの影響も重要となる。では、加熱式タバコの税率が紙巻きタバコより低いことに何か説得力のある理由があるのだろうか。

 加熱式タバコが従来の紙巻きタバコより健康への悪影響が低いという科学的なエビデンスはない。つまり、加熱式タバコも紙巻きタバコと同様、タバコ関連疾患の原因になり、国民の生命や健康などに悪影響をおよぼす製品ということになる。

加熱式タバコの増税はタバコ税収に影響しない

 紙巻きタバコ以外のタバコ製品について調べた研究によれば、加熱式タバコでも税率が上がって小売り価格が上がれば消費が減ることになる(※2)。これは世界15カ国、36の研究データを比較したものなので、日本における加熱式タバコの増税にも当てはまりそうだ。

 また、米国などの研究グループが、紙巻きタバコと加熱式タバコの両方が販売されている世界30カ国以上の情報を分析した研究によれば、加熱式タバコが紙巻きタバコに切り替わった場合、増税されて価格が上がれば消費が減少する、つまり喫煙率を下げる効果があることがわかっている(※3)。加熱式タバコの喫煙者のほうが価格の変化に敏感だからだ。

 このことからこれまでと同じように、加熱式タバコの喫煙率が下がったとしても、紙巻きタバコの増税と小売価格上昇によりタバコ税収には大きな変化はない。そして、タバコ増税による小売価格の上昇は喫煙率を下げる効果があり、それは国民の生命や健康を守ることにつながる。

 タバコ産業の中には「煙のない社会」などと標榜し、加熱式タバコへ完全に転換すると主張するタバコ会社もある。

 だが、タバコ会社はグローバル化し、世界中で紙巻きタバコを含む自社のタバコ製品を売り続けている。途上国では紙巻きタバコを売り、健康懸念の高い先進国では加熱式タバコを売るという戦略だ。

 例えば、JTI(日本たばこ産業)は依然として経済制裁対象国であるロシアでタバコを売り続け、莫大な利益を上げている。こうしたグローバル化したタバコ会社は、各国の政府へロビー活動をしてタバコ税制を骨抜きにしつつ、加熱式タバコへの切り換えなど、各国の喫煙者の傾向、小売価格、為替差益などを調整しながら多国間での利益移転をしている(※4)。

 日本のタバコ価格は、他国に比べるとまだまだ安い。1箱20本入りの標準的な紙巻きタバコの価格は、日本は600円前後だが、ドイツは約1200円、フランスは約1600円、オーストラリアは約3800円だ。

 日本でタバコにかけることのできる税率にはまだ伸びしろがある。今後の喫煙率の減少を考えれば、タバコ税の税収を担保し、国民の生命や健康を守るためには加熱式タバコに対して紙巻きタバコと同じ税率で課税すべきだろう。

※1:Estelle Dauchy, Ce Shang, "The pass-through of excise taxes to market prices of heated tobacco products (HTPs) and cigarettes: a cross-country analysis" The European Journal of Health Economics, Vol.24, 591-607, 23, July, 2022

※2:Mohammed Jawad, et al., "Price elasticity of demand of non-cigarette tobacco products: a systematic review and meta-analysis" Tobacco Control, Vol.27, Issue6, 23, January, 2018

※3:Estelle Dauchy, Ce Shang, "The price elasticity of heated tobacco and cigarette demand: Empirical evaluation across countries" Health Economics, doi.org/10.1002/hec.4888, 27. August, 2024

※4:Aaineb Danish Sheikh, et al., "Tobacco industry pricing strategies in response to excise tax policies: a systematic review" Tobacco Control, Vol.32, Issue2, 9, August, 2021

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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