「首長竜(プレシオサウルス)」はどう「泳いでいた」のか。ロボットを使って解明、東北大学などの研究
絶滅した生物がどのような生態だったのかを知ることは重要だが、恐竜の時代にいた水棲爬虫類の首長竜(プレシオサウルス)の泳ぎ方については長く論争が続いている。東北大学などの研究グループは、現生生物の動きを参考にした動きのシミュレーションを作り、それをロボットにさせてみて首長竜の泳ぎ方を復元した。
現生生物に当てはまらない首長竜の泳ぎ方
首長竜(Pliosauroidea:プリオサウルスとPlesiosauria:プレシオサウルスを含む総称。ここではプレシオサウルスをいう)は、海などの水中に棲んでいた爬虫類で、三畳紀の終わり頃(約1億8000万年前)に出現し、ジュラ紀、白亜紀(約6600万年前まで)を通じて繁栄した。ジュラ紀と白亜紀の首長竜の化石は、ほぼ全世界で発見されている(※1)。
首長竜の仲間の多くはゾウか小型のクジラくらいの大きさだったが、中には全長15メートルにもなる種(Liopleurodon)もいた。三畳紀末から白亜紀末までの約1億年という長い期間に成功した種で、ハクジラのシャチからヒゲクジラのミンククジラまで多様なクジラ類のように、ほかの海棲動物を狩る凶暴な捕食者からイカや海底の貝類をあさる温厚なものまで、多種多様なバリエーションを持っていた。
ただ、首長竜といえば、日本で初めて発見されたフタバスズキリュウ(Futabasaurus suzukii、エラスモサウルス科、白亜紀後期)が有名だ。また、ネス湖の未確認生物ネッシーのようなシルエット、つまり長い首と太い胴体、オールのような四つのヒレが一般的なイメージになるだろう。
首長竜は、四肢がウミガメのようなヒレ状になっており、そのヒレを動かして水中を進行したと考えられている。だが、どのようにヒレを動かしていたのかについては、19世紀半ば頃から研究者の間で論争が続いてきた。
なぜなら、首長竜のヒレの大きさや形はほとんど同じで、ウミガメのように前のヒレだけで推進力を生み出し、後ろのヒレは舵の役目をするような泳ぐ方法は適さない。また、水に潜る海鳥のペンギンのように翼を使って推進するタイプでも、ウミウやアヒルのように後ろ足の水かきで推進するタイプでもなく、現生水棲生物のどれにも当てはまらないからだ。
これまでの研究では、まずヒレをボートのオールのようなローイング運動で動かしていたという仮説が提唱されたが、それでは後方乱流が起きて非効率的で現実的ではないと批判された。次には、まだコンピュータが発達する前の化石の分析による解剖学的なアプローチにより、鳥が空中を飛行するような8の字を描く羽ばたき運動モデルが出された。
近年では、コンピュータ・シミュレーションによりウミガメのように前ヒレだけの推進が可能だったという説、前後のヒレを交互に上下動させて泳いでいたのではないかという推論、水中を飛行機のように滑空していたのではいかという説、首の長さ、速度、採餌行動などによってヒレの動かし方が異なっていたのではないか、というように様々な仮説が出ている(※2)。
首長竜の化石からは各ヒレの可動域が狭く、あまり自由に動かせなかったと考えられている。そのため、ヒレの形状を変化させて揚力を生み出して推進したのではないかという説もある(※3)。
ロボットに動作を復元させる
ただ、首長竜はすでに絶滅してしまった生物であり、どんな泳ぎ方をしていたのかは化石の骨格などから推論するしかない。そのため、首長竜の模型を作り、ロボット化してヒレの動きを分析するという方法が考え出され、その分析から首長竜は不安定な動きになり、捕食者から逃れやすかったのではないかという研究もある(※4)。
東北大学などの研究グループ(※5)は、ロボットに実際の生物が行っている動き(自律分散制御)を復元(ある動きを何らかの指標やアルゴリズムなどで構成すること)させ、首長竜が各ヒレをどう協調して動かしていたのかを調べ、絶滅生物の動きを復元するモデルを作ったことをオンライン・ジャーナルに発表した(※6)。
実際の生物の運動パターンは、脳からの指令だけでなく、熱い物に触れたときに手を引っ込めるように脊髄や四肢など各部位が局所的自律的に運動を制御している。ロボット工学の分野では、こうした生物学の知見を融合させ、実際の生物の動きを模した手法が開発されつつある。
同研究グループは、首長竜などの古生代の生物も現生生物と同じ運動制御をしていたのではないかと考えた。そして、従来のロボットではできなかった生物特有の柔軟な動きやその調整を復元するため、イヌやネコなど現生の四足性動物が歩き方や速度に応じて足並みを変えるように、同研究グループが開発した首長竜ロボットの四つのヒレが自律的に動作を制御(自律分散制御)を提案し、実際にヒレを動かしてみた。
その結果、首長竜ロボットはヒレの羽ばたき周期や携帯の変化に呼応した前後のヒレの間の協調パターンを復元でき、提案された制御手法によって前のヒレの羽ばたきで生じた水の渦の列を後ろのヒレが後方への推進力に活用していることがわかった。また、羽ばたき周期や前後のヒレの間隔を変えても前後のヒレの動きの協調パターンが柔軟に調整され、状況が変化しても高い推進力の泳ぎが実現した。
同研究グループは、絶滅した古生物でこうした柔軟な動きを復元したのは世界初という。今後、首長竜だけではく他の古生物の運動を復元できる可能性があり、ロボット工学への応用も期待できるとしている。
※1:N Bardet, et al., "Mesozoic marine reptile palaeobiogeography in response to drifting plates" Gondwana Research, Vol.26, 869-887, 3, June, 2014
※2-1:Shiqiu Liu, et al., "Computer Simulations Imply Forelimb-Dominated Underwater Flight in Plesiosaurs" PLOS COMPUTATIONAL BIOLOGY, doi.org/10.1371/journal.pcbi.1004605, 18, December, 2015
※2-2:Anna Krahl, "The locomotory apparatus and paraxial swimming in fossil and living marine reptiles: comparing Nothosauroidea, Plesiosauria, and Chelonioidea" PalZ, Vol.95, 483-501, 1, June, 2021
※2-3:Ali Pourfarzan, et al., "Fluid dynamics, scaling laws and plesiosaur locomotion" Bioinspiration & Biomimetics, Vol.17, 056007, 10, August, 2022
※3:Anna Krahl, Ingmar Werneburg, "Deep-time invention and hydrodynamic convergences through amniote flipper evolution" The Anatomical Record, Vol.306, Issue6, 1323-1355, June, 2023
※4:Luke E. Muscutt, et al., "The four-flipper swimming method of plesiosaurs enabled efficient and effective locomotion", Proceedings of the Royal Society, Vol.284, Issue1861, 30, August, 2017
※5:東北大学電気通信研究所の佐藤光暁、小川久介大学院生(当時)、福原洸助教、石黒章夫教授、神奈川大学の佐藤たまき教授、マンチェスター大学のWilliam Sellers教授らの研究グループ
※6:Akira Fukuhara, et al., "Rethinking the four-wing problem in plesiosaur swimming using bio-inspired decentralized control" scientific reports, 14, Article number: 25333, 28. October, 2024