これまで公開されてきた北朝鮮の極超音速兵器はウェーブライダー形状の滑空体を持つ「火星8」と、アメリカのパーシングⅡ機動式弾道ミサイルの弾頭によく似た二段円錐形（Bi-conic）の滑空体を持つ「極超音速ミサイル（正式名称は未発表）」の2種類でした。このうち開発試験が順調に進んでいるのは後者の「極超音速ミサイル」です。一方で先進的なウェーブライダー形状を持つ火星8は予備的試験に止まり、まだ全力性能発揮試験は行えていません。

　そして7月27日の軍事パレードに登場した極超音速兵器は、火星8に似てはいましたが細部が異なっていました。しかもパレード公開の前日に公開された「武装装備展示会2023」の室内展示でミサイルの前に置かれていた説明ボードには、「火星12B」を意味する朝鮮語「화성-12나」と書かれてあったのです。

火星12나（火星12ナ、火星12B）

지상대지상중장거리극초음속미싸일 《화성-12나》형

• 지상대지상중장거리극초음속미싸일 《화성-12나》형
• Surface-to-surface Intermediate-range Hypersonic Missile ”Hwasong-12Na”
• 地対地中長距離極超音速ミサイル「火星-12ナ」型

　単なる名称のみの変更ではなく極超音速滑空体の形状が火星8から変更されており、火星12Bという別種のミサイルが登場したことになります。

火星12B（2023年）と火星8（2021年）の比較

　2023年7月に平壌で開催された「武装装備展示会2023」で展示された火星12Bと、2021年10月に開催された国防発展展覧会「自衛2021」で展示された火星8との比較です。

• 操舵翼・・・火星12Bは三角形だが、火星8は先端カットされた台形
• 胴体下面・・・火星12Bはお腹がふくらんでいるが、火星8は真っ平
• 胴体側面・・・火星12Bは段差が付いたラインだが、火星8は滑らか

　なお2023年7月27日のパレードに登場した車両は火星12Bであり、火星8ではありませんでした。操舵翼が尖っており三角形であることが確認できます。

　おそらく火星12Bはその名の通り火星12中距離弾道ミサイルのロケット部分をブースターとして利用したもので、元となった火星12よりも燃料タンクが短くなっており、代わりに大きな滑空体を装着していると推定されます。火星12の滑空弾頭型が火星12Bだということになります。

　しかし、それでは火星8とは一体何だったのでしょうか？　火星8と火星12Bを比べると滑空体の細かい設計変更があるのは分かります。ですがブースターの長さや直径は一見しただけでは変更されているようには見えません。

　火星8とは試作ミサイルの名称であり、改修を行った実戦配備型の名称を火星12Bとしたのでしょうか？　ですが火星8は2021年9月の予備的試験で僅か200km未満の飛距離しか発揮しておらず、これ以外の発射試験は行っていません。火星12Bの形態では発射試験はまだ行っていません。これでは実戦配備できる状態ではない筈です。

　現状では不明な点が多く、判明しているのは北朝鮮でウェーブライダー形状の滑空体を持つ2種類目のミサイル（北朝鮮の極超音速滑空ミサイル全体としては3種類目）、新型の「火星12B」が登場したということだけになります。

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