北朝鮮の極超音速兵器「火星8」は6軸12輪移動発射機
北朝鮮の平壌で10月11日から開幕した兵器展示会「自衛2021」では、9月28日に試射したばかりの極超音速滑空ミサイル「火星8」が早速展示されています。この展示品の公開写真と試射時の公開写真を見比べながら分析していきます。
「火星8」極超音速滑空体の比較:展示品と試射時
展示会「自衛2021」の公開映像からは火星8の真横に近いアングルからの映像はほとんど見当たらず、なるべく真横に近い映像は一部が見切れています。
試験発射時の火星8の写真は垂直上昇時を遠方から撮影したものなので、近くから撮影した展示会の映像とは厳密には同じアングルとはなりません。
それでもできるだけ近いアングルでの映像で比較してみましたが、試験用の塗装の塗り分け、機首の角度、胴体の直径や長さの比率、どの要素も同じだと判定できます。
「火星8」極超音速滑空体の操舵翼は4枚
展示品の火星8の映像から、弾頭である極超音速滑空体の操舵翼が上下左右に装着された4枚であることが分かります。
胴体上と左右の操舵翼は胴体色と同一で、胴体下の操舵翼のみ真っ黒に見えます。ただし別のアングルからの映像では胴体下の操舵翼も胴体色と同じ塗装色に見えるので、この映像は光の当たり具合で陰に入った部分の色が濃く見えているだけのようです。
「火星8」極超音速滑空体の下面は真っ平な形状
火星8の極超音速滑空体は円錐形ではなく、下面は真っ平らな形状のリフティングボディを持つウェーブライダーです。胴体そのもので揚力を生み出し滑空を可能にします。
「火星8」極超音速滑空体の正面
火星8の極超音速滑空体を正面から見ると、円錐形の下側をカットして縁の部分を伸ばして広げたような形になっています。
この極超音速滑空体の胴体形状と操舵翼4枚という構成は中国の「DF-17」極超音速滑空ミサイルとよく似ています。ただしDF-17の極超音速滑空体の方が細長く、火星8は太短い比率になっています。
「火星8」TEL(輸送起立発射機)は6軸12輪
兵器展示会「自衛2021」の公開映像からは、火星8のTEL(輸送起立発射機)を真横から見てタイヤの数を全て同時に確認できるアングルの映像が無かったので、複数のアングルからの映像を比較して見ながらタイヤの数を判定します。その結果、6軸12輪の車両であることが確認できました。
北朝鮮で6軸12輪のTELはムスダンおよび火星12という中距離弾道ミサイルで使用されていた形式です。ただし火星8のTELは、ムスダンや火星12のものとは運転席の形状が異なっていました。
「火星12」と「火星8」のTELを比較
火星12と火星8のTELを比較して見ると、火星12のTELを改造して火星8用にした痕跡が見て取れます。既存の車両を改造したのか、あるいは改設計した車両を新造したのか。火星8は試験中で量産前なので、おそらくは車両は改造だろうと思われます。
改造の意図としては、従来のTELは各座席が分離していたのを繋げて搭乗者同士の意思疎通を容易にしたかったのかもしれません。車両内の有線電話もあるのでしょうが、直接話せた方がよいのでしょう。
従来の設計で座席が分離していたのは「エンジン搭載スペースを中央に確保」「ミサイルを搭載するクリアランスの確保」などの利点もありますが、高性能でより小型のエンジンを用意できれば解決できる要素です。
液体燃料ロケットエンジン(バーニア付き)
火星8のロケットエンジンは噴射の特徴から液体燃料式で、主ロケットの太い噴射の他に姿勢制御用のバーニアの細い噴射も見えます。
火星8はこれと同じ特徴を持つ火星12をロケットブースターとして流用している可能性が濃厚です。TELの大きさが同じという点からも裏付けられます。おそらく火星8の大きな極超音速滑空体に合わせて燃料タンクの長さは短く変更されているはずです。
極超音速滑空体+液体燃料1段ロケット(火星12を流用)、6軸12輪TEL
火星8の構成はこのようになります。火星8が本来の性能を発揮すれば中距離級の射程を持ち、日本どころかグアムまで射程圏内に収めてしまいます。
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