北朝鮮の極超音速滑空ミサイル「火星8」を写真分析
北朝鮮は9月29日に、その前日に極超音速滑空ミサイル「火星8」を発射試験したと発表しました。発表された写真は1枚きりでしたが、ここではその火星8の写真から可能なかぎり分析していきます。
関連:北朝鮮が極超音速滑空ミサイル「火星8」を発射試験(2021年9月29日)
火星8の写真を明度を上げて分析
※橙色の枠内の細長い突出部分は電気配線管(cable raceway)
北朝鮮の火星8の発表写真は暗く細部が不明だったので、先ずは明度を上げて判別がしやすいようにします。部品の構成は以下の通りです。
- 極超音速滑空弾頭(ブースター燃焼終了後に切り離す)
- ブースター(液体燃料、推進ロケットはこの1段のみ)
極超音速滑空ミサイルは弾道ミサイル流用のブースター+滑空弾頭の構成を持つ兵器です。飛行軌道は弾道を描かないので弾道ミサイルではありませんが、部品構成上は弾道ミサイルの派生です。
火星8の写真の明度を上げると、試験時に視認しやすいように塗装の塗り分けがされていることが分かります。滑空弾頭のはっきりとした塗り分けで輪郭が判明しますし、ブースターも上部の接合部と下部のエンジン部で線が引かれているので燃料タンク部分が分かります。
滑空弾頭は円錐形ではなく三角形断面(推定)
火星8の滑空弾頭は塗装の塗り分けから読み取れる輪郭からウェーブライダー形状であり、円錐ではなく三角形断面に近い形状をしている可能性が高いと思われます。
極超音速滑空弾頭は宇宙空間から大気の層に降りて来た時にプルアップ(機首上げ)して再上昇、暫くしてまた降りて来た時に再上昇と繰り返しながら飛んで行きますが、その際に機体の三角形断面の広い部分を下にして大気の上層を跳ねるように滑空しながら飛んで行きます。
参考までに中国の極超音速滑空ミサイル「DF-17」も胴体が三角形断面で操舵翼4枚という構成です。なお操舵翼3枚でも操縦は可能です。
ブースター(推進ロケット部分はこの1段のみ)
ブースター部分です。写真の明度を上げると分かりますが、接合部とエンジン部の境界に線が引かれています。この線の引かれている間が液体燃料のタンクがある部分です。
【液体燃料】推進剤:非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)+ 酸化剤:四酸化二窒素(NTO) ※推定
外部の側面に細長く突出している部分は既に説明した通り、電気配線管(cable raceway)になります。電気配線管は途切れが無く、1段分であることがわかります。
液体燃料ロケットエンジン(バーニア付き)
火星8のロケットエンジンは噴射の特徴から液体燃料式と断定できます。そして主ロケットの太い噴射の他に姿勢制御用のバーニアの細い噴射も見えます。
つまりこれはスカッド系の液体燃料ロケットエンジン(バーニアを持たず推力偏向ベーンで姿勢制御を行う)ではなく、ムスダン以降のバーニアを持つ火星12中距離弾道ミサイルや火星14長距離弾道ミサイルの液体燃料ロケットエンジンの特徴を持ちます。
ムスダンはバーニア2つ、火星12と火星14はバーニア4つです。分かり難いですが火星8はバーニア4つであるように見えます。ムスダンは試験成績が悪くおそらく失敗作扱いされている点からも、ムスダンの流用は考え難いでしょう。バーニアを持つ液体燃料ロケットエンジンで小型のものを新開発するとは考え難く、火星8は既存の火星12ないし火星14の液体燃料ロケットエンジンを流用している可能性が高いと考えられます。
つまり火星8極超音速滑空ミサイルは中長距離級のかなり大きなミサイルであるということになります。
2021年10月13日追記:兵器展示会で公開
2021年10月11日から平壌で開幕した兵器展示会「自衛2021」で火星8が登場しました。滑空弾頭は下面が平らで、円錐ではないウェーブライダー形状です。操舵翼は4枚が確認できました。
また複数のアングルからの映像を照らし合わせて確認した結果、火星8のTELは6軸12輪型(ムスダンおよび火星12で使われたもの)と判明しました。ただし運転席の形状を火星14のTELに近い形状に変更されてあるようです。
このことからブースターのロケット部分は火星12の転用が濃厚になりました。