弱点だらけの菅政権に「ジャパン・ハンドラー」が狙いを定めた
フーテン老人世直し録(570)
弥生某日
菅総理大臣は16日、新宿区内の医療機関で新型コロナウイルスワクチンの1回目の接種を行った。4月前半に米国で行われるバイデン大統領との初の対面会談に備えての措置である。
日本政府は、バイデン大統領が初の対面会談の相手に、欧州やカナダの首脳ではなく日本の菅総理を選んだことを、日米同盟重視の表れと強調して自慢ありげに言うが、それが喜ぶべきことかどうかは別の話である。
また16日には、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官と茂木外務大臣、岸防衛大臣の日米2プラス2会談が開催され、中国を名指しで批判すると同時に、日米同盟の強固さをアピールした。こちらもバイデン政権誕生後、国務長官、国防長官の初の外遊先として日本を選んだことを喜ぶべきかは別の話だ。
米国政治を見てきたフーテンの目には、トランプ政権に排除された「ジャパン・ハンドラー」がバイデン政権の誕生と共に再び復活した証に見える。「ジャパン・ハンドラー」とは、日本の政府や社会の弱点を知り抜いていて、表で日本を喜ばせながら、裏で日本を操り、米国への従属度を高める作業を行う面々を言う。
代表格はハーバード大学のジョセフ・ナイ教授である。彼は軍事力や資源力などの「ハード・パワー」に対し、政治力や文化力など「ソフト・パワー」の重要性を説いた学者だが、冷戦が終わって日米安保体制の見直しが迫られた時、クリントン政権の国防次官補として東アジアに10万の米軍配備が必要との報告書を提出、日米防衛協力強化を訴えた。
冷戦が終われば、それまでの体制を根底から見直すことは、国家がやらなければならない基本中の基本である。米国ではソ連崩壊に伴い地球規模での米軍再編や、情報収集活動強化を巡り、連邦議会で侃々諤々の議論を3年間ほど続けた。
ところが日本では、仮想敵国ソ連が崩壊したにもかかわらず、自衛隊の配備についても、日米安保体制の見直しについても、まるで何も議論しないまま、橋本龍太郎政権は「ジャパン・ハンドラー」から示された「安保再定義」を受け入れた。日本人は冷戦が終われば平和がやって来るという妄想をひたすら信じていたからである。
そしてナイ教授は、同じく「ジャパン・ハンドラー」のリチャード・アーミテージ元国務副長官と共同で報告書を執筆し、日本政府に憲法の解釈を変えて集団的自衛権を認めるよう促し、安倍政権に安保法制の見直しを実現させた。自衛隊は世界のどこでも米軍と共に戦う可能性が出てきた。
「ジャパン・ハンドラー」の一人であるカート・キャンベル元国務次官補は、バイデン政権の誕生で「インド太平洋調整官」という新ポストに就いた。従ってバイデン政権の対日政策には「ジャパン・ハンドラー」の考えが色濃く反映されることになる。そのキャンベル氏は「尖閣諸島への日米安保条約第5条適用」を最初に言い出した人物である。
そもそも米国は他国の領土問題には関わらないのが基本である。尖閣諸島の領有権を巡り、台湾、中国、日本の間で帰属が争われる問題で、クリントン政権時のウォルター・モンデール駐日大使は、「尖閣諸島の帰属を巡って国際紛争が起きた場合、日米安保は発動しない」と発言した。
それは米国の本音だと思うが、米国が日本を守ってくれると信ずる日本国民は深く失望した。日本国民の失望を見て、オバマ政権時代にキャンベル国務次官補は、議会証言で微妙な言い方に変える。「尖閣諸島の主権について米国は特定の立場を取らないが、日本が施政権を維持していれば、日米安保条約第5条の対象であることは明確である」と発言したのだ。
日米安保条約第5条では、日本の領土が武力攻撃を受けた場合、米国は自国の平和と安全が危うくなると認識して、共通の危険に対処するため行動するとしている。しかしキャンベル氏の発言は、日本が施政権を維持していればという条件付きで、尖閣諸島が第5条の適用範囲に入ると言っているだけだ。
米国の平和と安全が危機に瀕するから行動を起こすとまでは言っていない。仮に突然尖閣諸島に他国の軍隊が上陸し、占領されたらどうなるか。施政権を維持できていないから第5条の適用範囲には入らないと解釈される恐れはないのか。
しかしキャンベル発言で日本人は失望を期待に変えた。さらにオバマ大統領が同じ発言を繰り返したことで胸をなでおろす。それからは政権が代わる度、その発言を確認することが日本側の仕事になった。
しかし自分の領土を他国にすがって守ってもらうというのは情けない話で日本の弱点である。「ジャパン・ハンドラー」はそれを知っていていろいろな仕掛けをしてくる。菅総理がバイデン大統領と最初に電話会談をした直後、菅総理は「こちらから何も言っていないのに、バイデン大統領が尖閣への5条適用に言及した」と興奮気味に語った。
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